見出し画像

採用の戦略的視点~採用成功の三つのポイント「正確」「公平」「賛同」Vol.6(1/4)

1.「採用の成功」とは何か

さて、本Volでは、採用を成功させるための基本要件についてお話しします。

採用、ことに新卒者の定期採用の成功とは、先にも何度か述べましたが、要員計画に沿って必要な人数を確保できた、ということではありません。もちろんそのことも大切ですが、それは人事部門にとっての狭義の「成功」でしかなく、採用という「企業の優位性を生み出す人材の確保」というプロジェクトについては、もっと全社的な視点で採用の成否を考えていただきたいのです。

企業が採用を行う目的はいろいろありますが、なんといってもその最大の目的は、さらなる成長・発展の原動力となり、自社の競争力を高めるために必要な人的資源の確保ではないでしょうか。

一般的に優秀な学生であれば誰でもいいというのは、「アタマ数そろえ」でしかありません。また、他社にとって優秀な学生が、必ずしも自社にとって優秀な学生とは限らないわけです。求める能力、必要とされるコンピテンシーは、それぞれの企業ごとにみんな違うのですから。

したがって、必要な人材とは、あくまで“自社”の成長と発展を促し“自社”の競争力を高めてくれる人材でなければなりません。つまり、自社の事業特性や事業展開の方向、さらには企業理念やカルチャー、組織風土にマッチし、そうした自社に固有の環境の中で力を発揮してくれる人材を、必要な数だけ確保することこそ、全社的視点から見た採用の目的であるはずです。

この目的を完遂してはじめて、採用は「成功した」といえるのではないでしょうか。

以上の意味合いにおいて、「採用を成功に導くための基本要件」を三つのキーワードとして図にまとめました。

採用は組織にとって大きな投資です。したがって、仕事の付加価値を生みだすとともに企業価値を高める人材を確保し、投資の見返りを確実に得られるように、採用をシステムとして考える必要があります。そのような採用システムを構築し、運営・実行することこそ、組織の成功に不可欠なのです。

図のタイトルを「効果的な採用システム」としたのも、以上の理由からにほかなりません。「正確」「公平」「賛同」という三つのキーワードを軸に採用を組み立てると、採用活動が効果的かつシステマティックに進められます。言い換えれば、「適切な人材を惹きつけ、採用し、定着させる」という一連の流れが、この三つキーワードの実践を通じて構築できるのです。

最初に挙げた「正確」とは、採用システムが自社に必要な人材を正確に予測できるものでなくてはならない、言い換えれば、自社が求める人材像を明確に設定し、応募者がその要件を備えているかを、高い精度で見極めることができる仕組みであるべきだ、という意味です。

確かな裏づけとなる行動情報をデータとして収集し、評価するコンピテンシー面接は、正確な採用意思決定をするための強力なツールであり、このことは多くの企業において実証されています。

二つめの「公平」とは、文字どおり、採用においてはすべての応募者に公平かつ平等にチャンスを提供しているシステムでなくてはならない、あるいはまた、面接官が自らの好みや主観ではなく、一貫した客観性の高い選考プロセスと基準を用いるようよう設計されたシステムであるべきだ、という意味です。

三つめの「賛同」とは、英語の「buyin」(買いつける)の訳語で、自社の採用活動のあり方が学生からも社内からも「買うだけの価値があるもの」、つまり「共感し賛同できるもの」として認められ、優れた採用方法であると評価されるものでなくてはならない、ということです。

以下、キーワードごとにその実践的な内容を順次説明していくことにします。

2.すべての始点は「求める人材像」と「能力要件」の策定

Volで挙げた「正確」――自社に必要な人材像と能力要件(コンピテンシー)をきちんと把握・策定していることは、大きくいって次の三つの場面に影響してきます。あるいは、三つの場面でのチェックポイントとして活用してみてください。その三つとは、

①母集団の形成と絞り込み
②採用面接の進め方・質問の仕方
③合否判定のための選考会議

の各場面ですが、①については、採用戦略の策定について述べるVol.8で詳しくお話します。

②は、必要な能力要件に準じて評価方法も変わるということです。たとえば、ある専門知識や特殊な技能を評価するなら、実技試験を施すのが最も効率的でしょう。とはいえ、ほとんどの企業では、適性検査やSPIなどのペーパーテストを行ったとしても、面接試験を最重要な(かつ最終的な)評価方法と位置づけていますし、コンピテンシーを評価するには面接が最も適していることはいうまでもありません。

面接の進め方や行動質問については、すでに第1章および第2章でかなりの程度説明しましたので、本Volでは補説的に述べるにとどめます。

ここでは、「正確」というキーワードの重要な意味合いを、面接以前の段階における「求める人材像とその能力要件」の把握・策定および③にある「選考会議」の進め方という二つの場面において説明していくことにします。

