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佐々木譲『笑う警官』(2004)紹介と感想

佐々木譲『笑う警官』角川春樹事務所, 2007

前から読みたいと思っていた〈道警シリーズ〉第1作目を、入院中に読むことができました。
以前感想を書いた阿津川さんの本でも紹介されており、読みたい熱が高まっていたので良かったです。

読んでみると期待以上に面白く、シリーズの続編も読みたくなりました。


あらすじ

大通署刑事課盗犯係の佐伯と新宮は、小樽まで出向き盗難自動車の密輸に関係した男を確保してきたが、道警本部にかすめ取られてしまう。
同日、円山にあるアパートの一室で女性の絞殺体が発見され、大通署の町田が同僚と駆けつけた。
女性は道警本部生活安全課の水村朝美であることが判明。捜査線上に同じく道警本部の津久井卓が上がったことで、事件は道警本部で調べる事となり、大通署は完全に手を引くように指令が下る。
現場の人間の誰もが、所轄が閉め出された事を不審に思う中、津久井は麻薬常習者で銃器を所持しているため射殺しても構わないとの命令が出た。
津久井は、麻薬密売や拳銃不法所持の大スキャンダルで世間を騒がせた郡司警部の元部下であり、明日の百条委員会で証人として出席することになっていた。
数年前に命がけの任務で津久井とバディだった大通署の佐伯は、明日の百条委員会に津久井を無事に送り届ける為に、信頼できる仲間を集めて独自に事件を調べ始める。


紹介と感想

警察組織の闇が絡んだ事件を、わずか一夜、しかも限られた人員で解決しなければならないという捜査物サスペンスを軸に、捜査本部を欺くための行動、裏切り者の裏をかくための策略と様々な要素が絡み合っており、人気が出るのも分かる充実ぶりでした。

このような話では、真犯人が誰かという以上に、どのように物語を収めるのかということが納得感と面白さに繋がると思いますが、その点も佐伯と小島を中心に相手の裏の裏をかく展開となっており良かったです。

真犯人を見つけ、津久井も無事に百条委員会まで送り届けることができましたが、やはり組織を覆う闇を払うことは難しかった。

それでも、現場で生きる人間として、今できることを最大限の力で行い、最善の結果を出していこうという姿勢は、次に繋がるのだと思いました。

現場には現場の意志がある。それが、途中から協力者が次々と現れたことに描かれていました。
多くの協力者の力を借りることで作戦が成功したことは、未来への一筋の光だと感じます。

札幌市内、しかも自分の良く知っている場所が舞台となっていたのも、面白さに繋がっていました。
知っている地名ばかりが出てきており、頭の中で地図を描けるのが面白さに直結するのは、地元が舞台の作品ならではです。
身体は病院のベッドの上ですが、新宮の車で札幌の街中を走っている気持ちで読んでいました。

原作が約20年前なので、一昔前の光景の中で展開されるのも、変わった所や変わっていない所を思い浮かべて楽しませてもらいました。

「だからおれたちは、津久井にかかった容疑を晴らし、明日、あいつがきちんと百条委員会に出るのを見届ける。このふたつは、組織をこれ以上腐らせないための、ちょっとした切開手術だ。多少痛いかもしれないが、早めに膿を出せば、組織は壊死せずにすむ」

佐々木譲『笑う警官』角川春樹事務所, 2007, p.103


映像化作品

映画『笑う警官』(2009)

ドラマ『道警シリーズ』
 第2話「笑う警官」(2013)

シリーズ一覧

01『笑う警官』(2004) 映画・ドラマあり
02『警察庁から来た男』(2006)
03『警官の紋章』(2008)
04『巡査の休日』(2009) ドラマあり
05『密売人』(2011) ドラマあり
06『人質』(2012) ドラマあり
07『憂いなき街』(2014)
08『真夏の雷管』(2017)


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