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大川橋蔵主演・若さま第9作目『若さま侍捕物帖 黒い椿』(1961)紹介と感想


あらすじ

伊豆の大島へ保養へ来た若さまは、火口付近で椿の花を持って佇んでいる娘が気になり近づいていく。しかし、娘は花を火口に投げ捨て逃げてしまった。
その後、椿婆から「お君を追いかけるでない。御神火様の祟りがあるぞ。早く江戸へ帰れ」と言われる若さま。
宿泊している宿、椿亭の女将・お園と番頭・金助以外の島の人間に避けられている若さまだったが、お君だけが若さまの後ろを付けてくる。
お君は、江戸から来た侍と島の女の間に生まれた子で、侍は江戸に帰ったきり戻ってこず、母親は父親がいないと言う事で島中から責められて自殺をしたとのことだった。そんな事情もあり、お君は村人からバカにされながら苦しい生活を送っていた。
様々な人間の思惑が絡みながら進む日々は、遂に島を揺るがす殺人へと発展していった。

紹介と感想

若さまのナレーションから幕を開けた物語は、シリーズ最大の異色作となりました。
今までは基本的に最初の方で事件があって、それを追いかけることが主軸でしたが、今作は何か大きな事件が起きそうな気配はありながらも、物語は日常の中での小さな諍いやすれ違いなどを群像劇としてゆっくりと描いていきます。

若さまの出番も少な目で、前半は情報収集はしつつも、のんびり釣りを続け、お君との交流も深めていきます。
最初は島の人間に倣って若さまを避けようとするお君でしたが、若さまの屈託のない態度に少しずつ心を開いていきます。

しかし、映画が半分を過ぎた頃、遂に殺人事件が起きてしまいます。
網本が祖父・作造の銛で突かれて殺され、作造が殺したと考えたお君は、現場から銛を持ち出し海へ捨ててしまいました。

若さまは早速捜査を始め、折よく若さまを追いかけてきた遠州屋小吉も合流します。
事件は新たな犠牲者も現れ、島を挙げての大騒ぎとなりますが、若さまは冷静に事件を見つめて行きます。

サスペンスを群像劇としてゆったり描く本作では、若さまの大立ち回りシーンもありませんでした。刀を抜くのも犯人に対して一度きり、それも激しい斬り合いの場面ではありません。
分かりやすい立ち回りシーンが無いのは原作に近いとも言えますが、今まで立ち回りシーンを山場に置いてきた娯楽時代劇シリーズとしては挑戦だと思います。

立ち聞き・覗きが趣味の江戸の油問屋・新三役の山形勲が良い味を出していました。良い人を装いながら、場を掻きまわし、人を脅迫する。様々な役をこなせる山形勲の素晴らしさを感じられました。
その他、田中春男に青山京子、千秋 実も印象に残りました。

また最初から最後まで大島が舞台の本作。ゴツゴツとした岩肌の荒涼とした景色の中に、真っ赤に咲き誇る椿の赤。画面の美しさも素晴らしいものでした。

ゆっくりと群像劇的に人物が描かれ若さまの出番が控え目な事、分りやすい巨悪が目立つわけではなく動機を持つ複数の容疑者から犯人を探すサスペンスドラマの雰囲気が強いこと、前作までの軽やかさに比べるとカッチリした空気が強めなことなど、これまでの作品との違いから気になる人もいそうですが、自分としては好みの作風で面白く観ることが出来ました。

主演が大活躍するアクション満載な娯楽時代劇的な作品が好きな人よりも、2時間サスペンスドラマが好きな人の方が楽しめる作品だと思います。最後の場面には崖もあります。
監督の持ち味がしっかり出た、シリーズ後期の良作でした。

「大島、伊豆の大島。犯罪と混雑の江戸を抜け出して、私はただ一人、この島に保養に来た」
 のんびりと火口付近を歩いていた若さまは、火口に立つお君を見つける。
「不思議なアンコ、この娘、一体何をしようというのか。私の持ち前の好奇心が動き出した」

『若さま侍捕物帖 黒い椿』(1961) 物語の始まりを告げる若さまのナレーション

キャスト

   若さま/大川橋蔵

 遠州屋小吉/沢村宗之助

    お君/丘さとみ
    お園/青山京子
    新三/山形勲
    金助/田中春男
  弥太五郎/河野秋武
   甚兵衛/阿部九洲男
大島の源兵衛/千秋 実
    与吉/坂東吉弥
    作造/水野 浩
   辰五郎/中村時之介
    タコ/尾形伸之介
    お熊/金剛麗子

映画概要

「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
原作:城 昌幸
脚本:鷹沢和善・山崎大助
監督:沢島忠
時間:93分

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)


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