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【連載小説】聖ポトロの巡礼(第2回)

貝の月16日

いい加減やんなってきた。いつになったら着くんだ。

とはいえ、ここは道すがら立ち寄った小さな集落の民宿だから、昨日までの野宿生活よりは全然マシだが。ま、気候がいいから野宿でも全然苦にはならないんだけど(蚊みたいな変な害虫もほとんどいないみたい)、そろそろちゃんと寝床で寝てみたいと思ってた。渡りに船ってやつだ。

今日は集落の人々に、片言のサバラバ語で王国のことを聞いてみたけど、どうもまだちゃんと言葉が理解できない部分が多くて、理解できたのは「まだしばらくかかる」「歩いていくと疲れる」くらいの内容だけだ。

はっきり言って、聞くんじゃなかったと思う。

まだまだ歩かなければならないらしい。靴がスニーカーだったのは唯一ラッキーだった。あの日、革靴で外出してたら今頃どうなってたか。



もうすぐ日が暮れる。

窓越しに見ると、遠くの山際が少しずつオレンジ色になっていく。深緑の山々が少しずつ黒く変わっていく。その上を、渡り鳥か何かの群れが一列になって飛び去っていく。

そういう様子は、俺たちの世界にすごくよく似てる。変な形や色の木とか植物とかはあまり見ない。ま、もともと植物や動物なんかに詳しいわけでもないけど。ただ、俺たちの世界にあったとしても、それらはきっと何の違和感もないだろう、ってことぐらいなら分かるように思う。

だけど、考えてみると、こんなのどかな風景を俺たちの世界で見ることなんてもうあまりないのかもしれない。

世界中で洋上人工都市が乱立する時代だ。金持ちはこぞってそこに集まって、ほんでもって俺達みたいなクズは、ガスまみれのダウンタウンに掃き溜められてる。だから、今見てるような景色も今や、金持ち向けの『田舎』がウリのアミューズメント施設ぐらいでしか、お目にかかれないかもしれない。あと、昔の映画とか。

このサバラバって呼ばれる世界はもしかしたら、俺たちが無くしてしまったものをまだいっぱい持っているのではなかろうか。

ただ、ハンバーガーショップがないのが痛い、俺的には。



金に余裕があれば、この何もない集落にのんびり何日か滞在したいところだが、この先どのくらいかかるか分からない徒歩の旅だ。無駄金を使っている余裕はないだろう。とりあえず王国とやらに急いで、そこで金が余っていたら少しのんびりさせてもらおう。

でももし余るどころかなくなっていたら・・・なにかバイトの口でも探さないとな。王国にはハンバーガー屋はあるだろうか・・・。



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)