かつての詩130「マルティプルのif」

「マルティプルのif」

田村隆一の詩に触れると
僕の散文はらくがきにもならない

そもそも詩人なんていやしない
ただロマンチックに酔いしれた道化師
それだけの話だ

しかしそこに詩人はいた
詩人は言う
十代で目覚め
多くの経験をし
熟成した四十代で詩が書けると
僕にはそれだけでは足りなかった
時々心配で眠れなくなるくらいだった
しかしそれも経験らしい

だから四半世紀ぐらいで
自分の書いたものを詩と呼ぶようじゃ
まだまだ甘ちゃんだ
青い果実も果実だが
決して店先には置いてくれない

田村隆一の詩に触れると
僕の散文は死にたくなる
僕はロマンチックになりたい
何故なら
詩人の国に行ってみたいから

でもきっと
詩人の国には狐や狸しかいない
訪れた僕は化かし合いに巻き込まれ
揶揄われては泣いてしまうことだろう
狐と狸がそれを見て腹を抱えて笑う姿が目に浮かぶ
それでも詩人になりたいのなら
頭の上に木の葉を乗せると良い
そして何かに化ける練習をするんだ
それが詩人ってやつらしい
それが詩人ってものなんだ

田村隆一の詩に触れると
僕の散文は記号の羅列にしかならない
それが詩を書く人ってやつなんだ
それが詩を書く人ってやつらしい

僕のちっぽけな世界に
こんなにも冷たくて温かい言葉の数々が
突き刺さることさえ許さなかったら
この魂はささやかに揺れていられたことだろう


Masanao Kata©️ 2008
Anywhere Zero Publication©️ 2022


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