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緊急事態条項はオワコン 対応憲法、すでにあった

 自民党を中心に、憲法を変更して緊急事態条項を追加しようという政治家がいます。
 自民党の改憲草案から引用しますと「(99条の3)何人も(中略)公の機関の指示に従わなければならない」という文言があります。

 憲法というものは、国家という最強権力から、個人の自由や人権を守るために存在しています。
 日本弁護士連合会のホームページから引用します。

 憲法は、国民の権利・自由を守るために、国がやってはいけないこと(またはやるべきこと)について国民が定めた決まり(最高法規)です。

憲法って、何だろう?
憲法って、誰のために、何のためにあるの?

 そのための憲法のはずが、逆に、国家が国民に、従わなければならない指示を出せるだなんて、ありえません

 憲法が何のためにあるかって、私たちの自由と人権のためにあります
 アメリカでは義務教育の間に、憲法についてしっかりと学ぶそうです。

 私たちは、基本的な条文すら、ろくに知りません。
 むしろ納税の義務だとか、勤労の義務だとか、教育の義務だとか、義務義務義務しか教わってません!
 でも実は、ほとんど全て、国がやってはいけないこと(またはやるべきこと、つまり国の義務)がまとまった最高法規なんです。
 今日、新しく、一条だけ勉強しましょう。一条だけですから!

先に結論

 結論から申し上げますと、憲法第54条に「参議院の緊急集会」が定められています。
 参議院の議席改定は半分ずつです。衆参同時選挙中に、大地震や戦争が起こっても、残りの半分の参議院が国会を開けます

 もちろん「何人も(中略)公の機関の指示に従わなければならない」などというナチナチした文言はありません!

 衆議院に分散してた権力が参議院に固まるのは心配ですが、平時の権限と変わりません。人権の停止まではできません

選挙期間中に、大災害が起こったら?

 もし選挙期間中に大地震が起こったら、選挙は何事もなく続けられますか?
 自衛隊は災害派遣ができるでしょうか?

(ちょっとだけ考えて見てください)

 選挙の続行については、それどころではなくなる可能性があります。
 実際に、東日本大震災では、統一地方選挙が半年ほど延期になりました。
 国会議員の任期は憲法で規定されていますが、地方議員の任期は法律で規定されているので、改憲をせずとも法律で、延長ができました。

 災害派遣は、自衛隊法に準じて可能です。

(災害派遣)
 第八十三条
都道府県知事その他政令で定める者は(中略)防衛大臣又はその指定する者に要請することができる
 第八十三条2
防衛大臣又はその指定する者は(中略)部隊等を救援のため派遣することができる

自衛隊法

 補足しますと、選挙によって議員の資格は失われますが内閣(大臣など)は、次の内閣総理大臣が選出されるまで、現在の職務を続けることが出来ます。
 内閣不在の空白期間がないようにされているので、防衛大臣はそのままで、自衛隊の災害派遣が可能です。

 所感として、肝心の災害派遣は出来るけど、確かに選挙どころではなくなるかもしれません。

選挙期間中に、宣戦布告されたら?

 もし選挙期間中に宣戦布告されたら、自衛隊は防衛出動できるでしょうか?
 自衛隊の最高指揮官である、内閣総理大臣の一存で防衛出動は可能でしょうか?

(ちょっとだけ考えて見てください)

 ちなみに「日本は絶対に戦争が起こらない」とか「国民が戦争を起こさせない」とか「戦争自体が権力者の茶番だ」といった回答は無しとさせていただきます。
 そういう主義主張でも構いませんが、緊急事態条項が必要だと思っている人たちを説得できる回答ではありません。頭の中がお花畑の似非左翼のレッテルを張られるかもしれません。

 実は、日本は宣戦布告をされても、総理大臣の一存で防衛出動は出来ません。自衛隊法から抜粋します。

(防衛出動)
 第七十六条
「内閣総理大臣は(中略)自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる(中略)国会の承認を得なければならない

自衛隊法

 なんとビックリ!
 選挙期間中は国会が開けないので、宣戦布告されても国会の承認が得られず自衛隊は防衛出動できずに、相手の軍隊の侵攻を眺めることしかできないのでしょうか!?

 って、んなわけあるかい!!!

