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採用の戦略的視点~採用成功の三つのポイント「正確」「公平」「賛同」Vol.6(4/4)

9.「コンピテンシー面接」が「思いこみ面接」を排除する

次に効用の②(複数の面接官のあいだで同じ評価基準が共有できる)の説明に移ります。

この②を実現させるのも、ターゲット・コンピテンシー一覧を面接官全員に開示し、各コンピテンシーの要素ごとにそれぞれの定義やキーアクションを説明することによって可能となります。

この役割を担うのは人事部門の採用担当の方でしょうが、このとき、前項で述べた「必要不可欠のコンピテンシー」があれば、そのことについて指摘するのはいうまでもありません。

また、面接官への事前説明を行うとき、次の2点についても必ず依頼してください。

一つはターゲット・コンピテンシーに目を通し、面接で収集すべき情報とは何かを認識したうえで、学生の「STAR行動情報」を引きだすための質問を、コンピテンシーごとにあらかじめ準備しておいてもらうこと。

質問を準備するうえでの材料にするには、エントリーシートと履歴書がいいでしょう。前章の最後で触れたように、これらに記された内容(経歴情報)は自己申告によるもの(つまり、コンピテンシーを判断するための材料としてはほとんどつかえない)ですが、応募者に関するひととおりの情報が網羅されてはいるので、「何についてどのような質問するか」を構想するための素材としては役立ちます

もう一つは、評価のもととなる応募者の行動情報についてメモをとっておいてもらう、ということです。

これはいうまでもなく、面接官が面接終了後に学生の評価を行う際、その評価がどんな行動事実に基づくものかを明らかにするためです。面接のやりとりの記憶を呼び戻すための備忘録として、メモによる記録は重要な役割を果たします。

こういった細かなことはさておくとして、面接実施前に行う説明会を通じてターゲット・コンピテンシーを理解することにより、面接官は“自分が”ではなく「会社が」どのような能力要件を応募者に求めているのかが理解できます。そして、この情報を面接官同士で共有し、いわば“会社の価値観”に準拠して面接~評価を行うわけですから、面接官個々人の勝手な価値観による人物評価が入る余地はありません

以上述べてきたような手順とプロセスを通じて進められる「コンピテンシー面接」は、必然的に「思いこみ・決めつけ」面接を極力排除し、採用の本源的な目的――「さらなる成長・発展の原動力となり、自社の競争力を高めるために必要な人的資源の確保」を成功裡に達成する重要なメソッドとなるのです。

こうして本Volの冒頭で述べた「採用を成功に導くための基本要件」――「正確」「公平」「賛同」のうち、「正確」が「コンピテンシー面接」全体を通じて実現されるわけです。なお、採用過程の入口と出口、つまり「母集団形成と絞り込み」および「評価・選考(合否判定)」における「正確」については、Vol.7およびVol.8で言及することにします。

10.「公平」は「正確」を担保する

次に「公平」についてお話ししましょう。といったら、「男女雇用機会均等法のことでしょう。今の時代、男女関係なく公平に採用をしていますよ」と思う方がいらっしゃるかもしれません。もちろん、そうした法令の遵守はとても大切ですが、採用における「公平」というものを、もっと広い視野で見ていただきたいと思います。

採用においては、「公平を欠く行為をすると所轄の役所から注意や指導を受けるから、そうした行為はやらない」という消極的・受動的な姿勢ではなく、「ビジネスと同様に、採用においても当社は社のポリシーとして社会的公正さを貫くんだ」という姿勢で、「公平」を実現させていただきたいのです。

採用における「公平」とは、すべての応募者をフェアに扱うということであり、「フェアに扱う」とは、応募者一人ひとりに同等のチャンスを提供し、そのうえで適切な評価・選考を行うということにほかなりません。そして、この「公平」を貫き通すことは、結局、会社としてのブランディングを保持するとともに、評価・選考における「正確」を担保することにもつながるのです。

現在は労働基準監督署や労働局に不公平な扱いが露見しなければいい、という時代ではありません。不公平な扱いに関する情報は、新卒者採用の場合、インターネット上の掲示板(「みんなの就職活動日記」など)を通じて瞬く間に全国の学生に知れわたります。そして現在の、あるいは将来の顧客となる学生は、「あの会社はこんなアンフェアなことをする企業だったのか」との認識を、その会社のブランディングイメージの一つとして頭に刻みつけるのです

「公平」ということでは、採用プロセスにおいてすべての学生に同じ機会を提供するという公平性と、採用面接における面接時間・回答機会の公平性の両方が大切な要件となります。具体的にいえば、面接時間を30分に設定した場合、どの応募者に対しても30分の面接機会を与えなければフェアとはいえません。

