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読書感想文

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シリーズでまとめていない本の感想をまとめています
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#ミステリー

ネロ・ウルフ長編26『母親探し』The Mother Hunt(1963)紹介と感想

レックス・スタウト 鬼頭玲子訳『母親探し』論創社, 2024 2014年から論創社から出ているレックス・スタウトのネロ・ウルフシリーズ。 今年の作品は、ドラマ化された作品は日本でも放送されましたが、原作としては日本初訳になります。 あらすじ 六月初旬の火曜日、ルーシー・ヴァルドンから受けた依頼は、家の前に置き去りにされていた赤ん坊の母親を見つけること、九か月前に亡くなったリチャード・ヴァルドンが父親である可能性を明らかにすることだった。 わずか三日で赤ん坊を一時預かって

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』紹介と感想

阿津川辰海『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』光文社, 2022 本書は、ミステリー作家であり無類の読書好きである著者の、本への愛と博識ぶりが分かる、全3部構成の解説・エッセイ集になります。 その紹介数は総勢362名、1,018作品と驚きの量。 第23回本格ミステリ大賞[評論・研究部門]受賞作です。 「第1部 阿津川辰海は嘘をつかない~阿津川辰海 読書日記~」では、〈ジャーロ〉のサイト内で現在も連載しているエッセイから、2022年3月掲載の第

笹沢左保『結婚って何さ』(1960)紹介と感想

笹沢左保『結婚って何さ』徳間書店, 2022 あらすじ 上司に理不尽に叱られた遠野真弓と疋田三枝子は、その場で会社を退職した。 その日は飲み潰れてやろうと入った三件目のバーで、見知らぬ男と一緒に飲む事になり、流れで三人で旅館へ宿泊した。 しかし、次の日の朝には男は首を絞められ殺されていた。 部屋の鍵はかかっており、犯人として捕まる事を恐れた二人は現場から急いで逃げ出す。 事件を追うための僅かな手掛かりは、男が持っていた名詞と切符だけ。 次々と現れる疑惑の死の先にある真実と

十津川シリーズ長編3『消えたタンカー』(1975)紹介と感想

西村京太郎『消えたタンカー』光文社, 1983 まだ読んだ事の無かった初期の十津川を読んでみました。 西村京太郎はドラマの方がお馴染みで、原作は、十津川シリーズ長編5作程度と中短編数作、名探偵シリーズ全4作、左文字シリーズ数作、『殺しの双曲線』などのノンシリーズ数作程度しか読んでない初心者になります。 あらすじ インド南端から1000キロの沖合で58万キロリットルの原油を運んでいたマンモスタンカーが炎上した。 近くを通っていた船に救助されたのは乗務員32名中、宮本船長

竹本健治『匣の中の失楽』(1978)紹介と感想

竹本健治『匣の中の失楽』講談社, 1991 『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』の日本三大奇書にプラスして、日本四大奇書と言われる際に追加される本書『匣の中の失楽』。 夢水清志郎の某作品など、様々な作品で名前を知っていながら読む機会がなかったのですが、これまた病棟の本棚にあったため、入院と言う果てしない時間を利用して読了しました。 入院中でなければ読むのに少し時間がかかったかもしれないため、良いタイミングで読めたと思います。 面白かったとも言えるし、作品内で

有栖川有栖『幻想運河』(1996)紹介と感想

有栖川有栖『幻想運河』講談社, 2001 10年くらい前に火村シリーズを数作読んだことがありますが、ノンシリーズを読むのは初めてになります。 あらすじ 大阪の各所の川にバラバラにした死体を小分けにして捨てていた男が警察に捕まった。 場所は変わってアムステルダム。シナリオライターを志す恭司は、アムステルダムでの生活も長くなってきたため、そろそろ出たほうが良いのではと思いながら、今の環境に未練があり決断できずにいた。 友人達とマリファナを吸った夜に、夢の中で突如告げられたバ

