タブーとされてきた医療ソーシャルワーカーのリアルを代弁します
医療ソーシャルワーカーはソーシャルワークができるの?
医療ソーシャルワーカー大変って聞くけど実際は?
現役医療ソーシャルワーカーの本音を聞かせて
急性期病院の医療ソーシャルワーカー(以下MSW)として就労しているみなさんは現状の働き方に満足している方は少なくありません。
救命救急病棟を担当している私が(高度)急性期病院(以下急性期)におけるMSWのリアルについて解説します。
この記事はMSWであれば誰でも心の中に秘めているものの、表に出すことはMSWの倫理的にタブーとされてきた内容を解説します。
これからMSWを目指す人や中堅以下のMSWには少々酷な内容になるかもしれませんが、MSWの地位を上げていくためにもMSWの現状と向き合う必要があります。
結論からすると、MSWは患者さんに寄り添った個別性のある支援をすることはで可能です。しかし、その支援をするには「組織」という大きな壁と向き合わなければなりません。
倫理綱領を改めて復習
MSWには倫理綱領と呼ばれる「MSWたるものこうあるべし」といったような指標があります。MSWも例外ではなく倫理綱領に沿って業務を行うこととされています。
MSWのリアルを解説する上で、重要な倫理基準について解説します。
倫理綱領がピンと来ない方はソーシャルワークの基礎から一緒に勉強しましょう。
≫ ソーシャルワークとは?
クライエントに対する倫理責任
MSWの業務といえば上記のようなクライエントの意思決定支援が浮かぶ人が多いです。私もクライエントにとって最善支援になるように技術を磨いています。MSWの現場では業務指針に則ってクライエント中心の業務を遂行しています。
≫ クライエントの意思決定支援を後押しできる心理学
組織・職場に対する倫理責任
組織の使命や理念を職員全体で共有することで同じ方向に向かって業務が遂行されます。職種によって専門性は違えど、クライエントファーストの支援を行うことは組織全体の使命や理念であることがほとんどです。
社会に対する倫理責任
ソーシャルインクルージョンの概念は社会福祉の領域で徐々に定着してきています。この概念の対象者は、救急医療の現場に突発的に出現し、安全な治療の足枷となることが少なくありません。昨今SDGsが提唱され世界中で様々な取り組みがされている中で、MSWも活躍が期待されています。
≫ ソーシャルインクルージョンとは?
専門職としての倫理責任
私がソーシャルワーカーの啓発をしている理由がこれにあてはまります。MSWの地位を高めるためには、大前提としてMSW (社会福祉士)の認知度を高める必要があります。医療福祉業界から一歩外に出た際、MSWを把握している人々がどのくらいいると思いますか?答えは私が述べなくても、この記事を読んでいるみなさんが一番わかっているはずです。
≫ 医療ソーシャルワーカーの役割
MSWが病院(組織が)から求められる使命は“平均在院日数の短縮”
倫理綱領を大まかに復習したところでこの記事の本題であるMSWのリアルについて解説します。病院という組織(以下組織)がMSWに求めているものとして確固たる使命がひとつあります。それは“平均在院日数の短縮”に他なりません。
“平均在院日数の短縮”は様々な言葉に変化して伝えられている
「うちの病院では平均在院日数について口酸っぱく言われない」と思った方は要注意です。様々な言葉に変化しているだけ大枠は同様です。以下のフレーズが代表例です。
ベッド満床(にして平均在院日数延ばすな)
早期退院(させて平均在院日数をキープしろ)
追い出し屋(になってでも平均在院日数を縮めろ)
このように状況に応じて様々な表現で用いられていますが、経営陣や他職種がMSWへ要求してくる内容を突き詰めていくと“平均在院日数の短縮” に行き着きます。特に、経営陣がソーシャルワークの質でMSWを評価してくることはありません。ソーシャルワークを実践するためにMSWを採用している経営陣は皆無といって良いです。
“追い出し屋”は最悪のフレーズ
先述した三つののフレーズで一番厄介なのが“追い出し屋”です。最初の二つはあくまでも組織からMSWに対してのフレーズです。“追い出し屋”はクライエントからMSWに対してのフレーズであり、支援に著しくマイナスな影響を与えます。“追い出し屋”と思わせない三種の神器は交渉術・面接技術・会話術の三つがあります。その中でも特に重要な交渉術について下記で解説していますのでぜひ読んでみてください。
面接技術・会話術の解説はこちら
≫ “追い出し屋”と思わせない「面接技術」を解説
