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先輩の本棚とデザイナー卒後の仕事

デザイン事務所の先輩の本棚がすごかった。
その人は現在、カフェと古本屋さんを営んでいます。
山の近くの静かな場所です。

私がインフルエンサーだったら、華々しくご紹介したいところですが。
そうじゃないので、実名は出さずに書きます。

デザイナーがデザイナーを卒業した後のお仕事は本当に多様です。
モード(ファッション)系や、広告関連には王道があるようですが。
グラフィックやウェブデザイナーのその後。は、いろいろ。

私調べだと・・・
独立か、イラストレーターや絵本作家になる人が多かったけれど、

最近、元気な連絡をくれるのは、
地元に帰って、家業を継いだり(農業、工場など)
伝統工芸などを学び直して、職人の道に進んだり、
ケータリングサービスで起業したり、
デザインのスキルはツールとして活用しながら、
新しいことを始めている、元デザイナーさんたち。

デザイナーの仕事は、様々な業種さんとお知り合いになる機会がある。
・・・これすごいメリットだと思います。

前述の先輩も、デザインの仕事で知り合ったクライアントさんから、
親戚から譲り受けた古本屋を任された、のだそうです。

「古本屋とかカフェをやるなんて想像したこともなかった。」
そうで、
「『本』は、わかりますけど、〇〇さんがカフェって。。(意外)」
と、同僚だった私たちは皆、同意見。

・・・

彼は、無愛想で寡黙だけれど、デザイナーが再起不能になるくらいの、
圧倒的な「一言(批評)」を放つ先輩でした。

おしゃべりでチャラい(失礼w)先輩に同じこと言われても、
流せるような嫌味が、彼に言われると、ダメージが大きい。。

世間知らずで、ろくに仕事もできないくせに、元気いっぱいの私も
彼の嫌味ダーツの標的になっていたので
「今日のも効いた〜」と、同期と愚痴り合ったりしていました。
(嫌味言われて当然のことしてたんだけどね、すみません!笑)

・・・

とはいえ、彼と同じチームになって、さすがに
ダーツの的であることにストレスを感じ始めた私。
子供だったので、なんとか返り討ちしたいと考え(←ダメw)
あの先輩にとって、一番効く嫌味は何だろう?
と、通勤電車の中で考えたのでした(笑)

地方(この表現、現在ではどうかと思うけど)出身の彼は、
田舎育ちのことをよく自虐ネタにしていた。
それがコンプレックスだということは容易に想像できたけれど、
普通に考えて、田舎育ちを嫌味にする気には慣れない。
むしろ都会でも田舎でもない、中途半端な住宅街で育った私には、
羨ましい。。

そこでふと、学生の頃に受けた心理学の授業を思い出しました。

「気になる相手は、自分の鏡。」

私も、都会育ちのようなセンスがない自分を気にしているじゃん、
と、自覚。。

嫌味を言い返す意欲、消滅。

・・・

その日も、アートディレクターに冷たくあしらわれ、しょんぼりした気分で、近くにいたその苦手な嫌味な先輩に、なんとはなしにぼやく始末。

「先輩はプレゼン資料もいつもかっこいいです。
 私も先輩みたいにセンス良く生まれたかった。」

センスのなさを「生まれ」のせいにするのは間違いで、
また、めっちゃすごい嫌味言われるんだろうなと、期待(?)。

意外なセリフが返ってきました。

「みんな、今日は家で吞む?」

・・・

そして数名の同僚でお邪魔した先輩の家の
本棚がすごかった。

量も多くてびっくりだけど
「床大丈夫ですか?」(同僚の第一声w)

ディスプレイが素敵で、すっきりして見える。
かつ、よくよく考えられた並びになっているのがわかる。
仕事の用途によって機能的に収納され、かつ美しい。。

「センスを生まれのせいにするな、
 お前に足りないのは、知識・教養、勉強しろ。」
と言われる以上のことが、
その本棚の前で、ずっしりと伝わってきたのでした。

・・・

あれから数十年が経って、
お互いに中年になった元デザイナーの私たち。

古本をめくりながら、そんな昔話をしていたのでした。

「センスがないと気にしていたのは、僕だったんだよ(笑)
 だから、必死に洋書を漁ったりもしてさ。」
(後年、それが高く売れて、転職の資金にもなったらしい。)

と、いー感じに目尻にシワを寄せて笑う先輩。
素敵な年齢の重ね方をしている尊敬する先輩の一人です。

・・・

私はまだデザインの仕事もしていますが、
数年かけて仕事内容をシフトしているところです。
(セラピストもいずれ卒業予定です)

これからも役に立つようなデザインナレッジは、
全部後輩やメンティーさんにお渡しして、
デザインの仕事によって得られた「ご縁」も繋いで。
「デザイナー」と言う肩書を、卒業します。

・・・そして私の本棚。

入れ替わりの激しい小さな本棚に、
ずっと居続けた本に書かれていることが、
私のデザイナー卒後の仕事だったりします。

私の場合、「ずっとやりたかったこと」と言うより、
「ずっと先に、まだ生きてたらやってみよう」
と思っていたことが、人生後半の仕事になりそうです。

(読んでくださってありがとうございました)

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