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食べる貝として、最も普通で、おいしい。

こんばんは、しめじです。

今夜は、最近職員室で盛り上がった話について、ちょっとしたおすそわけです。

「辞書」が、読み物として面白い。

小さい時から、辞書が好きでした。
調べ物に使うんではなくて、ただ「読む」こともしばしば。
高3の夏休みは、勉強そっちのけで、岩波の古語辞典を読み通してみたりするほどの「辞書好き」です。

好きな辞書①:現国例(現代国語例解辞典)

何基準で行くかによって変わりますが、調べ物で使ったり、授業で言葉の説明をするときは結構「現国例」を頼りにしています。

こんな奴ですね。
ちなみに最新は第5版だと思いますが、個人的には第4版を愛用しています。

やっぱり、語義の説明が端的で、わかりやすい。
現代国語「例解」辞典と銘打つだけあって、用例も非常に豊富、かつ理解しやすいものがたくさん載っています。

あと、類語対比の説明がしっかりなされているのも特徴です。
なんとなく、「似たような意味」で覚えてしまっている言葉でも、前後によって使えたり、使えなかったりします。あとは、実際には若干意味が違っていたりとか。

そういう言葉を対比して説明してくれているので、この文脈ではどの言葉を選ぶのがいいのか、という、語のチョイスの場面でも役立ちます。(小論文の指導の時には本当にお世話になります)

好きな辞書②:新明解(新明解国語辞典)

まあ、「辞書が好き」と言った時点で、多くの人が「どうせそうだろうな」と思ったと思うんですが、私も例にもれず新明解大好きです。

何が好きって、「編者の人間味が出まくっているところ」。
やっぱり、これにつきます。

「新解さんの謎」という本がちょっとしたブームになったのでご存知の方もたくさんいると思いますが、なかなか語釈がユニークです。

最新版はこちらの第8版。なんと11月19日に出たばかり。
私も買おうと思っています。

ちなみに、買うと4冊目です。
一番気に入っている5版と4版は職場においてあります。
第4版が一番エキセントリックで、第5版から徐々に落ち着いてきています。

今家で手元に用意できるのが第7版なのですが、それでもなかなか面白い語釈が豊富にありますので、個人的に好きなものをいくつか紹介します。

ちなみに、参考までに、辞書界のスタンダード中のスタンダードだとおもわれる、小学館の大辞泉の説明も併せて載せていきますので、違いをぜひ楽しんでいただきたいです。
(ちなみに、私がよく言葉の意味を載せる時に大辞泉を引くのは、ネットで検索かけるとこれが出てくるからです)

特定の人に強くひかれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。恋愛。(大辞泉)
特定の異性に深い愛情をいだき、その存在が身近に感じられるときは、他のすべてを犠牲にしても惜しくないほどの満足感・充足感に酔って心が高揚する一方、破局を恐れての不安と焦燥に駆られる心的状態。(新明解)

よくないですか? 新明解の説明。ひりひりした心情までもがしっかりと伝わってきます。(ただ、これを聞いた同僚曰く「だとしたら私はまだ恋をしたことがないということになる」とのこと。)

(追記:これを書いたあとで、他の方がNOTEで第8版を取り上げていらっしゃったのを拝見したのですが、その記述が「特定の異性」ではなく「特定の相手」に変わっているのだそうです。時代をきちんと映した表現になっているようです)

はまぐり・あわび

はまぐり

マルスダレガイ科の二枚貝。内湾の砂泥地にすみ、殻は丸みのある三角形で、殻長8センチくらい。殻表は滑らかで、黄褐色に褐色や紫色の模様のあるものが多い。北海道南部より南に分布。養殖もされる。殻は貝細工・胡粉 (ごふん) の材料。(大辞泉)
(浜栗の意)遠浅の海にすむ二枚貝の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい。(新明解)

まさかの語釈です。というか、「適当に書いたのではないか?」といいたくなるほどの説明放棄。新明解の説明だと、どんな貝なのか皆目見当もつきません。もしかしたら「あさり」と勘違いしたまま終わってしまってもおかしくありません。「食べる貝として、最も普通で、おいしい」って、これほど主観的な説明が辞書に載っていていいのか、と言いたくなります。

あわび

ミミガイ科の巻き貝のうち、マダカアワビ・クロアワビ・メガイアワビ・エゾアワビの総称。貝殻は平たい楕円形で、殻口が大きいために二枚貝の片側だけのように見える。殻径10~20センチ。殻の外面は褐色で呼吸孔が並ぶ。雌雄異体。肉は食用、殻は螺鈿 (らでん) 細工や真珠養殖の核に用いる。(大辞泉)
岩礁に住む巻貝。貝殻は耳型で、二枚貝の片側のように見える。美味。

「美味」シリーズ第二段。
この辞書、結構「おいしい」とか「うまい」とか「美味」って出てきます。もちろん、他の辞書でも「美味」と紹介されている場合はあって、「鮭」なんかは大辞泉でも「肉は美味」って書かれています。

ただ、圧倒的に新明解はそういった説明が多い。
なんでも、それが私たちの日常にどう存在しているかを考えた時に、魚は主に食材として存在しているため、そういった表現も取り入れることにした、ということなのだそうです。ただの編者の好みの発露ではなく、私たちの日常に寄り添う姿勢の表れなんですね。

ですので、昔の版にはこんな語釈もあります。

更年期
女性がそろそろ太りはじめや成人病の事などを気にするようになる時期(普通の人は、四十五、六歳ごろから)

今の第7版は、もっと普通に生理機能がどーたらこーたらと説明されていますが、それよりもこの説明の方が「私たちの生活にとって何なのか」は分かりやすい。
新明解も改定を重ねる中で語釈が悪く言えば平凡になってきていますが、このような「私たちの生活に寄り添う」スタンスの辞書って良いなと思います。
(まあ、「更年期」の語釈は今の時代にそのまま再録するわけにはいかないでしょうけどね)

最後に、飛び切り気に入っているのを紹介して終わります。

凡人

普通の人。ただの人。(大辞泉)
自らを高める努力を怠ったり功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。(家族の幸せや自己の保身を第一に考える庶民の意にも用いられる)(新明解)

普通は( )の中の意味で使いませんか…。これをはじめて読んだとき、ぐさぁぁぁっっと来たのを今でも強烈に記憶しています。
ふと思い出して、「凡人で終わらんように頑張らなきゃな」って思わされる一節ですね。

で、ここまで書いて、半年ほど前に似たようなものを書いていたことを思い出しました。

もしよかったらこちらもご覧ください。
「悪妻」「公僕」「論争」の語釈も、なかなか毒があって面白いですよ…ふふふ…。

では、今夜はこの辺で。

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