佐々木譲『笑う警官』(2004)紹介と感想

佐々木譲『笑う警官』角川春樹事務所, 2007 前から読みたいと思っていた〈道警シリーズ〉第1作目を、入院中に読むことができました。 以前感想を書いた阿津川さんの本でも紹介されており、読みたい熱が高まっていたので良かったです。 読んでみると期待以上に面白く、シリーズの続編も読みたくなりました。 あらすじ 大通署刑事課盗犯係の佐伯と新宮は、小樽まで出向き盗難自動車の密輸に関係した男を確保してきたが、道警本部にかすめ取られてしまう。 同日、円山にあるアパートの一室で女性の

黒岩涙香「血の文字」「紳士の行ゑ」+エミール・ガボリオ「バチニョルの小男」 紹介と感想

黒岩涙香著『黒岩涙香探偵小説選Ⅱ』論創社, 2006 各務三郎編『クイーンの定員Ⅰ 傑作短編で編むミステリー史』光文社, 1992, p.127-203 今回は、エミール・ガボリオの作品を翻案した2作品と、「血の文字」原作である「バチニョルの小男」を紹介したいと思います。 カボリオの原作もホームズとライバルたちの時代に負けない面白い物語ですが、それを涙香がどう調理したのかを観ることで、涙香が論理的な考え方を重視していたのが分かるものとなっていました。 エミール・ガボリオ

ネロ・ウルフ長編22『殺人は自策で Plot it Yourself』(1959)

レックス・スタウト/鬼頭玲子・訳『殺人は自策で』論創社, 2022 あらすじ 作家や出版社による盗作問題合同調査委員会から依頼を受けたウルフ。 「エイミー・ウィンが書いた『わたしの扉のノック』は、私が書いた『幸運がドアを叩く』の盗作だ」と手紙を送ってきた、アリス・ポーターを止めてほしいとの内容だった。 アリス・ポーターは四年前にも自身の作品が盗作されたと騒ぎ、八万五千ドルを手に入れていた。その後も、複数の人物が盗作疑惑で作家や脚本家を訴えて金を手に入れていた。そして、四

《海の上のカムデン》1『老人たちの生活と推理』(1988)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『老人たちの生活と推理 The J. Alfred Prufrck Murders』東京創元社, 2000 あらすじ 高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉で驚くべき事件が起こった。 人畜無害な元図書館司書スイーティーが滅多刺しにされて殺害された。 カムデンには警部補のマーティネスと部下のスワンソンが捜査に訪れる。 入居者達も色々と質問をされるが、役に立つ情報は中々得られない。 そんな中、入居者の一人・キャレドニアが自分たちで事件を調べて

《海の上のカムデン》シリーズ2『氷の女王が死んだ』(1989)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『氷の女王が死んだ Murder in Gray and White』東京創元社, 2002 あらすじ 前回の殺人から数か月、平和な空気に包まれていたカムデンに、またもや嵐がやってきた。エイミー・キンゼスが入居してきたのだ。 入居当日から女王のような態度のエイミーは、人に恥をかかせることが好きなのかのような行動を繰り返し、多くの人間が傷つけられた。 自分のプライバシーを守るために、疑わしき者は罰するの精神で怒鳴りまくるエイミー。当然、

《海の上のカムデン》シリーズ3『フクロウは夜ふかしをする』(1992)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『フクロウは夜ふかしをする Murder by Owl Light』東京創元社, 2003 あらすじ ある火曜日の夜、自動販売機の管理をしていたエンリケ・オルテラーノが、カムデンで刺殺された。 事件はベンソン部長刑事が担当となったが、オルテラーノ自身に怪しい所はなく、捜査は進まなかった。 次の火曜日の夜、今度はカムデンの庭師、ロロ・バグウェルが自分の大バサミで刺殺される。 カムデンの入居者達は殺人事件の話題で盛り上がり始めるが、同じく

イーデン・フィルポッツ『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』感想

イーデン・フィルポッツ/武藤崇恵・訳『孔雀屋敷 フィルポッツ短編傑作集』東京創元社, 2023 収録短編あらすじ孔雀屋敷 Peacock House(1926) 教師をしているジェーン・キャンベルは、夏の休暇にダートムアのふもとに建つポール館へやってきた。ポール館には、幼い頃に亡くなった父の友人・グッドイナフ将軍が住んでおり、招待してくれたのだ。 ある日、ジェーンは散策途中に孔雀が住む独創的な屋敷へたどり着いた。そこで、二人の男と一人の女の諍いの果てに起きた殺人を目撃する