ただし、同じ30分が与えられても、面接官によって質問内容がバラバラだったら、これもフェアとはいえないのです。

たとえば、学生時代に陸上部だったAさんには、走ることが大好きな面接官からその領域の質問ばかり投げかけられ、アメフトの部長だったBさんは、フォアザチームの精神とリーダーシップ論について面接官と終始やりとりし、Cさんは面接官の要望に応じて将来の夢についてずっと話していた、というように。

これでは回答機会の公平性が損なわれるのは当然でしょう。そもそもどの面接官にあたったか、どの面接官が評価したかによって「通る・通らない」が決まるのは、不公平の極みといえます

このような面接は、学生にとってフェアでないと同時に、会社にとってもまた、採用を成功させる重要な要件の一つである「正確」を欠くことにつながっているのです。

私は講演のあとの雑談の中で、よく企業の方にこんなことを尋ねます。「このタイプの社員は誰が採って、このタイプは誰が合格をだしたか、いちいち確認しなくてもみなさんわかりますよね?」と。

多くの方が「わかる」とおっしゃって苦笑されます。しかし、それがわかるということは「公平」でも「正確」でもなく、結局は合否判定が面接官個々人の好みに左右されることを、みなさん理解されているのです。

必要な能力要件を定め、それに準じて面接するという「コンピテンシー面接」が、「正確」だけではなく「公平」を実現させるうえでも、きわめて有効であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

11.応募者からも社内からも聞こえてくる「賛同」

三つめの要件である「賛同」もまた、「正確」と「公平」の履行によってこそ実現できるものなのです。

本Volの冒頭に記したように、「賛同」とは応募者側からも社内の人たちからも、採用活動のあり方について「優れた採用方法であると認める」「評価できる」「共感できる」等々と思ってもらえることですが、これを「社内賛同」「外部賛同」とよんでいます。

「賛同」が実現できているとは、採用活動全般を通じて「社内賛同」「外部賛同」の両方が得られるような採用システム(仕組み・枠組み)が構築されており、それに沿って採用活動がきちんと進められていることをいうわけです。

応募者側から見るなら、たとえば、「この会社は採用する側としての騎(おご)った態度をとることなく、自分を一人の人間として尊重してくれた。この会社がとても好きになり、ぜひ採用されたい」

「不公平だと感じるような扱いは一切受けなかった。とてもフェアな会社だ」

「面接では、自分の話を本当によく面接官が聴いてくれた。自分のよさも引きだしてくれたし、同時に悪い部分も隠しきれなかった。結果がたとえ不合格であっても納得がいく」

採用活動の進め方がシステマティックで、いらいらしたり、疑問を感じることはなかった。このことに関してはとても満足している」

というふうに感じてもらうことだといえるでしょう。学生であれば多くの人がこれらの感想をネットの掲示板に書きこみ、キャリア採用の応募者であればエージェント(仲介会社)にその旨を報告する。そのような採用のあり方が「賛同」に値するものです。

一方社内からは、たとえば、「募集広告を見たり、採用向けの会社案内に目を通すくらいだけれど、ウチの会社かどういう人物を求めているかがよくわかるし、なるほどと感じる」

「実際、入社してくる人たちを見ると、ウチの事業特性や社風にマッチした人材をきちんと選別して採用しているようだ。なかなかのもんじゃないか」

といった意見や感想が、自然と人事担当者や面接官の耳に聞こえてくる。これもまた「賛同」の証(あか)しであるといえるでしょう。

例示した賛同の言葉から推量できるように、こうした肯定的な評価が生まれるのは、採用活動全般に「正確」と「公平」が貫かれているからにほかなりません。つまり、「コンピテンシー」を採用活動の基軸に組み込み、それをきめ細かく運用すれば、「正確」と「公平」が実現でき、その結果としての「賛同」が確実に得られるのです。

私たちが「コンピテンシー面接」を単なるメソッドやテクニックとしてではなく、会社のポリシーや哲学として採り入れていただきたいと望むのは、まさにこういう理由からにほかなりません。

最後に、以下のことを書き添えておきたいと思います。

新入社員をまずは大きな器で受けとめてください。また、新卒採用においては、その学生一人ひとりの適性を十分に把握したうえで配属先を勘案してください。入社後の配属を考えるうえでも、コンピテンシー面接での情報は有効に活用することができるのです。

私の知っているクライアントの中には、入社後の育成プランを全員一括の枠組みで考えるのではなく、一人ずつその個人の特長や持ち味に合わせて作成しているというところがあります。

これこそ、採用本来の目的に沿った「戦略的な採用」のよい手本といえるでしょう。

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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