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短い架空のお話

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短くて、奇妙な妄想にも似た架空のお話
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#小説

猫かぶり

なんのためにあって、なんであるかも僕には何一つ理解はできなかったけれども、残念ながら僕が住んでいる部屋には数センチほどの穴があいていて、隣の部屋が見える仕組みになっていることだけは揺るぎない事実であった。

そして僕はその穴を興味本位で覗いてしまったことを後悔しつつ、また僕の常識をはるかに超える出来事がそこでは繰り広げられていることを同時に知ることになった。
「ちぇっ、おい。いいか、アルバイトとい

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空想世界

幼い頃から頭の片隅で思っていたこと。僕の意識が存在したときからこの世界が存在し、そして僕の意識がなくなれば自ずとこの世界は消えてなくなってしまうのではないかと。
きっと世界の歴史や科学、宗教、哲学もいっさいがっさい僕の意識が創り出したことなのだ。なんてとんでもない空想をしていたりなんかしていて。
でも大人になるにつれて僕は実に平凡で、いやもしかしたらそれ以下の存在で、とてつもなくちっぽけな存在なん

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MEMORIES

私はそんなに変ですか?
個性は持ってはいけないのですか?
あなたを好きになってはいけないですか?

そんな顔をしないでください。
個性は持ちません。
好きにも……なりません。

あなたが笑った顔を見るのが私の何よりの楽しみです。
ずっとずっと……。
あなたのことは私が一番知っています。
産まれた時から……やんちゃな子供に育ち、いつも怪我ばかり。私がいつも手当てをしていたんですよ? 我慢強くて泣くこ

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世界が動かなくなった日

無性に本が読みたくなって、最寄りの本屋へと立ち寄ることにした。
そこは、昔ながらのハタキを手に持った、いかにもな頑固おじいさんと、優しげなおばあさんの老夫婦が営んでいる本屋であり僕がいつも、本を買う時にお世話になっている場所であった。

いつもの如くお目当の本を手にレジに並ぶと老夫婦が二人揃ってニッコリとして「いらっしゃいませ」と口にした。
「これを」と僕が言うと。
「いらっしゃいませ」
「いらっ

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穴の中

今まで気づかなかったのが謎ではあるが、部屋の隅っこに穴が開いていた。
穴は卓球の球ほどの大きさで、穴は僕を誘惑しているようであった。
遠目から見ると黒く塗り潰された円にも見えるが、近づくとその闇は僕を吸い込んでしまいそうなほど大きく感じた。
僕は穴を覗きたい衝動にかられた。かき立てられてゆくその感情が抑えきれなくなった時に僕は気付くとその闇に瞳を近づけていたのだ。

穴の中には僕の部屋があった。正

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