「正確」という要件を確保する大前提となるのは、なんといっても「求める人材像とその能力要件」の把握・策定です。これが採用活動のすべての「始点」といっても過言ではないでしょう。③の選考会議も、これをもとに進めなければ「正確」は確保できません。

にもかかわらず、自社の求める人材像と能力要件があいまいなまま、そしてその危うさに気づかないまま、ほとんどの企業が採用活動を進めているのが現状ではないでしょうか。

人材像・能力要件が明確になっていないからこそ、面接官ごとの自己流ともいえる判断基準や価値観によって、「思いこみ・決めつけ」採用が跡を絶たないわけです。

だからといって、評価シートの項目に「積極性」とか「協調性」といった能力要件を列挙して、面接官に「これらを評価してください」と依頼したところで、「思いこみ・決めつけ」採用が改善されるわけではありません。このことも再三申しあげてきたことですが、何をもって「積極性」とするのか、どんな回答によって「協調性」を推し量るのか、そういったことが依然としてあいまいなままだからです。

3.「自社らしさ」とは何かを考える

能力要件の把握・策定についての具体的な方法・手順として、最初に「自社らしさ」とは何かを考えてください。長所だけでなく、短所も含めた「らしさ」です。

「急にそんなことをいわれても……」と、困ってしまう方が多いのではないでしょうか。人事の方も含めて多くの人に当てはまるのかもしれません。逆にいえば、「自社にとって必要な能力要件」を考えるということは、「あるコンピテンシーをもった人材を受け入れる舞台としての自社」をあらためて見直すよい機会ともなるでしょう。

たとえば(あくまで仮定の話ですが)私たちMSCで、コンサルタントが営業とパートナーシップを組み、クライアントを発掘し、クライアントといろいろな話し合いの機会をつくることを通じてその企業の課題を見いだし、その解決方法を自ら考えて提案するといった行動が求められており、実際に大多数のコンサルタントがそのような動き方をしているとしましょう。

これは一般的な事業会社の人事部門で人材戦略を立案する、という行動様式とは明らかに違っており、いうなれば「自立性」という能力要件がMSCの「自社らしさ」の一つになるわけです。

というように、アナリストの企業分析ではないのですから、あまり堅苦しく考える必要はありません。たとえば主だった営業課長クラスの方たちから意見を聴取するなら、雑談のような雰囲気の中で話してもらうといいでしょう。

たとえば、次のように。

「そういうことでいえば、けっこう風通しのいいところがウチの長所かな。よくいわれる“部門の垣根” とか“縦割り組織”なんてことはほとんど感じたことがないし、なにより上下の意思疎通が密に行われる風土がいい」

「たしかにそうだね。我々(上司)が大枠でOKを出せば、若い社員が自分の判断でけっこう動きまわって、いい成果をあげている。スピーディに行動に移せるようになったのは、いちいち報告や意思確認の会議をしなくても、普段からコミュニケーションがとれているからだろうね」

「社長がAさんに変わって『新しいことにチャレンジして失敗しても減点しない。チャレンジしなかった者は減点する』って、はっきり宣言してくれたことが大きいんじゃないかしら」

「それはいえてる。最近会社の活気を感じるのも、Aさんの影響が大きいよ。商品開発でも、今までにないコンセプトの商品が提案されてくるようになってきたし。実際、業績も上向いてきてるしね。ウチは社歴も古く、保守的な会社と思われてきたけど、変わるときは変わるものだね」

「ただ、最近、見境もなく新規顧客のところに飛びこんでいって、失敗している営業が多いのは困ったもんだよ。Aさんの言葉の言外に『リスクをきちんと勘案して』とか『計画性をもって』という条件があることに気づいていないんだろうね。それに、ウチは飛びこみ営業の会社じゃないんだから」

「ウチの役員や部長クラスには、まだまだ昔のやり方、昔からの得意客との関係を守り続けるのがいいことだ、と思ってる人が多いからなあ。そういう人たちは、前しか見ずに突き進むだけの若手社員のことや、彼らが客先でまともに相手にされないことを、ウチのブランディングを低下させるけしからん行為だと思っている」

「それはマズイわよねえ。Aさんが先導する意識改革まで頓挫しかねないもの」

「今までは多少大目に見ていたけど、先も読まずに突進してそれを成果に結びつけられない若手社員については、そろそろ我々が手網をギュッと締めなきゃならない時期に来たようだね」

「自社らしさ」の“検討会”の中でこうした忌憚(きたん)のない意見が出たとしましょう。これらが事実であって、かつ、この意見(情報)の範囲内で「自社にとって必要な能力要件」を策定するとしたら、さて、どのような要件が抽出できるでしょうか。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

🔵おすすめソリューション

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?