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「土になる」

坂口恭平 「土になる」 (文藝春秋)

挿絵の坂口恭平のイラストがキレイだな・・・と思ったら藤原印刷の仕事でした。スバラシイ。

坂口恭平を初めて読んだのは「独立国家のつくりかた」だったかな?

これは面白いヒトを見つけたな、と思ったものだ。

自分もセルフビルドである自宅を含め、自分の暮らしを整えることを”自分の国を作るが如く”なんて表現していたものだから、おお!これは!と。

もちろん坂口(以下敬称略)のそれは全く違った思いと動きでなされていくのだけれど、まぁ驚くやら感心するやら。
芸術論であり、生活論であり・・・現在密かに盛り上がっているタイプのアナキズム本のハシリでもあり。
今でも時々読み返したくなる一冊です。

しかし。

その後作品を重ねる毎・・・特に最近の「自分の薬をつくる」「苦しいときは電話して」・・・変わらない、それどころか進化した面白さは感じさせてくれるものの、ちょっと辛い部分も目立つように。

例えば坂口は躁鬱病を抱える自分の体調の管理のために「西陽に当たらないようにする」のですが、このあたりは自分にとっては違和感でしかなく(九州に暮らす坂口と寒冷地の山中に暮らす自分では陽の感じ方が違うのは当然なのですが、やはり陽は基本ありがたい・・・のが健全と感じてしまうのです。)ああ、危なっかしいなぁ・・・なんて思いながら読んでいました。私感ですよ、私感。

それが本作ではその西陽の時間には畑に通うようになっている。
土に、野菜に触れることで歓び、カラダの健全さを保っている。

もともと料理や陶芸もする人なので畑に・・・というのは考えてみれば不自然な変化・進歩ではなかったのかも。

ものすごくエラそうに表現させていただくとその変化は自分にとって坂口が”一皮むけて”行く過程そのもののように思えて、なんだか心強くも自分事に近い感じで嬉しくもあったんですね。

地に足がついていく感じ・・・ということに、なるのでしょうか?

危うかった感じが着実な安心感に変わっていく様子。

土に触れることで感じる様々。野菜の成長・失敗から感じるあれこれ。
野菜と土に触れるということは当然天候にも敏感になる。

土と野菜(と、ネコ。だからこの表紙なのです。)から様々を感じ、吸収し、他にも活かして行く(元々坂口はこれが得意なようです。)様子がとてもアップテンポにリズムよく書かれていて好ましい。

もちろんその才能は畑にも持ち込まれます。器用に柵を編んで、畑の片隅の土で焼き物を試みる・・・。

本書からは特に絵(パステル画)にその好影響が強く顕れているように書かれますが、きっと料理も相当変わったんじゃあないかな。実際途中美味そうな表現、レシピもちょこっと登場。

ジツは。

先に登場したレシピ本、ボクはフィットしなかったんですが。

土になった坂口が次にレシピ本を発表したら、きっととても美味そうに感じる気がします。

それがとても、嬉しい。



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