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僕の名前はタイニイバブルス

プロローグ☞それはとても暑い真夏の炎天下だった

僕が彼女と出会ったのは暑い盛りの真夏の真昼間。猟師がかけた箱罠に入ってしまった僕は最悪の状況の中での出会いだった。彼女は僕が入った籠ごとそいつから奪った。
彼女の家に来て半日警戒して隅に肩を寄せ壁にもたれて不貞腐れた。夜には部屋の隅々まで探索を始め、その日の深夜、翌朝彼女が目覚めたときに(ここどこだっけ?)と一瞬?が浮かぶほどに部屋を荒した。

涼しいけれど白い壁に囲まれた部屋の中で、だんだん状況が掴めてきて恐る恐る歩き回るようになった僕に、彼女は顔を地面すれすれの僕の目線まで近づけてからこう言った。
「今はあんまり贅沢はさせてやれないけれど、精一杯のことはするからうちの副社長兼広報をしてくれない」
僕は広報の意味は分からなかったけれど嫌な感じはしなかったから、つい反応して『ニャン』と鳴いたら彼女から「ありがとう。一緒に頑張ろうぜ」と、水っぽい美味しいのを食べさせてもらった。目が飛び出るほど美味しかった。それはのちに知るちゅーるというやつだった。とても美味しかったし今でも僕の大好物。
その時の彼女は、人生で2番目のピンチに陥っていて財政難でもあったこともあとから知った。だけど僕たち(母と兄弟もいた)が家の庭にちらつくのが邪魔という勝手な理由で有害鳥獣駆除の隊員といえど捕獲対象外である猫を捕まえるために箱罠を仕込み、己の身勝手な理由で僕を殺そうとしていた残酷かつ冷酷極まりないモラルがない猟師から僕を奪って家に連れてきた。大家さんに掛け合い、長年の無理な労働とそこにくるまでの劣悪な生活環境がたたって痛めてしまった腰を杖で支えながら、ホームセンターで不足がないようにと様々なものを買い込み与えてくれた。僕にはそれだけの価値があるのだと何度もほめ殺し、僕が持ってきてしまっていたらしいノミに彼女はしばらくやられて痒い痒いと皮膚をボリボリやりながらも、無理やりシャンプーすることもなく、僕の気持ちが落ち着くのを彼女はひたすら待ってくれた。
 
細っこかった僕も気づけば一時は肥満すれすれまで大きくなり、彼女は寸前まで(自分のエゴなんじゃないか)と悩みに悩んだようだけど去勢もした。すっかり大人♂になった。この家に来たばかりの頃は、片方の手のひらで掴めた体も、今では両手じゃないと重いらしいけれど可愛いは正義だからok。
 
僕はこの『山の麓』で生まれてノラをしていたわけだけど、彼女はそうではない。潮の匂いが漂う海のある街で育ち、ハイヒールを履いて満員電車に乗る生活から一遍『山の麓』にやってきたのだけど、僕からはそうは見えない。うん、街も感じないし都会風でもない。だって彼女はいつも泥のついた長靴で大体がジャージや作業着のような服で、唯一可愛いのはパジャマくらい。帰宅した彼女の体からは、色々な外の自然の匂いが充満している。
それと出かけるときによく『鍵付きのロッカー』から銃を取り出しケースに閉まって大事そうに持っていく。しばらくして帰ってくると、すぐにまた『鍵付きのロッカー』に大事そうにしまい込む。その日のうちにまた!『鍵付きのロッカー』から取り出してはタオルで拭いたり構えてみたり、素足に落として「痛い!」と叫んでいたり。よくわからないけれど『鍵付きのロッカー』をよく開け閉めしているから、そんなとき、僕は銃のケースの中に座り込み半分目を開けて観察している。

僕の猫生は始まったばかりだけど、彼女の人生は僕よりは長い。
だからって、僕に銃や狩猟のことを話してくれるな。ナンセンス。だって僕は猫だから鼠もちゃんと狩っていた。鼠を捕るから猫。蛇をとるのはヘこ。そして鳥を捕るのはとこ。それがこの『山の麓』での猫の言われなんだ。
断言してもいい。僕と彼女なら〝断然〟僕の方がセンスがある。
ただ、そうやって彼女を下に見つつも、僕は彼女を信頼している。彼女も僕を信頼してくれている。僕たちは絶対的な信頼関係があって、お互いに役割を担っている。僕の役割は日々可愛くあることと部屋の安全と留守を守ること。それに関して僕は抜け目なくやり切り、彼女の足音と郵便配達員やヤマトなどの彼女以外の足音を聞き分け、彼女が帰ってくると24時間玄関まで迎えに行く。それは決して新しいエサが欲しいから、ではない。


つきましては☞

僕は広報部長として彼女やその他諸々の『山の麓』での奇人変人な主要関係者のことを肉球で打ち込んでいくのでどうか優しく見守り応援してほしい。都会のネオンに若干今後への迷いが生じているギャル、ネットサーフィンで辿り着いた夢追い人、はたまは狩猟に興味がある挑戦者、昼間から銀座のモンベルで自然に癒されているサラリーマン。そして銃が好きだ、興味があるという奇人変人もみんなここを通じて体感してほしい。この『山の麓』での日常を。
そうそう。僕の名前の由来は、彼女がサザンオールスターズのファンだから。僕を一目見て「これはタイニイバブルスだ」と呟き、その名前を何度も口に出したあと「少し長いけれどタイニイがミドルネームってことで」と。とにかくそこから僕はバブになった。出会いってわからないものだけど、僕は寒くなってきた『山の麓』のとある家でぬくぬくと暮らしている。

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