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若さま侍捕物手帖・長編05『人魚鬼』(1956)+大川橋蔵主演・若さま第6作目 紹介と感想

城 昌幸『縄田一男監修・捕物帳傑作選 人魚鬼 若さま侍捕物手帖』徳間書店, 2009


あらすじ

小森新太郎は四人の侍に闇討ちを仕掛けられるが、これを見事に撃退した。
翌日、青山下野守と懇意にしている医師・江川了巴に、二千五百石で重大な役目を受けるように声をかけられる。その役目は、稀世の美女と名高い、青山家の一人娘・うつぼ姫の守護だった。
同じ頃、江戸では貧乏暮らしだが美しい娘ばかりを法外な金額で身請けする人物が現れ、いかにも不振に思った遠州屋小吉は若さまへ相談する。
自分を快く思わない侍たちや、自分に好意を持っている元芸者・おさい等と関わりながら数日を過ごしていた新太郎は、姫の美しさを永遠に保つために人魚島に伝わる不老不死の術を授かりに行くと、了巴から聞かされることになる。
了巴の昔馴染みの医師・岳庵や、岳庵に協力する佐山八十兵衛らの思惑も絡みながら、人魚島を目指す一行は東海道を進んでいく。

紹介と感想

文庫本にして700ページに近い物語は、正に一大娯楽長編言うべき内容でした。
物語も明確な事件を追う話ではなく、各人の思惑が絡まって次々と事件がおこり、怪しい秘術まで絡んでくる伝奇小説の趣が漂っています。

物語の後半から若さまの出番も少しずつ増えていきますが、基本的には様々な視点から描かれた群像劇で、前半から中盤にかけて中心にいるのが小森新太郎となります。
おいとや遠州屋の出番は殆どなく、若さまも後半までは出番が控え目なので、途中の旅路などは若さまシリーズであることを忘れてしまいそうになります。

群像劇ということもあり、一件悪者サイドに見える人物にも抜けた人物や頭の切れる人物を配置しており、話の展開に合わせて人間関係が変化するため、徐々に魅力が増していく人物も多いです。
なんか憎めない岳庵や、最初から冷静さを見せていた佐山八十兵衛などはその代表だと思います。
逆に、どう頑張っても魅力を出せそうもない人物への処遇がさっぱりしすぎて、清々しいなと思いました。

不老不死の術とはどのようなものなのか、人魚島はあるのか。
解決は賛否両論ありそうですが、個人的には「この物語は捕物帳だった」と思い出したかのような感じで、良いと思いました。
結局、怖いのは怪しい術などではなく、人間の欲なのです。

何も考えずにスラスラと楽しんで読める、昔ながらの大衆小説を読みたい時に期待に応えてくれる一冊です。

「ほんに、あのお方さまは不思議なお人。別に、これということもござンせんのに、お傍におりさえすれば、こう、気が楽になってくるから……」
「うむ。春風のようなお人だ」

城 昌幸『縄田一男監修・捕物帳傑作選 人魚鬼 若さま侍捕物手帖』徳間書店, 2009, p570
おさいと小森新太郎が若さまを評して

大川橋蔵主演06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957)

本作から若さまシリーズも総天然色になりました。そして、レギュラーキャストとテーマソングを固定して続いた前期シリーズ最終作となります。
登場人物の名前や「人魚島」というモチーフ、旅先での姫の格好など、いくつかの要素を原作から借りていますが、物語自体は映画オリジナルになります。

あらすじ

両国の川開きの夜、若さま達は酒を飲みながら花火を楽しんでいた。特に盛り上がったのは花火師の六兵衛が作った花火だ。
しかし、その花火の最中に六兵衛が殺される。続いて、同じ夜に鍵屋の番頭、次の日には人から恨まれるとは思えない板造という男までが殺された。
事件を調べ始めた若さまは、怪しき一味を追って旅に出る。
若さま一行が、尾張屋敷の謎の姫君や人魚が絡んだ、大いなる陰謀に挑む一篇。

紹介と感想

原作と違い、不老不死の話題などは無く、いつも通り殺人事件を調べていくと大いなる陰謀に行きあたる筋書きになります。また、人魚島と島で暮らす人々の姿も実際に描かれ、原作とは描き方を変えて、人魚も出てきます。

映画は若さま視点が中心となり、物語を追っていきます。
原作のように中盤からは旅の場面が多くなり、シリーズ初の総天然色を活かした風景が展開されます。また、若さまだけでなく、遠州屋小吉も旅に出ます。

見知らぬ侍が若さまを連れ出そうと訪ねてきた際に、「若さま、お断りなさいよ。見ず知らずのお侍が若さまを連れ出そうとするなんて生意気よ!」という おいとちゃんの独占欲がいじらしいですね。そんな気持ちのおいとちゃんですが、若さまは旅に出るのに手紙を残していくだけでした。

物語に目新しさはなく、特に謎解きもありませんが、旅の道中や島の風景など江戸を舞台にした作品では見られない場面も活かされた楽しい映画でした。

庶民の幸せのため、殺された人間が成仏できるように、そんな心で捜査をしながら、表向きは飄々としている若さまのカッコよさが光ります。

※2024年2月4日まで東映時代劇チャンネルで観ることができるようです。

キャスト

   若さま侍/大川橋蔵

    おいと/星美智子
  遠州屋小吉/星十郎

     頓平/岸井明
   徳川治行/伏見扇太郎
   うつぼ姫/大川恵子
    おさい/千原しのぶ
    舞岳庵/渡辺 篤
  島方小太郎/山手 弘
 佐山八十兵衛/松本克平
利倉屋金左衛門/岡 譲司
  宝田弥兵衛/上代悠司
   島方左門/河部五郎
  蜷川七兵衛/月形哲之介
  小森新太郎/立松 晃
    おしん/東 龍子
   黒坂丹助/仁礼功太郎
   江川了巴/進藤英太郎
   青山玄蕃/坂東簑助

映画概要

原作:城 昌幸『人魚鬼』
脚色:村松道平
監督:深田金之助
時間:82分

東映・大川橋蔵主演シリーズ作品リスト
01「若さま侍捕物手帖 地獄の皿屋敷」(1956)原作:『双色渦紋』
02「若さま侍捕物手帖 べらんめえ活人剣」(1956)原作:『双色渦紋』
03「若さま侍捕物帖 魔の死美人屋敷」(1956)原作:『おえん殿始末』
04「若さま侍捕物帖 鮮血の晴着」(1957)原作:「五月雨ごろし」
05「若さま侍捕物帖 深夜の死美人」(1957)原作:「だんまり闇」
06「若さま侍捕物帖 鮮血の人魚」(1957) 原作:『人魚鬼』
07「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」(1958)原作:「紅鶴屋敷」
08「若さま侍捕物帖」(1960)
09「若さま侍捕物帖 黒い椿」(1961)
10「若さま侍捕物帖 お化粧蜘蛛」(1962)


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