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《海の上のカムデン》1『老人たちの生活と推理』(1988)紹介と感想

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『老人たちの生活と推理 The J. Alfred Prufrck Murders』東京創元社, 2000


あらすじ

高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉で驚くべき事件が起こった。
人畜無害な元図書館司書スイーティーが滅多刺しにされて殺害された。
カムデンには警部補のマーティネスと部下のスワンソンが捜査に訪れる。
入居者達も色々と質問をされるが、役に立つ情報は中々得られない。
そんな中、入居者の一人・キャレドニアが自分たちで事件を調べてみようと提案、アンジェラ、ナンシー、ステラの仲良し4人組で素人探偵の真似を始めた。
どうやら、スイーティーは見かけ通りの人物ではなかったようだ。
マーティネスに怒られ、見守られながら突き進む素人探偵たちが見つけた真実とは……

紹介と感想(犯人は明かしてませんが内容への記述はあります)

シリーズ第1弾である本書では、アンジェラが周囲と馴染めきれていない状態から始まります。
後々のシリーズでも毒舌を見せつけ、直感に従って突き進む様子が見られますが、今作ではそれが更に尖っており、殆どの入居者から怖れられ、嫌われています。

そんなアンジェラと仲良くしているのが、アンジェラと同じく提督未亡人のキャレドニア、元女優のナン、銀行家未亡人のステラの3人です。
キャレドニアに誘われて素人探偵を始めたアンジェラは、次第にキャレドニア以上にそのスリルにのめり込んでいきます。

そんな留まることを知らない素人探偵達を絶妙に見守るマーティネスは、警察官としても人としても優秀で、素人探偵の暴走を程よく引き締めてくれます。シリーズ1作目にして、早くもマーティネス警部補のファンになってしまいます。

最初はスリルと面白さに突き動かされていたアンジェラですが、事件の内側が見えてくると、徐々に楽しいだけでは無くなっていきます。欠点も多いアンジェラですが、話が進むことで類まれなる直観と人として憎み切れない人間臭さという魅力があることが分ってきます。

ミステリーとしては、ガチガチな論理を楽しむ作品ではありませんが、犯人を怪しく思える描写は書いてあり、何より人物描写や状況描写がしっかり真相と結びついており良かったです。アンジェラよろしく材料を組み合わせることで推理することはできます。

動機は哀しいものでしたが、同時にアンジェラも指摘したように〈自分が大切だと思う範囲を守るため〉の自己中心的な部分がありました。誰かを大切に思う、誰かを守る。でも、そのために他者に罪を擦り付ける行為は、同情できませんでした。

軽快なテンポなか、平均年齢高めの登場人物たちが織り成す悲喜交々の人間模様にのめり込むうちに読み終わってしまう、そしてカムデンの入居者に会うために続きも読んでしまいたくなる、良い本でした。

「警部補さん。あんたの眼には、優しくておとなしい年寄りばかりに見えるかもしれないけど、その優しくておとなしい年寄りのほとんどが、薔薇についた虫をひねりつぶすより簡単にあんたを殺せるんだわ。残された二年、三年、十年の生活をあんたが脅かすと思えば……幸福は——それが残された短い余生をただ平和に暮らせるという平穏でしかなくても——なにを犠牲にしても守りたい貴重なものだから」

コリン・ホルト・ソーヤー/中村有希・訳『老人たちの生活と推理』東京創元社, 2000, p53
キャレドニアがマーティネスに話す高齢者像

シリーズ一覧

01.老人たちの生活と推理 The J. Alfred Prufrck Murders(1988)
02.氷の女王が死んだ Murder in Gray and White(1989)
03.フクロウは夜ふかしをする Murder by Owl Light(1992)
04.ピーナッツバター殺人事件 The Peanut Butter Murders(1993)
05.殺しはノンカロリー Murder Has No Calories(1994)
06.メリー殺しマス Ho - Ho Homicide(1995)
07.年寄り工場の秘密 The Geezer Factory Murders(1996)
08.旅のお供に殺人を Murder Olé!(1997)
09.Bed, Breakfast and Bodies(1999)


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