 緊急集会による参議院の承認があれば、防衛出動ができます。

憲法第54条「参議院の緊急集会」

 んなわけあるかい!!! と思って見つけたのが読売新聞の記事。とても良い記事なので、時間があれば読んでみてください。
 ここでは重要なところをピックアップします。

 そんな中、憲法改正の新たな論点が浮上してきた。参院の緊急集会(憲法第54条2項)に関する問題である。
 自民党の根本匠・元復興相は「衆院議員が不在時の対応として、憲法は参院の緊急集会を定めているが、解散による不在だけでなく、任期満了による不在でも召集できるのか」と指摘した。

 六法全書を開いてみると、憲法にはこう書かれている。
 第54条
 第2項 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる

 衆院が解散されると、衆院は全議員がバッジを失い、議員不在となる。もしその間、大地震などが起きた時のために憲法は参院の緊急集会の制度を設けている

憲法に新たな「死角」 震災時任期満了で国会に空白?

 はい! 緊急事態条項はオワコン、オワコンでーっす!!!
 
国会が解散してても、その時に大地震が起きても、そのための緊急集会制度が、すでに憲法に記載されていまーっす!!!

 ほら! 緊急事態条項の賛成派は解散、解散!!!

 緊急集会の問題点としては、衆議院の解散にしか言及しておらず、任期満了に伴う衆議院選挙に直接明言していないことくらいです。
 なので、憲法を改正するなら、緊急集会を任期満了にも適用する文言だけ追加すれば良いですよね。
 ちなみに任期満了による衆院選は戦後、1例しかありません。どんだけ解散してんねん!

 緊急事態条項を推進しているのは、参議院の緊急集会制度を知らない無知です。知っていてもあえて話さないのであれば、それはミスリード、誘導、報道しない自由です。

 大地震にも、戦争にも対応できる緊急集会制度があるのに、これ以上、どんな緊急事態があるというのですか?

 緊急事態、緊急事態って言いますけど、具体的になんですか?
 というか憲法に「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」ってもう書いてありますよ。別に災害や戦争に限定してません。
 内閣と国会があれば、戦争や大地震以外の緊急時にも、対応ができますよね。 

 ということで、似非保守に騙されて、緊急事態条項が必要だと思っている友人・知人がいましたら「いや、もう憲法に緊急集会の規定があるよ?」と議論してみてください。

日本国憲法を、もう一度見直す

 もう一か所、読売新聞から抜粋します。

 実は参院の緊急集会は、憲法が制定された約70年前から、日本政府と連合国軍総司令部(GHQ)の間で侃々諤々の議論が行われた、因縁のテーマだ

 もともと、GHQが提示した憲法草案では国会は一院制で、参院は設けられていなかった当然、緊急集会の規定もなかった。日本側の巻き返しで、帝国議会と同様の二院制(帝国議会では衆議院と貴族院だった)に落ち着くのだが、衆院が解散された時にどうするかはやはり書かれていなかったため、日本側は解散等の理由により国の最高機関が機能を停止するのは不都合なので、(解散時に代わりとなる)常置委員会に関する条項を加えるか、参院に国会の機能を代行させる方法を加えるべきだ」と訴えたという。ところが、GHQ側は「常置委員会は認められないとすでに申し渡してある」「参院の代行が必要な場合は想像できない」などと冷たい返事だった。日本側は「総理大臣が急死した場合などに必要だ」などと食い下がったという。もっとも、「総理大臣の急死」は思いつきの返事だったようで、現実には、法律制定など多くの場面で国会の関与が必要と考えられていたとみられる。

 結局、日本側の主張が一部受け入れられる形で、衆院解散時の参院の緊急集会制度が設けられることに決まり、憲法54条となるのだが、衆院の任期満了時にどうするかは、まったく顧みられなかった。

参院緊急集会、GHQとも論争…災害時を想定せず

おまけ:防衛出動の細かい法律

 ちょっとマニアックなので、防衛出動と、参議院の緊急集会の関係について知りたい人だけ読んでください。

 中略してしまった自衛隊法・第七十六条を詳しく見てみます。

(防衛出動)
 第七十六条
「内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない」

自衛隊法

 ということで、この「武力攻撃事態等~なんちゃらかんちゃら法」も見てみましょう。ここの第二章 第九条 4 に参議院の緊急集会について記載があります。

 第二章 武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための手続等
(対処基本方針)
 第九条 4
 武力攻撃事態又は存立危機事態においては、対処基本方針には、前項に定めるもののほか、第二項第三号に定める事項として、第一号に掲げる内閣総理大臣が行う国会の承認衆議院が解散されているときは、日本国憲法第五十四条に規定する緊急集会による参議院の承認。以下この条において同じ。)の求めを行う場合にあってはその旨を、内閣総理大臣が第二号に掲げる防衛出動を命ずる場合にあってはその旨を記載しなければならない。ただし、同号に掲げる防衛出動を命ずる旨の記載は、特に緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがない場合でなければ、することができない。

武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律

 なので、やっぱり参議院の緊急集会によって、防衛出動の承認が可能です。


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