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左足が動かない

愛犬の左後ろ足が、動かなくなってきた。

1年半くらい前から調子が悪く、ずっと薬を飲んでいた。
ダックスフンドにありがちな、椎間板ヘルニアだ。
薬で良くなった時期もあったが、最近は立っていてもスーッと滑って、ペタンと尻餅をついてしまうことが多くなった。
その姿を目撃されると、きまりが悪いのか、目をそらして小っ恥ずかしそうな顔をする。

「もう力が入らないのか……」

そう言いながら足や腰をなでると、なでている手をペロペロとなめてくる。

(何でだろう。動かないよ?)

自分の身体の異変を不思議に思いつつも、その理由を知る由もない。
無邪気な姿が、余計に悲しい。
そんな私をよそに、愛犬は毎日楽しそうに生きている。

* * * * *

これは偶然なのか、それとも何か意味があるのか。
祖母も、左足が動かない。
10年ほど前から車椅子生活を送っている。
歩けなくなった祖母は、一度も「歩きたい」と言ったことがない。
祖母と愛犬は似ている。二人とも悲観しない。
いや、周りを悲しませたくないのだろう。
その姿に、どれだけ家族は救われているか。

介護施設で暮らす祖母とは、コロナのせいで、もう1年半も会えていない。
スタッフから「衰えてきています」とは聞いていたものの、Web面会で顔を見る限りは、以前とそんなに変わりないように見えた。
が、久しぶりに食事の様子の録画を見せてもらい、愕然とした。

10年以上、毎週面会に行っていると、同じ部屋で過ごす入所者の方の変化に“段階”があることに気づく。
人生の終わりに近づく道すじ、とでも言うのか。

「あのおばあちゃん、食べる動作が明らかに衰えたし、表情もなくなったな……」

そう感じ取った方は、大体いちばん最初に部屋のメンバーから抜けていく。

私が祖母の動画を見たときに感じたのは、まさにその感情だった。
今年で93歳。身内のことは、いつまでも若いと思ってしまうが、客観的に見ればかなり高齢だ。
旅立ちのための切符は、そろそろ用意されているのかもしれない。

* * * * *

高齢と言えば、愛犬も今年で16歳。
すでに平均寿命を超えている。
そう遠くない未来に、お別れの時が来るだろう。

祖母と愛犬。
2つの喪失に、私は耐えられるだろうか。
不謹慎かもしれないけれど、今から心の準備をしておかなければ。

どんなに備えがあっても、私はきっと憂うけれど。

さぁ、悲観してないで、今を一生懸命生きる二人を見習おう。

#エッセイ  #短編 #喪失 #高齢者 #犬 #旅立ち #介護 #ペット

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