【連載小説】聖ポトロの巡礼(第1回)
貝の月10日
書いとかなきゃ忘れちまうだろう。何せこっちに来てもうどのぐらい経つのか。すっかりこの異世界の住人に成り下がっちまった感はある。
いや、あちらさんにとっては俺のほうがよっぽと異世界の住人なんだろうけど。
ともかく、俺の身に起こってることをきちんと書き残しとかないと、俺自身、元の世界のことを忘れちまうかもしれない。そんなわけで、とりあえず日記をつけることにした。この日記がなんかの役に立つかなんて皆目見当も付かないけど。
ま、自分の役に立てばそれでいい、日記なんてもともとそういうもんだ。
いや何せ今日は暑い。
ピトの町を旅立ってもう1カーマ過ぎた訳だけど、一向に王国とやらに到着する気配がない。いったいどのくらい旅すればいいのか。
大体なんで徒歩なんだ。せめて自転車でもあれば、ほとんどが平坦な道のりなんだからそんなに時間かかることもないのに。
ま、俺みたいなどこの馬の骨とも知らん異邦人に、サリサを提供してくれるようなお人よしなんぞ、元の世界だろうとこっちだろうと、そうそういるわけでもない。
しかしまあ、ラピと爺さんにだけは感謝しなければと思う。いや、彼らがいなかったら俺、きっと死んでた。
ラピはこの世界や言葉について色々教えてくれたし、何より、俺がこことは違う世界の人間であることを信じてくれた。
爺さんも、世界のしきたりとかそういうのを色々教えてくれたし(とはいえ、言葉もまだちゃんと分かってないし、理解できたのは、たまに出現する俺みたいな異世界人(彼らはポトロって呼んでるようだ。どうやら同じ境遇の人間が、他にもいるらしい)は、まず王国にいるロヌーヌっていう人に会わなくちゃいけないってことくらいだけど)、あと旅に必要な食糧やお金なんかも用意してくれたし。
この旅が終わったら、何か王国の土産もんでも持って帰ってやろう。このじりじり暑いカンカン照りを乗り越えられたら、の話だが。
お昼過ぎまで歩いて、暑さに限界を感じたので、木の下で休憩することにした。日陰に入ると暑さもいくらか和らぐ。
ラピにもらったここの服は、割とゆったりしてて洋服よりずっと涼しい。そういえば俺が着てた服、ラピの家に預けっぱなしだよな、多分。こんな事になるのが分かってたら、もっとマシなかっこうして家を出たんだけどな。
ま、いいや。
このまま歩いて、王国まであとどのくらいかかるんだろうか。はぁ。学生時代にもっと運動とかやっとくんだった。
「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)