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映画『茜色に焼かれる』
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2021年5月21日に公開の日本映画。
監督は石井裕也、主演は本作が4年ぶりの実写映画単独主演作となる尾野真千子。R15+指定。
あらすじ
1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者―それがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。
はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?
(Filmarksより)
まずはじめに
人を選ぶ映画であることをお伝えしたい。
ご家族で仲良く楽しめる要素は…。
交通事故に始まり
職場でのパワハラ
学校でのいじめ
信じがたいセクハラ
極めつけには生々しい風俗店描写と
目を覆いたくなる場面のつるべうち。
禁じ手ともされる10秒早送りを連発してしまったことをここで告白しておく。
なにせ登場人物の男達は、息子の純平君を除いて皆すべからくケダモノなので、セリフとかもう無理して聴かなくてええよって言いたいぐらい。(役者陣が巧すぎて困る)
盛りのついた狂った獣が一匹また一匹ってヨダレ垂らして吠えるわ、で済ませたいが現実でもいるからなホンマによ。
ただ、作り手たちも観客の不快感を重々考慮した上で世に出したであろうことも言い添えたい。
流行り病の煽りを喰らいまくった制作サイドがやっとこさ公開にこぎつけた本作は、
当時の生々しい空気と混沌を、
そして普遍的な愚かしさと僅かな光を帯びている。
ある引用も興味を誘う。
「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの3つのものしかない」(夏目漱石『行人』)
ほんまかいな。
そんなことないやろ。
宗教2世である自分はこの類の引用に食いつきやすい。
そんな風呂敷を広げられたら
気になるじゃねぇか。
そして最後まで観た。
うぅ…しんどかった。
でも良かった。
ここまでで観たくないって人は
続くネタバレ評だけでも読むのもありやで。
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⚠ ネタバレ注意 ⚠
― 田中良子は芝居が得意だ。
この字幕から映画は始まる。
始まってすぐ、現実に起こった「例の事故」を想起する人は多いだろう。
この映画は明らかに現代と地続きの場所に立ち位置を取っている。
職場や学校の描写しかり、
男どものマチズモ意識しかり、
問題提起をする気概は言うに及ばず。
誇張しすぎという指摘もあるがあれは監督の狙いと捉えたい。
強い描写に何を感じるかで心の一部は顕になる。
おもしろいギミックはあの金額テロップ。
要所要所で効いている。
特にグッときたのは
公衆電話40円と
「ケイのおごり」だなぁ…
神も仏もないストーリーにおいて、
純平の初恋パートはまさに砂漠に現れたオアシス、麦茶の如き清涼感。
(わかるぞ…ジュンペイ。はじめて好きな女子の連絡先ゲットした日にはな…それはもうな…気持ちはわかるぞ!)
作品のシンボリックカラーが『茜色』つまり「赤」であることに異論はないだろう。
冒頭の鮮血にはじまり
ラストあの二人が空に包まれるまで
親切なまでに
だが周到に赤色は張り巡らせている。
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そして田中良子の表情の変化。
あれ拝めるだけでも値打ちもの。
序盤の危うさを纏った微笑み
今にも零れそうで、でも必死にコントロールしている絶妙な感じ。
からの居酒屋で溢れ出る情動に震えた。
吐き出していい。
変なんかじゃない。
「まぁがんばりましょ」
それじゃ済まないことがある。
発露する大切さを叫んでいる作品。
あの男への「おい!」
腹から出た低い声、迫力あったよ。
でも方法は落ち着いてよく考えて。
(尾野さんの他作品だと坂元裕二脚本のドラマ『最高の離婚』がおすすめ。こっちは見やすい。)
ケイさんについて。
あんたさ…カッケェよ。
でもカッコ良すぎるって。
泣かせんなって…マジで…
あなたのおかげで子宮頸がんへの偏見を知っれた。教えてくれてありがとう。
今作のレーティングはR15
作り手は日本全国の「純平」にもこの作品を観て欲しかったのかもしれない。
その希望の置所は共感できる。
彼はまだ被保護者だが、自慢の母ちゃんとこれから逞しく生きていくでしょう。
個人的にハッとしたのは
顔のながーい弁護士いたでしょ?
冒頭にも出たイヤミで話の通じない人。
![](https://assets.st-note.com/img/1680854827704-QlYAZKEVOM.jpg?width=800)
彼も主人公を追いこむ一因だが
ラストあの弁護士と反社・永瀬正敏が主人公にとって重要なある「役割」を果たすんだよね。
「正しさ」とは無縁の彼らの行動を受けて、良子は思わず笑っていた。
あの笑顔は序盤に浮べていた微笑とはニュアンスが全く違うだろう。
敵・味方とかそんなくっきり色分けできるの?っていうさりげない描写に膝を打ったよ。
もちろん反社を肯定はしないけど。
最後に。
良子が語る「かみさま」の話。
終盤、母と子が語るのは
『父』と『神』について。
思い出すのはあの引用。
「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの3つのものしかない」(夏目漱石『行人』)
新興宗教にハマり、よそで子供までこさえた父の重荷をあの2人はいまだ背負って生きていく。
良子の言葉を借りる。
『生きてる理由?そんなのわかるの?』
ーまったくだよ。
『最悪なかみさまはあちこちにこびりつく』
ー「こびりつく」って言い得て妙。
しつこい汚れ、くすみ、かみさまによく効く漂白剤があればいいが、そんな万能なものはねぇのである。吾輩はそう思う。
主人公は「真理」なんていう
都合がいいもんは信じてなさそうだった。
だけど彼女の真実ならあって、
それが芝居をすることなんだよね。
最後の老人ホームでの熱演は、純平よろしく俺にもあんまわかんなかったけど「表現する」ことが田中良子の真実なのだろう。
おそらく、石井監督にとっての映画がそうであるように。
そんな主人公たちの夜はまだ来ない。
夕焼けのまま、道を進むしかない。
せめてそれを包むのは、穏やかで温かな茜色であることを願わずにはいられなかった。
おわり
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