戸板康二『團十郎切腹事件』

ドラマ『半沢直樹』での活躍によって歌舞伎俳優の演技力に改めて脚光が集まった。
そこでドラマ化を望んでしまうのが戸板康二の中村雅楽シリーズだ。
歌舞伎の老優 中村雅楽を探偵役にその助手を新聞記者 竹野が務めて事件を解決する推理小説で、短編『團十郎切腹事件』で司馬遼太郎と共に第42回直木賞を受賞している。
江戸川乱歩の勧めによって執筆に至った名探偵は、典型的なホームズ―ワトスン形式の探偵ものだが、雅楽の八十近い年齢からアクティブには立ち回らないものの、知識と観察力から推理する安楽椅子探偵のスタイルからの竹野との関係性などの描かれ方は実に綺麗で嫌みが一切なく、その滑らかさは今でも群を抜いている。
歌舞伎界を舞台にしているのは、戸板康二が歌舞伎の評論家であるという地の利からでもあるのだが、描かれる歌舞伎の世界は、舞台裏あり、演目の話ありと歌舞伎そのものへの興味も誘う。
今読んでもこれが1960年前後の作品とは思えないほど、物語が入って来るのが実に不思議でたまらない。



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『名探偵雅楽再び登場!』 1

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