≫ “追い出し屋”と思わせない「会話術」を解説
新人MSWが“追い出し屋”になる理由
新人MSWの多くが“追い出し屋”になってしまうことに悩んでいます。追い出し屋になる原因は残酷ですが勉強不足と言わざるを得ません。
急性期は医学モデルのような「課題を見つけてそれを治療する」課題中心アプローチのような短期的なアプローチが主流です。一方で、生活モデルを基盤とするMSWが得意とする心理社会的アプローチや問題解決アプローチは、急性期の限られた入院期間で活用するのは時間的制限が不利に働くため、新人のMSWは全てのケースで課題中心アプローチに頼りきってしまう結果“追い出し屋”になってしまいます。
急性期の限られた入院期間内でソーシャルワークを実践することは並の技術では行えません。勉強したはずの知識が実践で形にならないのは技術不足である証拠です。先述したような三種の神器を活用してアプローチを展開することが重要です。
MSWが病院にいる意味を再確認
「人の役に立ちたい」「困っている患者さんを助けたい」など純粋な気持ちをもって入職したMSWが辛くなってしまう理由の一つにバーンアウトがあります。バーンアウトの理由はMSWの仕事そのものではなく、組織が大きく影響しています。
病院にMSWが配置されるニーズは過去も現在も変わっていない
1905年にアメリカの医師であるR.キャボット氏が「患者さんの生活背景や家族状況、経済的状況などの細かい生活における状況が分からなければ、真に病気の原因を特定し、その患者にあった治療や療養方法を提示できない」と提唱し、MSWの存在が普及していきました。その知識をアメリカで学び、日本で初めてMSWとなったのが浅賀ふさ氏です。1929年に日本における初代MSWとして聖路加国際病院で雇用されたことは有名ですが、雇用される理由は過去も現在も大きく変わっていないことがわかります。
≫ MSWの専門性が活かせる仕事10選
日本でMSWが普及した背景
日本でMSWの雇用が大きく進んだ要因は、2016年の診療報酬改定で新設された「退院支援加算」であるとされています。診療報酬に明記されたことにより社会福祉士の雇用が進んだ一方で、MSW本来の仕事と組織が求める仕事に乖離が起きていきました。組織は“平均在院日数の短縮”のための退院支援を主な業務と位置付けました。これによってMSWの仕事の一部であった退院支援のみフォーカスされて、ケースマネジメントが中心となり「本当にクライエントのニーズに応えているのか」という懸念から「組織から求められることと本来のMSW像とのギャップ」が生じます。このことから、病院という環境でジレンマに陥るMSWが多く存在することは必然であるといえます。
病院内で唯一の福祉専門職として
MSWの歴史を遡ると、過去にはMSWは医療専門職になろうとした歴史があります。医療ソーシャルワーカーの身分法を作るために医療職として「医療福祉士(メディカルソーシャルワークを行う人/Medical Social Work)」という資格を創設しようとした運動がありました。しかし、当時の国と職能団体が総合的に議論を重ねた結果「保健医療の場でソーシャルワークをしている/Social Work in Medical Field」という解釈となり、保健医療現場の福祉職として社会福祉士をMSWの基礎資格に用いるようになった背景があります。そのことを踏まえると、MSWは例え医療職ばかりの現場であっても、福祉職としてクライエントへソーシャルワークを実践する責任が生じます。病院の規模に対してのMSWの絶対数が少なかったとしても、発信し続けなくてはならないのです。福祉職であるMSWが病院にいる意味を、国民にとってMSWが関わることでどのようなメリットが生じるかを考えていく必要があります。
有料記事になる前にお知らせ
新人MSW〜中堅MSW、ソーシャルワークを実践する社会福祉士向けに「社会福祉士Keiの自由研究」というブログを運営しています。このブログを通して「自分の実践を見つめ直すきっかけになった」とメッセージを頂くことが多く、非常に励みになっています。
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MSWの処遇が改善されない理由
MSWの業務内容が激務であることは、同じMSWであれば全員が同情できます。これほどまで激務なのに対して、処遇が改善されないことに対して不満を持っているMSWは少なくありません。下記で具体的に解説していきます。
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