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《海の上のカムデン》シリーズ2『氷の女王が死んだ』(1989)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『氷の女王が死んだ Murder in Gray and White』東京創元社, 2002


あらすじ

前回の殺人から数か月、平和な空気に包まれていたカムデンに、またもや嵐がやってきた。エイミー・キンゼスが入居してきたのだ。
入居当日から女王のような態度のエイミーは、人に恥をかかせることが好きなのかのような行動を繰り返し、多くの人間が傷つけられた。
自分のプライバシーを守るために、疑わしき者は罰するの精神で怒鳴りまくるエイミー。当然、カムデンの入居者からも、すぐに嫌われた。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。ある日、エイミーが体操用の棍棒で撲殺されたのだ。
捜査担当はもちろんマーティネス警部補とスワンソン刑事。
マーティネスは前回の反省を活かして、毒にも薬にもならない捜査をアンジェラとキャレドニアへ依頼する。喜び勇んだ二人は早速作戦を立て始めた。
アンジェラは事件の捜査に、グローガン翁の禁酒にと、思いつくまま忙しく走り回る。果たして、なぜエイミーは殺されたのだろうか。


紹介と感想(犯人は明かしてませんが内容への記述はあります)

高級老人ホームには高齢になっても元気な女性と、数少ない元気な男性がくらしています。多くの住人が次々と出てきますが、キャラクター描写が、服装や家具、ティーセットなどの描写と結びつき、癖強な個性と合わさって自然とお馴染みの住人感がでてくるようになっています。

入居者以外の登場人物の中では、ボビー・ベアードの好感度がかなり高かったです。彼のおかげで、アンジェラにとって「楽しい殺人捜査」以上の意味が事件に加わり、捜査へ邁進する姿に説得力が加わっています。

前作と同じくアンジェラが勝手に突っ走りがちで、キャレドニアもそれに乗ることが多いですが、基本的には常識を持ちつつ、アンジェラと警部補との間を取り持ってくれます。
その警部補は、前作から二人の扱い方を学んでおり、彼女たちを一定程度は自由にさせつつ、必要なところで釘を刺しています。このバランスが、素人探偵が危ない目に遭いながら首を突っ込む作品だけど、楽しく読める一因となっています。

事件も、ガチガチな本格ミステリーではありませんが、犯人を疑うための伏線は各所に張られており、しっかり推理する楽しみがあります。

毒舌とユーモアに、適度なハラハラが加わって、面白く読み終わることができました。

2作目にして既にお馴染みの場所となっているカムデン。グローガン翁やトッツィなど前作から顔馴染みの入居者の他に、ジャクソン姉妹など今作からの入居者も濃い人物達が揃っています。

まだまだ事件が止まらない、血沸き肉躍る老人ホームの事件簿は、まだ始まったばかりなのでした。

「一理あるね。老人ホームのしぼんだおばあちゃんを疑う人間はいないもの——誰も! 歳をとって人畜無害に見えさせすれば、人畜無害な年寄りだとみんな思うんだわ。もうちょっと分別ってもんがないのかねえ?」キャレドニアはげらげらと笑った。「ひとつだけ確かなのはね、誰もあたしとあんたがそんなふうだとは思わないんだわ。もちろん歳はとってるけど。人畜無害? てんでお笑いだわ」

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『氷の女王が死んだ』東京創元社, 2002, p219
若い頃がどうでも歳をとると天使になるわけ?とアンジェラに尋ねられたキャレドニアの返答

シリーズ一覧

01.老人たちの生活と推理 The J. Alfred Prufrck Murders(1988)
02.氷の女王が死んだ Murder in Gray and White(1989)
03.フクロウは夜ふかしをする Murder by Owl Light(1992)
04.ピーナッツバター殺人事件 The Peanut Butter Murders(1993)
05.殺しはノンカロリー Murder Has No Calories(1994)
06.メリー殺しマス Ho - Ho Homicide(1995)
07.年寄り工場の秘密 The Geezer Factory Murders(1996)
08.旅のお供に殺人を Murder Olé!(1997)
09.Bed, Breakfast and Bodies(1999)


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