人間不信が恋をしようとしている途中経過

初めまして。そう言って微笑みながら近づいてきたその人は、それまでしていたメッセージのやりとりから想像していたほどチャラい軽薄なお兄さんではありませんでした。むしろそれより少し落ち着いた、可愛げのある小柄なお兄さんでした。

最初に私がこの人と気が合うと思ってしまったのはいつだったでしょう。

確かまだあったこともなくメッセージを重ねていた時期だったと思います。私は彼は遊び目的であるという疑いしか持っていなくて、少しマメ過ぎる返信の速度に引いていた時でもありました。ちゃんと仕事をしている人なのか、こうやって何人もの女と連絡を取り続けているのだろうかと、遊び人は怖いと感心したものです。

そんな中で、好きな芸能人を聞かれた時のこと。私には好きな芸能人と言えるほどの人はおらず、エンタメに疎いことをその時にも隠さずに言いました。そうしたらその人も日本のエンタメはほとんど知らないと言ったのです。実際に洋画ばかり見る人のようで、いつもこういう手の話で乗り切れなくなってしまう私は妙にほっとしたことを覚えています。

次にその人をなんだか信用してしまった瞬間は、レストランでメニューを選んでいる時でした。食べられないものを聞いた時、パクチーと牡蠣と…と話し始めた彼を見て、驚いて興奮気味に私も話し始めてしまいました。だって私も、嫌いな食べ物を聞かれたら必ずその順番で答えるんです。パクチーと、生牡蠣と、レバーと言います。そんなことかと笑われそうなことですが、私はその時、彼と近づいた気がしてしまいました。

こんなふうに話すと、ちょろい女だと思われるかもしれません。いや、実際にそうなのでしょう。私は今までにちょろくなかったことなんてありませんでした。押しには弱いし、頼まれたら断れないし、かっこいい人にも弱い。でもそんな私だからこそ、アプリでは死ぬほど理屈っぽく人を見ていたはずでした。

そもそも女慣れしている顔がそこそこいい人は、全員遊びだと思ってきました。だって、なんでアプリをしているのか不明。そこらへんで女子なんていっぱい捕まえられるでしょ、と思う。もし遊びでないのなら、恋人や結婚相手として重大な欠陥があると思いました。

・実家ずみで生活能力が皆無
・マザコン
・金銭感覚の欠如
・ギャンブル癖
・酒を飲むと豹変する
・女癖が死ぬほど悪い
・声がとんでも無く高い
・写真が偽り

こういう欠陥予想を親友に送って自分を戒めながら、デートの準備をします。第一、もはや遊びを経験してきた私にとって、遊びほどコスパの悪いものはありません。遊んでいない子が、アプリで悪い男に引っ掛かるのならまだしも、私のように面倒で理責めの女（しかも酒に強い）を落とすのは相手にとってもコスパが悪いことでしかないと思うんです。手っ取り早く遊ぶならこの疑い深い遊び飽きた24歳より、ティンダーで見つめたその日に抱ける女の子の方がよっぽど可愛いしお得です。

もし返信も遅いしなかなか酔わないし頭の回転も遅くない私を幾日もかけて落として、そして遊びたい人がいるのなら、相手がそういう癖なんだと思って諦めざるを得ない気すらします。

なんで遊びたくないのかの理由については、もしかしたら私は周りの女の子たちとは感じ方が違うかもしれません。別にワンナイトもできる相手ならありだと思います。それがタイプの人なら、こだわりがないなら遊んどけば儲けもんなんじゃないの、と。そして、相手を好きにもなりません。

好きになりそうな信頼している友達やら周辺の人とは遊ばないし、他人なら連絡先は直後に捨てます。女の子が遊んだ相手に情が入りやすいのは本当だと思うけれど、そこに関してはリスク管理でどうとでもなることが多いかと。そして私の場合は好きでない人とする行為の無意味さについては2年前に考察済なので、もうそれをどうこうしたいとも思いません。

遊んだら好きになってしまうから遊び人を避けているなら幾分楽だったかもしれません。好きという感情が発生していることが尊いと思います。こんなふうに予防線を張った上でほんの少しのお酒なら頭までよく回って。

次のデートも、私は完全防備の予防線を張って出かけるのでしょう。はあ、ため息が出るな。