不思議な話
土曜日の昼下がりのことだ。土曜の昼食はぼくの当番なので、ぼくはまずいチャーハンを作った。もちろん、おいしいチャーハンを作ろうとしたのだけれど、残念ながらまずいチャーハンが出来上がってしまったのだ。それを目指して作ったわけではない。
彼女はぼくの作る料理に一切の文句や苦情を言わない。出されたものは残さずに食べる。おいしければおいしいと言ってくれるので、おいしいと言ってくれないということはおいしくないということだ。
まあ、これはどうでもいい話だ。不思議でもなんでもない。
これは不思議な話についての話だ。不思議でもなんでもない話をするわけにはいかない。
食事を終えると、手持ち無沙汰になった。ぼんやりと沈黙しているが、どことなく気まずい。なにしろ、こちらはまずいチャーハンを出したのだ。
「昨日、不思議なことがあったんだ」と、ぼくは彼女に言った。「とても不思議なこと」
「それは不思議ね」
「まだ不思議なことを言ってないよ」
「不思議なことがあったのが不思議なのよ」
「不思議なことを言うね」
「昨日はあなたに不思議なことが起こらない日だったの」
「不思議だ」
「不思議?」
「昨日も君に瓜二つの人にそう言われたんだ。それで不思議なことを言うなって思ったんだよ」
「不思議ね」
No.791
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