詩134「二人の男」

「二人の男」

まだ俺は俺自身ではない
灰皿に煙草を押し付けて喫茶店を出るように
この場を変えることすら出来ていないままだった
理想の檻の中から出られないまま
鬱屈した日々を飴玉のようにしゃぶっている

ある男は
不屈の信念で自分であることを味わって
日々を繋ぐ燻された銀の姿で煩悩を翻弄する
その指先でしがらみを解き放つ旅人
その根とあの音を編み合わせて
食いつなぐための鎧を紡ぐ
明日を追う本望

もう一人の男は
成り下がって歩みを止める
さしずめ不甲斐ない盤上の駒
腹回りの脂肪のように憧れだけがまとわりついて
この身に降り注ぐ呪縛が解ける時を待っていた
明日に追われる日常

俺の本当の姿はどちらだ
カエルになった王子と同じく元に戻る日を信じている
今が真の姿だとは到底信じたくない
俺は二人の男に毎年手紙を書いているが
宛先があるのに消印が押されることはない
ましてスマートに送信されることすらも
俺の背水の陣は排水口へと流されていた


Masanao Kata©️ 2022
Anywhere Zero Publication©️ 2022

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