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小指のアートがどうとか


「ネイルを変えた」のだと言った回数は一体どれ程までになるのだろうか。


数週間の間でありながら、10本の爪は

いつも彩られている。


みんなが「可愛い」と言って、

みんなが彩られた爪を、優しく触った。


キラキラ光るものに、人間は怯えているのかと錯覚させられるくらい

人々は優しかった。


いや、人々の”指”が優しかったと言うべきだろうか。


その優しさを忘れないでいてほしいと思った。


腫れ物に触るような遠慮も無く、

撫で回すような馴れ馴れしさも無く、


唯、目の前の美しいものに触れるその瞬間、

そっと、

ゆっくりと、


動くその手は、

優しさで溢れている。



海辺で肩を抱かれた時より、

夜道で頬を寄せられた時より、



優しさで溢れていた。


「壊したくない」と思うのだろう。

完成された美しさが、

人間の、それも爪の上という小さな範囲に広がっていると。




抱き寄せる時、


人々は、「壊れてしまってもいい」と、

思っているのだろうか。


背中に回される手には、

10本のアートが乗っかっていることなど、すっかり忘れてしまっているだろう。


何色だったとか、

どんなパーツがあって、


どんな感触だったのかも。





そうやって、

只の優しさは、

欲望に塗れて、変色していく。




そうやって、

人は、何か大事なものを忘れていく。







文字を書くことが生き甲斐です。此処に残す文字が誰かの居場所や希望になればいいなと思っています。心の底から応援してやりたい!と思った時にサポートしてもらえれば光栄です。from moyami.