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若さま侍捕物手帖・長編01『双色渦巻』(1948)+大川橋蔵主演・若さま第1・2作目 紹介と感想

城 昌幸『時代推理小説 若さま侍捕物手帖』光文社, 1986


あらすじ

質店・布袋屋の土蔵が盗人に入られたが、盗まれたものはなく、追いかけた番頭が峰打ちをくらっただけだった。次の日、二つ目の土蔵に盗みに入られるがまたも何も盗まれず、土蔵の扉の内側に血がべったりと着いていたが、店の者は無傷だった。
遠州屋小吉に連れられ布袋屋を訪れた若さまは、布袋屋の未亡人・おかくに用心棒を頼まれる。
その夜、酒を飲みながら質物の出入り帳を調べ始めた若さまは、三日前病死した主人・彦兵衛が管理していた別口帳面へと目を付ける。
山岡帯刀という侍が預けた品物が「珍品・別帳」と記載されているのが気になったのだ。しかし、おかくも番頭・貞吉も見当がつかぬとの返事。
その夜も更けて、三番蔵へ忍び込んだ宗十郎頭巾の賊。その後ろから、傍若無人な笑い声が聞こえた。
不思議な盗人から始まった事件は、様々な人の思惑を伴い、ついには殺人へと発展する。


紹介と感想

五大捕物帳と呼ばれる作品の一つ『若さま侍捕物手帖』の初めての長編になります。
(ちなみに、五大捕物帳の他四つは「半七捕物帳」「右門捕物帳」「銭形平次捕物控」「人形左七捕物帳」になります)

船宿・喜仙の居候、通称・若さま。無類の酒好きで、普段は酒を飲みながら外を眺めたり、横になったりしています。葵の紋所がついた羽織を持っていたり、南町奉行所の与力・佐々島俊蔵を好きに使ったり、金銭に頓着が無かったりと、身分の高い人物であると推察されますが、その正体は不明です。

しかし、お上御用聞きの遠州屋小吉が事件を持ち込むと、時には話を聞いただけで解決し、時には自ら動き回り縦横無尽の活躍をします。

今作は長編だけあって、若さまがあっちへこっちへ出かける事が多く、一度などは刀を抜く様子もみられます(若さまは基本的に積極的に戦いません)。

事件は「宗十郎頭巾の賊の正体」「山岡帯刀の家から預かった呉須の絵皿の行方」をメインの謎に話を引っ張って行きます。
殺人はありますが、作品内の扱いにおいては、あまり重要ではありません。

上記の謎自体は、そんなに凝ったものではありませんが、本書の魅力はその読みやすさと展開の早さにあります。

初出が埼玉新聞の連載だったようで、1つの章は10数ページから長くても20数ページ、更に2~3ページで1節位になっています。
そのため、区切り良く次々と物語が進んでいき、いつの間にやら物語が先に進んでいくという形で読み終わることができました。

若さまの明るさも物語の魅力になっており、ザ・娯楽時代小説というものを読みたい時には、今読んでも楽しめると思えます。

作品数が長短編合わせて300編近くある若さまですが、まだ1割も読めていません。これからも少しずつ読み進めたいと思います。

「お武家さんは、何ですかい?」
 と、尋ねた。
「わしか。わしは天下無禄の浪人船宿喜仙の居候」

城 昌幸『時代推理小説 若さま侍捕物手帖』光文社, 1986, p218
お神楽の安が面食らった様子で若さまへ素性を尋ねた際の返答


若さま侍捕物手帖「地獄の皿屋敷」「べらんめえ活人剣」(1956)

1956年に東映から公開された、大川橋蔵主演のシリーズ1作目と2作目は、『双色渦巻』を原作とした前後編の内容になっています。

前編は、独自のイベントが入りながらも原作の筋に沿って進行しますが、彦兵衛が殺されてからの後編は人間関係変更の影響が爆発して、映画独自の展開になっていきます。
謎の興味で引っ張る前半と、ピンチの連続の中どうやって巨悪を倒すのか、娯楽捕物アクション満開の後半という感じです。

原作と映画の一番の違いは、若き大川橋蔵が演じる若さま侍が、要所要所で見せる殺陣になります。
原作ではめったに人と戦わない若さまですが、映画では降りかかる火の粉が多すぎて頻繁に剣を交える事になります。
まだデビューしたばかりのため、後の作品に比べると粗削りなところがありますが、それでも若さ溢れる勢いと、美しさがあります。

また、若さま単独での活躍も目立ちますが、遠州屋小吉、とん平と組んでのチームでの捜査も魅力です。

捕物娯楽映画でお馴染み、権力を傘に着る巨悪に立ち向かい、最後は打ち倒してスカッとさせてくれる。最後まで楽しく観ることができました。
映画を観終わった時には、何度も流れる若さまのテーマソングが耳に残っていることでしょう(というより、映画の最後で町の人たちが総出で若さまの歌を歌ってくれます)。

原作との主な違い(ネタバレあり)

・遠州屋小吉に子分のとん平がいる。
・最初の晩の盗みを届けなかったことを明言させて、布袋屋に後ろ暗い所があることを初手から示唆。
・治助は、原作だと病弱で特に話にも絡まなかったが、映画では勘当されており、若さまに「呉須の絵皿」の経緯を教えてくれる。
・お喜代(原作のおあい)は、隆之助と恋仲になり、お蝶の存在はカット。
・謎の賊は般若面になり、代わりに横川出羽守の家臣が宗十郎頭巾の集団になっている。
・おかくと豊五郎は不倫関係、豊五郎が黒幕の一人になっている。
・お神楽安蔵と知り合いは治助と豊五郎になる。
・横川出羽守が豊五郎と結託して黒幕になっている。「呉須の絵皿」の話を持ってきたのも横川出羽守。目的は小百合を手に入れるため。殺陣を増やしたり、巨悪を倒すという映画的盛り上がりにつなげている。
・横川出羽守が喜仙を襲い、おいとが誘拐、助けに行った若さまの窮地を般若面の侍が助けたり、般若面の侍との関りが深くなっている。
・後編に入ってすぐ黒幕の正体は明かされるため、後編はどのように悪人を追い詰めるかが主眼のアクションメインの話になる。

キャスト
  若さま侍/大川橋蔵

   おいと/星美智子
 遠州屋小吉/星十郎
   とん平/横山エンタツ

  山岡帯刀/高松錦之助
 山岡隆之介/石井一雄
 山岡小百合/長谷川裕美子
   豊五郎/原 健策
 横川出羽守/加賀邦男
布袋屋彦兵衛/有馬宏治
   おかく/朝雲照代
 お神楽安蔵/清川荘司

映画概要
「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)【前編/56分】
「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)【後編/52分】

原作:城 昌幸『双色渦巻』
脚本:村松道平・西条照太郎
監督:深田金之助

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)


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