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若さま侍捕物手帖・中編「紅鶴屋敷」(1959)紹介と感想+大川橋蔵主演・若さま第7作目

城 昌幸『縄田一男監修・捕物帳傑作選 若さま侍捕物手帖』徳間書店, 2008, p5-192


あらすじ

杉田という漁師村へ赴いた若さまは、釣り糸を垂らしながら海を眺めている浪人へ声をかけると、斬られそうになり海へと落ちた。
なぜ、若さまが海辺へ来ているのかと言うと、江戸で起きた越後屋の番頭・庄右衛門の殺しが関係していた。
遠州屋小吉が、殺しの調べの最中に松平下総守の下屋敷で行われている、赤い鶴の帆が付いた船との抜荷の現場を見つける。その際、小吉に協力していた船宿喜仙の船頭・辰之助から、地元の漁師村に「紅鶴屋敷」と呼ばれている屋敷があるとの話を聞いたのだ。
この屋敷の現在の持ち主が越後屋だと聞いた小吉は、すぐに若さまに報告した。すると若さまから、「手ッ取り早く、根城を、ひっくり返すとしよう」と提案されたのだ。
越後屋の主人や勘当された若旦那、尼上がりの女なども杉田へ集まり、事件は紅鶴屋敷でクライマックスを迎える。

紹介と感想

この中編は、1951年の短編「太公望」を中編に書き改めた物とのことです。

物語は、なぜ若さまが地方に居るのかを明かす形で、遠州屋小吉と子分の千造の活躍を描く江戸パートと、その後の紅鶴屋敷で起こる事件と若さまの活躍を描く、大きく二つに分けられます。

ミステリー的には、殺人事件の謎と怪しい兄妹の正体でけん引しますが、読者が謎を解くようなものではありません。
しかし、最後まで停滞することなく進む物語を楽しむことができる、良い大衆小説でした。

始めの浪人との場面や、小吉と千造、辰之助の活躍など、楽しめた場面が多かったのも、全体の満足度に繋がっていました。

「この一件。水に落ちて始り、水に落して終るとは妙な因縁。ハッハッハ!」

若さまの事件を締めくくったひと言

大川橋蔵主演07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)

監督・脚本の座組が変わり、小吉とおいとのキャストも変更になった第7作。お馴染みとなっていた若さまのテーマソングもありません。
物語もお千代のナレーションから始まり、映画全体に今までと少し違う雰囲気を感じさせます。

前回から総天然色で送る若さまですが、今回も最初から最後まで江戸を離れた作品になっており、ロケ地の美しさを全面に堪能できる作品となっています。

物語は、原作の要素を取り入れながら、大筋は映画オリジナルの展開でした。
若さまの明るさの中にもサスペンス的な雰囲気を濃い目に描写しており、今まで以上に謎を強調した演出がなされています。

原作では物語後半まで存在感が薄かった紅鶴屋敷は、紅い折り紙で折った鶴が大量に吊るされているなど、原作以上に怪しい屋敷であることが強調されています。

大川橋蔵は、文字通りの水も滴る良い男な姿を見せてくれます。
サスペンス要素を強めた作風なので、今までよりも出番は少し控え目ですが、それでも秘剣一文字崩しだけでなく、二刀流も見せてくれました。

原作との主な違い(ネタバレあり)

・おいとも一緒に来ており、若さまとの青春を見せつけてきます。
・小吉以外は物語の初めから紅鶴屋敷周辺に集まっており、江戸パートはありません。
・村の住民の描写が多くなっています。
・死体の上に紅い折り鶴が置いてあります。
・清吉がヤクザ者になっており、仲間と一緒に清左衛門の命を狙ったりします。しかし、清左衛門も強くヤクザ3人を倒してしまいます。しかし、その直後に清吉のドスを利用した何者かにより命を奪われてしまいます。
・お千代は若さまに少し惹かれている様子があり、与吉はお千代に惹かれています。
・事件の被害者が原作より増えています。

キャスト

  若さま侍/大川橋蔵

   おいと/花園ひろみ
 遠州屋小吉/沢村宗之助

   お千代/桜町弘子
  覚全和尚/月形龍之介
    与吉/尾上鯉之助
   茂兵衛/進藤英太郎
  清左衛門/原健策
 佐竹半次郎/河野秋武
    糸平/堺 駿二
    清吉/片岡栄二郎
    お崎/東 竜子
十手の甚兵衛/杉 狂児

映画概要

「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957)
原作:城 昌幸「紅鶴屋敷」
脚色:比佐芳武、鷹沢和善
監督:沢島忠
時間:81分

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)

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