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大川橋蔵主演・若さま第8作目『若さま侍捕物帖』(1960)紹介と感想


あらすじ

江戸は正月気分で沸いていた。そんな中、見廻り役の侍が何者かに暗殺され、伊勢屋の清酒で毒見役が命を失う事件が発生。伊勢屋は取り潰しとなり、主人は獄門、関係者は島流しと決まった。残された時間は後4日。あまりの出来事に、伊勢屋の主人は亡くなってしまう。
一大事とばかりに、小吉と佐々島が揃って喜仙に事件を持ち込もうとするが、若さまは不在。
その頃、若さまは酒を飲みながら町人達の話す伊勢屋事件の噂話を聞いていた。
その後も、矢場で遊んだりしながら情報を集める若さま。
敵方にも存在が知られるが、怯むことなく若さまは調査を進めていく。
事件を裏から操る堀田加賀守と鈴木妥女、唐金屋総右衛門の陰謀に若さまが挑む。

紹介と感想

正月映画として年末公開となった若さまは、作中でも年始の事件が描かれます。そのため、正月の華やかな空気が画面を明るく彩っていました。

しかし、その裏では権力者の欲望の犠牲になっている人々がいました。
もちろん、若さまは不正を見逃しません。
悪人が悪人として分かりやすく描かれるので、謎解きの興味はありません。
権力者を相手に、どのように若さまが挑むのかが見どころとなります。

大川橋蔵は自分の若さまを完全にものにしており、若さま独自のカッコよさが出ていました。最後の大立ち回りも見応えがありますが、矢場の前で小物を相手に扇子で飄々と戦う姿が、若さまを感じて好きなシーンです。

今回は中盤で、世の中に正義の心だけでは太刀打ちできないものがあるのではないか、自分は世間知らずの若さまなのではないかと悩む姿もありますが、おちかの決死の覚悟を前にして若さまは気持ちを新たにします。

クライマックスの派手さはシリーズでも随一で、珍しく若さまが葵の御紋を身に纏い、自分の本来の立場で言葉を紡ぎます。そして、若さまの本当の身分を知りながら殺そうと向かってくる相手に、秘剣・一文字崩しが決まります。

今回は、分かりやすく強大な権力に立ち向かう話の為、悪役が重要になりますが、こちらも3人ともさすがの存在感を感じさせてくれました。
鈴木妥女が雇う用心棒集団が「地獄道場」というのも、分かりやすくて好きです。

今回の小吉と佐々島は、二人で行動することも多くコミカルなコンビを見せてくれます。
おいとは、正月なのに若さまは喜仙に居ないことも多く、矢場のお澄の登場などで、落ち着かない時間を過ごしていました。

正月にくつろぎながら、何も考えずに若さまの活躍に喝采を送る。
正義に熱く心は軽やか、庶民の味方な若さまの魅力が光る、勧善懲悪でしか描けないものを感じられる作品でした。

「お前は大変慌て者だな。それとも頭が悪いのか。笑わせちゃいけねぇぜ。俺が千と一両でも安いと言ったのは、たとえ死にかかった病人一人の値段にしても安いと言ったんだ。千両積もうが万両積もうが、人間の生命なんぞは取引できない尊いもんだ。それに金を貰って人を殺すなんざ、世の中の屑も屑、大屑だ! その屑に千両積んで頼みに行った馬鹿者の名を、おう、言ってやろうか!」

地獄道場の面々に取引を持ち掛けられた若さまの返答

キャスト

    若さま/大川橋蔵

    おいと/桜町弘子
  遠州屋小吉/本郷秀雄
  佐々島俊蔵/千秋 実

    おちか/三田佳子
    月美香/藤田佳子
     お花/円山栄子
     お澄/花園ひろみ
   鈴木妥女/山形 勲
唐金屋総右衛門/三島雅夫
     お蝶/清川虹子
    英明院/花柳小菊
  堀田加賀守/坂東好太郎
  山田文五郎/加賀邦男
  番頭・弥平/沢村宗之助
     頓平/茶川一郎
   熊谷民部/戸上城太郎
     奈美/岡田ゆり子

映画概要

「若さま侍捕物帖」(1960)
原作:城 昌幸
脚本:結束信二
監督:佐々木康
時間:84分

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)


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