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《海の上のカムデン》シリーズ3『フクロウは夜ふかしをする』(1992)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『フクロウは夜ふかしをする Murder by Owl Light』東京創元社, 2003


あらすじ

ある火曜日の夜、自動販売機の管理をしていたエンリケ・オルテラーノが、カムデンで刺殺された。
事件はベンソン部長刑事が担当となったが、オルテラーノ自身に怪しい所はなく、捜査は進まなかった。
次の火曜日の夜、今度はカムデンの庭師、ロロ・バグウェルが自分の大バサミで刺殺される。
カムデンの入居者達は殺人事件の話題で盛り上がり始めるが、同じくらい重要な話題として、新規入居者の件もあった。
最近新しく来たリナ・ガーデナーが、入居後1週間経ってもカムデンに馴染めず家に帰りたいと落ち込んでいたのだ。
彼女は、少し惚けてきたとの甥の判断で、本人の意に沿わない形で入居となっていた。
アンジェラとキャレドニアは、新人歓迎に殺人捜査にと、今回も縦横無尽に動き回るが、残忍な殺人事件は未だ終わりを見せていなかった。


紹介と感想(犯人は明かしてませんが内容への記述はあります)

今回は繋がりの見えない連続殺人事件にアンジェラとキャレドニアは挑みますが、本書前半はベンソン部長刑事と上手くコミュニケーションがとれず上手い具合に捜査が行えません。

2人にしてみるとベンソン部長刑事は面白みがなく詰まらない存在であり、ベンソン部長刑事も高齢者の理解が足りず上手くコミュニケーションが取れない面がありますが、真面目で彼なりの優しさもあり好感が持てました。

入居者達もいつも通り悲喜交々ありますが、特に印象に残ったのはお互いに再婚同士のシャーロットと一緒にカムデンに入居しているハワード・エマーソンになります。彼の人生がもう少し良い流れになると良いなと読みながら思いました。
また、ブライトン翁の膝について、今回は手術と言う手段もあることをアンジェラから教えてもらいましたが、それが彼の中でどのような波紋となったのか、今後が楽しみです。

所謂、ABCパターンの殺人でしたが、面白いのは犯人の浅はかさのせいで、当初の予定とは違う方法でパターンを組み直さなければいけなくなったことでした。
犯人は警察が頭が悪いせいで見立てが意味をなさないと言っていましたが、どう考えてもそのパターンに気づくのは教養が必要すぎるだろうと思ってしまいました。

犯人を当てるのは難しくないため、ミステリー的には犯人の思考と行動を予想するのが楽しみどころです。

軽めのミステリーと毒舌を楽しめる良い娯楽小説シリーズとして安定の面白さでした。

「オレンジを取ってくださる、ハワード?」シャーロットはソファの角に身体をあずけ、テレビから視線をはずさずに言った。
「もう風呂にはいるところなんだよ。半分、服も脱いだし。だいたい、オレンジはおまえのほうが近いだろう」
「だってわたしは編み物をしているんですよ」言い返して、夫人は足元の手さげ袋からかぎ針編みを取り出した。「お願いね」
 ハワードはため息をついた。こうやって顎で使われるのに慣れてもいいころなんだが——

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『フクロウは夜ふかしをする』東京創元社, 2003, p193
エマーソン翁が死体を発見した時の状況をブライトン翁に語った際のエピソードから

シリーズ一覧

01.老人たちの生活と推理 The J. Alfred Prufrck Murders(1988)
02.氷の女王が死んだ Murder in Gray and White(1989)
03.フクロウは夜ふかしをする Murder by Owl Light(1992)
04.ピーナッツバター殺人事件 The Peanut Butter Murders(1993)
05.殺しはノンカロリー Murder Has No Calories(1994)
06.メリー殺しマス Ho - Ho Homicide(1995)
07.年寄り工場の秘密 The Geezer Factory Murders(1996)
08.旅のお供に殺人を Murder Olé!(1997)
09.Bed, Breakfast and Bodies(1999)

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