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「量」の採用から「質」の採用へVol.8(7/7)

13.エントリーシートによる選別は困難

少し話がテーマからそれましたが、次に形成された母集団の絞りこみについて、私自身の試案をコンピテンシーに基づきながらご紹介したいと思います。 

私がご提案したいのは、エントリーシートを活用した絞りこみ手法です。 

もっとも、何百人、何千人といった数の応募がある企業は、すでに「書類選考」という形で履歴書やエントリー内容をチェックし、筆記試験に進ませる応募者を絞りこんでいます。ただ、私が懸念するのは、その絞りこみをどのような基準で実施しているのか、言い換えれば、旧来型の面接と同様に、そこには「思いこみ・決めつけ」がかなりの程度介在しているのではないか、ということです。 

実際に書類審査をしている人事の方に尋ねると、

「かなり苦労してます。どの学生も同じようなことを書いてきますから。みんな「そこそこいいこと」が書いてあるんです」 とのこと。たしかに就職時期になると『面接のナントカ』と同様に、『エントリーシートの書き方』といった種類の本が書店の就活コーナーに何冊も並びます。学生はそうしたお手本を参考にエントリーシートを書くわけですから、人事の方が苦労されるのも無理ありません。

先日、ある方とお話ししたとき、「うちの息子のエントリーシートを見たら」という話をお聞きしました。「趣味の欄に『山登り』と書いてあるんです」と。以下は、そのときの父子の会話です。 

「おまえが山登りに行ったなんて話、聞いたことないぞ」
「いや、富士山に一度だけ登ったことがあるよ」
「一度だけで、よく趣味だなんて書けるなぁ」
「べつに趣味でもないんだけど、就職の本を読むと、山登りが趣味だって書いておくといいんだって。苦しくてもへこたれずに目標に向けて一歩一歩進んでいく人と思ってもらえるらしいよ」

その方は「あきれましたよ」とおっしゃっていましたが、私もあきれました。もちろん、この息子さんが面接にまで進んだとしても、面接官がきちんと行動面接を実行すれば、こうしたごまかしはすぐにばれてしまうでしょう。

ということはともかく、エントリーシートの内容だけで書類選考をするのは、今や至難の業といえます。であれば、結局は勘や名人芸を頼りに選別するしかないのでしょうか。

14.エントリーシートに行動質問を組み入れる

エントリーシートには定型の履歴書とは違って、企業が自由に設問を設計できるというメリットがあります。ですから、エントリーシートに「コンピテンシー面接」と同じく行動質問を入れましょう、というのが私の提案です。 

質問するテーマは、会社が求めるコンピテンシーのいくつかの要素の中で、必須のもの、あるいはそれに準ずるものがいいでしょう。

たとえばそれが「問題解決力」といったものであれば、「学生生活の中で、難しい問題や課題に直面したときのことと、その課題をあなたはどのようにして解決したのか、具体的に説明してください」というような設問になるわけです。 

ただ、エントリーシートによる選考段階では、学生時代の代表的な行動特性を知るための参考情報を得たいという考えであれば、「学生時代にいちばん力を入れて頑張ったこと」についての質問でもいいでしょう。 

むしろ留意すべきは、設問がどのようなものであっても、

○具体的に何をやったのか
○それがどういう成果に結びついたか 

について書くように指示しておくことです。
つまり、「STAR」に準じて書いてもらうことを意識してください。その意味では、 

○一つのエピソードに絞って書く
○文字数を決めて、簡潔に書く

ということも、条件として設定したほうがいいでしょう。 

実際、この手法を実施しているクライアントが何社かあります。ただし、エントリーシートは、あくまで書類選考による絞込みを目的とするものですから、これをあまり過大視しないでください。選考・審査の主軸は、やはり面接に置くべきであることはいうまでもありません。 

とはいえ、この手法の目的は「思いこみ・決めつけ」が評価に介在するのを防ぐことにあり、また評価者によってバラバラになりがちな従来の書類選考法を是正するには、とても有効な方法です。 

ことに多人数の応募者があり、マンパワーと時間とコストの面で初期段階での絞りこみに悩んでいる企業には、採用戦略を設計する際の要素としてとり入れていただければと考えています

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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🔵会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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