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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第19回)

はじまりの月4日

『あの山を登れば、海が見える』 
 誰の文章だっけか? むかし国語の教科書で読んだ気がするんだけど、誰の書いた文章だか全然思い出せない。
 ただ、内容は漠然と覚えていて、海を見たくて山を登って、でも山の向こうに海はなくて、結局次の山、次の山と何個もの山を越える、そんな話だったと思う。今の俺がそれだ。クソッタレめ!

 いや、メロが言ってたことがおかしかったんだとは思わない。たぶん山道を越えたら、きっと大きな木が見えるんだろう。その木はかなり大きな木で、見落とすことはないともメロは言ってた。
 どんな大きさなのか? 伝説に聞く『世界樹』とやらでもあるんだろうか? もしくは、校庭の裏にあって、その下で結ばれたカップルは永遠の愛がどうたらとかいう『伝説の樹』とかかな? あ、それはそんなに大きくないか。ま、冗談でも書いてないと気が紛れない。なんせ、黙々と山道を登ったり下ったりしてるわけで。
 要は、一向に山道が終わる気配がないということですよ。このまま永遠に山道だったらどうしよう。

 ・・・これ書いてる最中に、びっくりするものを見た。サリサだ。でも、ただのサリサじゃない。空飛ぶサリサだ。
 いや、サリサが鳥なのは知ってたよ。でも、ほらちょうど、俺らの世界でちょっと前に絶滅したダチョウって鳥みたいに、人を乗せて地上を歩くもんだと思ってたわけよ。あれ? ダチョウって人を乗せたりするんだっけ? 俺は実物見たことないもんな。生まれた頃にはもういなかったし。
 でも、今しがた飛んでったアレは、その大きさといい、テカテカした黄緑の独特な体色といい、もう間違いなくサリサだった。
 岩陰に腰を下ろして日記を書いてたら、俺の行く先からおそらくゼビルのほうへ飛んでいった。こんだけ旅をしてて初めて目にするんだから、空飛ぶサリサはきっとこの世界でも珍しい存在なんじゃないだろうか? いやー、びっくりしたなぁ。
 で、更にびっくりすることに、いや、もしかしたら見間違えなのかもしれないけど、そのサリサ、人が乗ってたような気がするんだよね。もしかして、『王国』から飛んできたのかな? ってことは、乗ってた人は『王国人』ってことなのかな? いや、ほんとチラッと見ただけだから、本当に人が乗ってたかどうかも微妙なんだけどね。

 でも、あっちから飛んできたってことは、目的地がそっちにあると見て間違いないんじゃないか?

 なんだか、ちょっとだけ元気が出てきた。今日はもうここで休もうかと思ってたけど、せめて夜が更けるまで歩き続けることにしよう・・・そういえば、さっきの小説のラストシーンは『海鳥の羽を拾った少年は、海が近いことを感じ、挫折感を乗り越えて再び歩き出す』って感じの内容だったような。ハハハ、俺と一緒だ!



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)