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2022年1月の記事一覧
本当に来るはずだったのとは別の朝
朝、目覚めると、それが本当に来るはずだったのとは別の朝であることに気づいた。
ぼくらは小さなオンボロ車の中で、身を寄せ合うように眠っていた。ふたりで毛布にくるまって。彼女の寝息を耳元で聞くのはとてもドキドキした。
ぼくが目を覚ますのとほとんど同時に、彼女も目を覚ました。朝の空気が、オンボロの隙間から入ってきていた。とても新鮮で、まだ誰も踏み荒らしていない新雪みたいな空気だった。
「おはよう」
高いところから世界を見れば
その塔の売りは世界を一望できることである。これは比喩表現ではなく、本当に世界の全体を一望できるらしい。とてつもなく高い塔なのだ。見上げるとあまりに高くて首が痛くなる。しかし、この高さで世界を眺め回すのに十分だろうか? どれだけ高くなったところで、本当に全体を見渡すことなどできないのではあるまいか。百聞は一見に如かず。なにはさておき昇ってみよう。
塔のエレベーターに乗り込むと、エレベーターガー
この世界は素晴らしい
わたしがまだこの世界がいいものなのか、それともうんざりするくらい悪いものなのかを決めかねていたときに、この世界の素晴らしさを教えてくれたのは彼だった。
わたしが彼の家に行くと、彼はよくその庭の片隅でしゃがみ込んでいたものだ。
「なにをしているの?」わたしはかがんで丸められた彼の背中に尋ねた。
彼はなにも答えない。彼の肩越しに彼の見ているものを覗くと、地面を動くものがある。わたしも彼の隣にしゃ
そして、ミサイルが降り注ぐ
大佐のもとに一本の電話が入った。この電話は極秘の回線を利用したものだ。限られた相手としかやり取りができず、盗聴は不可能だ。
「もしもし」大佐は受話器を取り、重々しくそう言う。
「もしもし」電話をかけてきたのは大佐の所属する国と交戦状態にある隣国の将軍である。
「おお、これはこれは」敵対する国の人間からの電話だとは思えないぐらい大佐は友好的な口ぶりである。
「またお願いしたいんだがね」と、将軍は
とても澄んでいて、すごくきれいなもの
とても澄んでいて、すごくきれいなものを拾った。
冬の、雲ひとつない天気のいい日だった。
わたしは地面に這いつくばっていた。波の音が聞こえる。海の近くの護岸を歩いていたら滑って転んだ。これほど派手に転ぶのは子どものころ以来だと思う。
昔は、もっと転んでいた。膝を擦りむいたり、手を擦りむいたり。
大人になって久しぶりに転ぶと地面の固さに驚く。もちろん、そこが護岸で、コンクリートで固められてい
あの頃の俺たちが見たら
妻とはこの数年ほとんど会話らしい会話をしていない。子どもたちが巣立ち、夫婦ふたりだけになると特に話すべきことも無いように思えた。一度口をきかなくなると、それを改めて開くのが億劫になった。
いや、臆病になってしまったのだ。なにか口を開けば、妻の機嫌を損ねるのではないか。不用意なことを言ってしまうのではないか。会話を交わさなくなると、そんな不安が頭をもたげるようになった。そうして会話をせずにいると