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その9:付喪神と万年筆

かの『御伽草子』に出てくる「付喪神」は、長い歳月を経ることで物に宿る精霊や妖(あやかし)のこと。付喪神は「九十九神(つくもがみ)」と書かれることもあり、「積み重ねた長い時間」という99年や「多種多様な物」という99種の意味合いから、物に付喪神が宿るまでの歳月はおよそ100年とされる。そのため付喪神を忌み嫌う人々は、年の瀬の煤払いの際にこぞって古い道具を捨ててきた。
とは言え、付喪神は人を襲う荒ぶるものもいれば、反対に人に幸をもたらすものもいるそうで、一方的に百鬼夜行の絵巻物に見られる悪いイメージで考えられがちですが、中には良い付喪神もいるらしい。
今なら30年以上過ぎたものをヴィンテージと呼び、100年を過ぎるとアンティークと呼んで骨董価値を見出だすようになりました。この理屈で言うならアンティークには大概付喪神が宿っていることになります。
現代の万年筆は、ルイス・ウォーターマンによる毛細血管現象を応用したペン芯が発明されたのが1883年。今から138年前のこと(本文執筆は2021年)。
2021年現在、100年前の万年筆事情と言えば、シェーファーが、構造上の故障を永久保証する万年筆「ライフタイムペン」を発売し、ウォーターマンを抜いた世界一の売上を出したのが1920年(大正9年)。
ちょうど100年前にあたる1921年(大正10年)は、パーカーがあの「デュオフォールド」を発表した年。 モンブラン(当時はシンプロ・フィラー・ペン)の「マイシュターシュティック」の発売は1924年(大正13年)なので、それはまだ100年も経たない話。
なんだかんだ万年筆は消耗するものだからアンティークなものが存在することはないだろう。しかし、筆の付喪神があるようなので一概には否定も出来ない。もし付喪神が万年筆に宿ることになれば、100年超えた万年筆には果たしてどんな付喪神が宿ることだろう。余計な一言を書き添えるペンとなるのだろうか、また多くの人々と縁を取り持つ招福のペンとなるのか。
私も所有する万年筆にひねくれた付喪神が宿らないよう大事に扱って行きたいし、付喪神が宿るくらい代々引き継がれるアンティークな一本を残してみたい欲もあります。
ただ、万年筆愛好家ならご存知でしょう。付喪神が宿る前にペンには宿るものがあることを。
それは持ち主の書き癖というやつです。

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