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【いいところを語る映画評】「雨月物語」 ホラーではない不気味

「雨月物語」を配信で鑑賞しました。
で、感想を書いてみようと思います。

まず断っておくと、この作品は戦国時代を舞台にしているのですが、野武士による民家への侵入や家屋の破壊、家財・食糧の強奪、女性に対する暴行などが描かれています。
どうしても今の国際情勢と重ねてしまって、観ていてしんどかったです。
違うタイミングで観たら、違う印象になっていた可能性はあります。

はじめに

昔の作品なので、情報です。
監督は溝口健二。
1953年の作品で、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞。
溝口監督の代表作のひとつで、まあ邦画の古典ですね。

簡単なあらすじとしては、
琵琶湖北岸で焼き物を作って暮らす源十郎と妻・宮木(あと幼い息子がいます)、弟夫婦の藤兵衛とおはまの4人の物語です。
源十郎は戦乱に乗じてひと儲けをねらい、焼き物をせっせと作るのですが、そこに柴田勝家軍が攻めてきます。
家は荒らされ窯の火は消えるのですが、奇跡的に焼き物は出来上がっていました。
なんとか難を逃れた源十郎たちは、焼き物を持って琵琶湖を船で渡ります。
ただ湖上で出会った瀕死の男から海賊に気をつけろと言われた一行は、宮木と息子を岸におろし、3人で市に向かいます。
にぎやかな市では焼き物がとぶように売れます。
藤兵衛はその金をもって、前々からの願いであった武士になるために、道具屋に具足と槍を買いに行きます。
おはまはそんな夫を心配で追いかけるのですが、途中で見失ってしまいます。
一方、源十郎のもとには、若狭と名乗る若く美しい姫が訪れ、焼き物を屋敷に届けて欲しいといいます・・・。

男がほんとにどうしようもない

この映画を観て思ったのは、男がほんとにどうしようもない、ということ。ほんとにあかんやつらです。

源十郎は自分が作った焼き物が売れに売れるので、目が¥マークになってしまい、宮木の「家族3人で暮らせる分だけ稼げればいい」という言葉を聞かずに金儲けに邁進します。
で、若狭姫(実は幽霊なのですが)に気に入られて、妻子のことは忘れ、若くてきれいで高貴な女性とうつつを抜かす。

藤兵衛は藤兵衛で野良仕事の貧乏を嫌い、立身出世を夢見ていました。ちょっとしたきっかけをつかみ侍大将になるのですが、その間に野武士に乱暴されたおはまは遊女になります。

ね、もうほんとに男がどうしようもないでしょ。
男のダメさ加減を真正面から描いているという点では潔いかもしれないけど、男のしょうもなさが際立ちます。はあ。

一方、宮木とおはまの女性陣はけなげでたくましく、そんなしょうもない夫にも愛想を尽かさない立派な人たちです。
若狭姫も恋を知らぬうちに命を落としてしまった(織田信長に滅ぼされた一族)ので、どうしても恋の喜びを味わいたいということで、幽霊になって良き相手を探していたのですが、結果的に幽霊とバレて振られてしまうので、それはそれでかわいそうな気もします。

なんだか女性陣ばかり理不尽な目に遭っているのですが、それが結果的には男性陣の心変わりを促すものなので、ストーリーの大事な要素になっています。お話として切ないです。
ただ今のジェンダー観からすると、ちょっとなあ。。。

男がしょうもないのは知ってたけど(自分のことを考えればよく分かります。あ、立派な方もいらっしゃいます)、ただ逆に「そんなしょうもない男を見放さない女性は素晴らしい」と称賛しすぎるのも、褒めることで都合のいい女性像を無意識的に押し付けてる気がして、違うかなあと思います。
見放そうが見放さまいが自由だし。
あくまで、「フィクションのなかで切なかった」とだけ言っておきます。

幽霊とわかっても納得

と、ジェンダー論はこれぐらいにして、この映画のいいところはどこかというと、若狭姫の幽霊のエピソードかなあ。

なんというか、幽霊の設定がおおらかなんですよね。
この若狭姫の幽霊は昼間も街を歩いたり、源十郎と遊んだりします。
夜の室内がメインではありますが、日光は気にしてないようです。

あと、源十郎とお風呂に一緒に入っていた(直接のシーンはありませんが)ので、足がないとか、体が透けているとか、水が苦手というのもなさそう。
ご飯も食べてたし、日常生活(というのもおかしな言い方ですが)を送るのにはなんら問題なさそうでした。

それよりも、若狭姫の人外的でなんとなくヤバい感じを、能の動きや衣装・メイク、あとライティングですね、陰影で表現していて、すごいなあと思いました。
美しくて優しくてピュアなのに、不気味。
演出力というものをまざまざと見せつけられた気がします。
幽霊とわかっても、まあそうだよね、と素直に納得しました。
「なんとなくヤバい」って感じを伝統芸能を使って表現するっていうのが、おつですよね。

「貞子」以降というか、邦画に限らず洋画もそうだけど、今どきのホラー映画って設定に縛られすぎてるのかもしれません。
自分もその影響を受けていると思います。(すぐ「設定がなあ」とか言っちゃう)
もちろん面白い設定を考えつくことも才能のひとつなので肯定的にとらえていますが、一方で、不気味さの「演出」というものにもう少し目を向けた方がいいのかもしれない。

まずは夜、電気を消して、ろうそくの火をともす。
ろうそくの火をじっと見ていたら、なんだか息苦しくなってきた。
なぜだ。く、苦しい。
慌てて電気をつけて鏡で自分の顔を見ると、






マスクをしたままだった。
ふざけてすみません。

最後に

自分はジェンダー論や幽霊の設定なんぞに注目しましたが、違う見方もあると思います。
ラストの、家のなかのシーンはほんとに美しくて、ハッとしました。
また戦いにより悲惨な目に遭うのは、いつの時代も弱い立場の人たちだということがよくわかりました。

誰もが何かしら感じる映画だと思いますし、日本の映画文化の土台になっている作品だと思います。
宮木を演じた田中絹代さんの声がステキでした。

総合評価 ☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

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