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初めての入院、孤独との闘いで気付いたこと

4月上旬、私は入院した。人生初めての入院だった。

あの日、お父さんに車で送ってもらって、スーツケースと大きな荷物を引っさげて、私は病院に到着した。

病院に到着すると、すぐに色々な検査が始まった。
血液検査やCT、PCR検査などを終えて病室に案内された頃には、もうお昼を過ぎていた。

こうしてはじまった私の入院生活。
最初は慣れないことばかりで、時間が過ぎるのが早かった。
しかし慣れてくると、今度は時間が有り余りすぎて大変だった。

入院生活は時々主治医の先生が来たり、検査があったり、集団療法があったりするけれど、基本的に毎日同じ事の繰り返しだ。
趣味も何もなかった私は、とにかく入院生活が暇で暇で仕方がなかった。

やることもやりたいこともないからベッドに横になって、ぼーっと天井を見つめる。ぼんやりと考え事をする。

考え事をして頭の中を締めるのは、やはり病気のことと、あとは家族のことだった。

私は摂食障害という病気で入院した。
摂食障害とは一言で言ってしまえば、痩せにこだわって、普通に食べられなくなる病気だ。私はそれで15キロも痩せて、身長が165センチもあるのに30キロ台になってしまった。それなのに自分が痩せている実感がなくて、まだ痩せたいと思ってしまう恐ろしい病だ。

暇な時間には、どうして摂食障害になってしまったのかひたすら考えたものだ。家族と離れてつらい治療をするのがしんどくて、摂食障害になった自分をひたすら責めた。

摂食障害のことを考えていない時には、大体家族のことを考えていた。
あんなことして楽しかったなとか、昔はよかったなとか、お父さんとお母さんがあんなことしてくれたなとか、そういうことを思い出していた。
そして早く退院してお父さんとお母さんに会いたい、と思うのだった。

しばらくそんな生活を続けていると、次第に私を悩ます最大の敵が形を成してきた。そう、それは孤独感である。

私は感覚過敏のため大部屋に入院ができず、個室入院だったのだが、看護師さんもそう頻繁に来るわけでもないし主治医の先生は忙しいから、基本的に1人時間がほとんどである。
最初は良かったのだが、入院が2週間、3週間と続いていくうちに、私は寂しくて仕方がなくなってしまったのである。

朝や昼の時間はまだいい。外が明るいから。気分もそこまで落ち込まない。
問題は夜だ。夕方になって日が暮れてくると、寂しくて仕方がなくなってしまう。黄昏泣きというやつだろうか。私は夜になって暗くなるとひとりぼっちの病室でしくしく泣いた。

時々ぽつり、ぽつりと独り言を言った。
「お父さん、お母さん、さびしいよ・・・」

そう呟いても包み込むように優しいお父さんもお母さんもいない。
ナースコールを押すわけにもいかず、私はひとりで寂しい夜を過ごした。

だがしかし、今はそんな孤独感に苛まれて泣くことも少なくなった。
それはなぜか。例え病室で実質的にはひとりでも、本当はひとりじゃない事に気付けたからだ。

私の入院生活。ひとりぼっちなように思えて、それはいつも誰かに支えられていた。

まずお父さんとお母さん。
暇を見つけては私のお見舞いに来てくれた。毎週水曜日と土日のどちらかに入院中の着替えと洗濯物を取り替えに来てくれるのだ。
お父さんとお母さんが来てくれるから、私は入院中いつも清潔な服を着て生活することができている。

それだけではない。なるべく面会時間ギリギリまでいてくれて、たくさん話をしてくれる。お母さんは私が寂しくて泣いてしまうと言うと、毎晩夜9時半に電話をしてくれた。

そして先生や看護師さんの存在だ。

先生は忙しいのに、時間を見つけては私の病室を訪れてくれた。
看護師さんは私が不安で仕方がなくて病棟をふらふら歩いていると、大丈夫ですかと声をかけてくれる。用事があってナースコールを押せばすぐに来てくれる。バイタルの確認に来てくれる。食事を届けてくれるのも看護師さんだ。

さらに病院にはいつも、同じく摂食障害と闘っている仲間たちがいる。
朝も昼も夜も、摂食障害と向き合って、がむしゃらに生きる仲間たちがいる。
話をするのは禁止だから直接話をするわけではないけれど、顔なじみの患者さんとは軽く会釈をしたりする。
そう、病院には、いつも誰かがいるのだ。

寂しいと思ってしまうのは仕方がない。
つらい治療だし、それまでずっと一緒だった家族から離れてもう2ヶ月にもなる。寂しくなるのは当然だ。

だがひとりではないことを忘れてはいけない。
私の入院生活は、様々な人たちに支えられている。お父さん、お母さん、先生や看護師さん、摂食障害と闘病する仲間たち。
その全員とつながって、私は今ここにいるのだから。

だからこれからも、つらい入院生活をがんばろうと思う。
そして私も誰かの生きる支えになれたら、嬉しい。

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