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思い出のエレベーターとスロープ 映画感想文「ペイン・アンド・グローリー」

配信で「ペイン・アンド・グローリー」を鑑賞しました。

監督のペドロ・アルモドバルさんの名前は知っていたのだけど、作品は初見。
ひとことでいうと、とてもいい作品でした。良作。
感想を書いてみようと思います。

2019年 スペイン
監督 ペドロ・アルモドバル

世界的な映画監督サルバドールは、脊椎の痛みから生きがいを見いだせなくなり、心身ともに疲れ果てていた。引退同然の生活を送る彼は、幼少時代と母親、その頃に移り住んだバレンシアの村での出来事、マドリッドでの恋と破局など、自身の過去を回想するように。そんな彼のもとに、32年前に手がけた作品の上映依頼が届く。思わぬ再会が、心を閉ざしていたサルバドールを過去へと翻らせていく。
映画.comより


あらすじにあるように自伝映画です。
アントニオ・バンデラスさん扮する初老の映画監督が人生を振り返るーー

と、こう書くと、「良くも悪くも既視感のある」映画って感じですよね。
自分もそんな感じであまり期待せずに観始めました。。。
ところがどっこい、その気持ちは良い方に裏切られました。

自伝映画って、現在と過去を行ったり来たりしますよね。
この映画も大きくいえばそのパターンなのですが、その行ったり来たりのところがオリジナリティがあって秀逸。

よくある自伝ものを例えると、現在と過去をエレベーターで行ったり来たりしてる感じ。
最上階が現在で、下を過去にすると分かりやすいでしょうか?

ただこの映画はというと、子ども時代のことを思い出すときはエレベーター方式なのだけど、現在の時制に近いところで、もうひとつスロープのようなものがあるのです。

とても気の利いた設計で、最初はどっち使えばいいの?ってちょっと戸惑うのですが、その意図に身を任せてしまうと、とても心地よかったです。

子ども時代の思い出はどれも美しく描かれています。
きれいでたくましい母、洞窟みたいでヘンテコだけど楽しい家、読み書きができない青年に字を教えるエピソード。
そこにはエレベーターにのってボタンを押せば、チンと音が鳴って戻ることができる。

方や現在では、32年前の自作品の主演俳優とは仲違いしていたのだけど、上映会のインタビュー依頼を受けたため、もう一度会って話をする。
で、仲直りしかけたかと思いきや、やっぱり主演俳優の過去の演技はひどかったと言ってしまい、仲違いする。
でも映画監督の戯曲に目を付けた主演俳優が舞台でやりたいと言うので、戯曲を譲りまた仲直りする。
と、その舞台を映画監督の昔の恋人(男性。映画監督は同性愛者なのです)が偶然観劇して、俳優が監督の電話番号を教え、家で再会する…。

ここで面白いなと思ったのは、先ほど「スロープ」と例えたのですが、その主演俳優との過去映像(喧嘩して罵り合ってるとこ)はないし、恋人との思い出(出会いや別れ)の映像もないのです。
つまり、セリフの情報と現在の描写から過去を推測する。
ガツンと縦に時を移動するんじゃなくて、するするっとゆっくり歩いて移動する感じ。

よくある振り返りものだと、まずは子ども時代を振り返って、次はちょっと大きくなった時を振り返って、そのあとは青年時代を振り返って、という感じで時系列的に現在に近づいてくるのだけど、この映画はそうじゃない。

エレベーター(過去映像あり)とスロープ(言葉の情報のみ)の使い分けが巧みで、「自伝映画の振り返りもの」でありながら、主人公の再生という現在進行形の主題がおざなりにされてない。
過去を懐かしむだけになっていないんですよね。
見終わった後、とても前向きで爽やかな気持ちになりました。

人の思い出の持ち方ってこんな感じなんじゃないかなあ。
実感に近い気がします。
お見事でございます。おすすめです。


最後に、トップ画像にあの写真を選んだ理由は、映画監督のファッションがとてもヴィヴィッドだったから。
パステルグリーンのレザージャケットとか着てて、かっこいいのです。
色遣いが上手な人って、かっこいいですよね。

あのヴィヴィッドな糸たちから何が紡がれるのだろう?

総合評価 ☆☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

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