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医者も階段から落ちる

台風接近で大雨の日。
往診に行った患者さんの家で診察を終え、部屋から階段を下り玄関へ向かっていた。
階段の途中に電気が消え足元がよく見えないところがあり、踊り場からここだろうと左足を踏み出したところに階段がなく、あっという間に私は7-8段転げ落ちた。

人間とは面白いもので、非常事態に様々な思いが走馬灯のように駆け巡る。私は「骨折で入院になったら下着の替えは誰に頼もうか」「今日中に書かなきゃいけなかったあの書類どうしよう」「眼鏡は守らなきゃ」「部屋散らかったままだ」「あの本の続きは」などと思いながら落ちていった。

暗闇でどう落ちたのかわからないが、幸い踏み外した左足と左手でうまく踏ん張れたようで、頭を強く打つことなく下の踊り場に着地した。
あとから付いて降りていた看護師によると、「ひゃ」との声とともに私が視界から消えたらしい。暗闇で何が起きたのか、彼女もわけがわからず慌てたようだ。

明かりがつき、体の様子を見る。
左肘付近にすでに青あざが出現、手関節あたりに軽い擦過傷がある。左肩は三角筋あたりも少し痛い。左肘で落ちる体を支えようとしたのだろう、これから左腕に筋肉痛が出てくるな。
左膝下に鈍痛がある。どうやら膝を曲げた状態で、左前脛骨筋あたりに体重がのりながら滑り落ちたようだな。筋挫傷ならこれから腫れてきそうだ。
左足関節も内反位となっており、本来なら捻挫必発だが私は元々前距腓靭帯が切れているから痛くないんだな。
左臀部ポケットに入っていたiphoneは無傷だ。股関節や腰椎は大丈夫。
頭はこつんと左側頭部を壁にぶつけた程度。頭をぶつけまいと最大限の力を発揮してくれたのか、右頸部筋群が張っている。これから痛くなってくるだろうな。
以上、ざっと頭の中で自己診断。駆け寄る看護師や患者家族に「大丈夫、大丈夫。」と立ち上がり、その場を後にした。

幼少期に数段落ちた経験はあったが、このように見事に落ちたのは初めてだった。骨折や頭部外傷もなく打撲程度で済んだことに、運が良かったとほっとしている。
瞬時に自分の体を分析するのはもはや職業病。予想通り翌日には左脛がパンパンに腫れ、左半身と右首の筋肉痛で動作はスローモーション。大丈夫ですか、と心配し気遣ってくれるスタッフの気持ちがありがたい。

予想外だったのが、全身倦怠感が数日残ったこと。
打撲で傷ついた筋肉から出るサイトカインの影響もあるのだろうが、一瞬とはいえ「死ぬかも」という恐怖体験に全身筋肉が硬直し、相当体に負担になったんだろうな。
倦怠感は、身体が「休みなさい」と私に言っているサイン。今日は何かおいしいものでも作ってゆっくり休もうと思う。

医者が階段から落ちるとこうなる。
皆さんも階段昇降時は気を付けて。

「君の名は。」の須賀神社。今日はお祭りです。