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【いいところを語る映画評】「朝が来る」 良作、対比のその先には

「朝が来る」を配信で鑑賞しました。
で、感想を書いてみようと思います。

2年前の作品です。まずは情報をどうぞ。

2020年 日本
監督 河瀬直美

栗原清和と佐都子の夫婦は一度は子どもを持つことを諦めるが、特別養子縁組により男の子を迎え入れる。朝斗と名付けられた男の子との幸せな生活がスタートしてから6年後、朝斗の産みの母親「片倉ひかり」を名乗る女性から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話が突然かかってくる。当時14歳で出産した子を、清和と佐都子のもとへ養子に出すことになったひかりは、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心やさしい少女だった。しかし、訪ねて来たその若い女からは、6年前のひかりの面影をまったく感じることができず……。
映画.comより


社会派✖️ミステリー✖️作家性

ひとことで言って、とてもいい作品だと思いました。
もっと話題になっていい作品じゃないかなあ。
(自分が知らないだけで、話題になっていたのか?)

いいところを箇条書きであげてみますね。

①不妊治療、特別養子縁組、中学生の出産など重量感のある社会派の題材を、きちんと重さを測って描いている。
ただ必要以上に重く描いてないし、もちろん軽くも描いていない。
題材との距離感がいいなと思いました。

②ミステリー的構成を最後まで維持した。
養子を迎えた夫婦のところに、「子どもを返してほしい、駄目ならお金をください」と訪れた女性はいったい誰なのか?というのがストーリーの要なのですが、そのミステリー性を投げ捨てずに、最後まで観客の興味を引くシナリオ構成になっている。
そのラストシーンの鮮やかさといったら!(詳しくは後で書きます)

③詩的な映像、いわゆる「河瀬マジック」を堪能。
東京や奈良の街並み、瀬戸内海の海、空、陽光、植物、動物、風に揺れるカーテン、自転車に乗る少女。
物語のなかに生活があるんじゃなくて、生活のなかに物語があるという視線、ステキです。

社会派の題材・ミステリー要素・作家性がバランスよく取り込まれていて、良作だと思います。
139分というまあまあの長尺ですが、時間を感じないで観ることができました。

文字通り、朝が来る

と、ここまでは映画の外形でいいところをあげてきました。
ここからは自分が感じたことを書きたいと思います。

この映画にはいろんな対比が散りばめられています。
もともと「産みの母親」対「育ての母親」というものを話のてこにしていますし、養子を迎えた夫婦は不妊治療に取り組んでいたのですが、そこでも女性と男性という対比がある。
他にも、実子家庭と養子家庭という対比があるし、都会(東京)と地方(奈良)という対比もある。
(「対立」というほどきつい描かれ方はしていないので、「対比」という表現を用いてます)

もっと言えば、「中学生で出産をしていたかもしれない」という過去と、「不妊治療を受けるかもしれない」という未来の対比もある。

その対比群がラスト、現在という時制でピタっと重なる。
文字通り、朝が来る。

もうこのラストで、今まであった対比は一気に雲散霧消します。
そうなんだよな、この映画は実は、産みの母親と育ての母親の連帯を描いているし(イレギュラーなシスターフッドといえるかもしれない)、そもそも男性を排除していないし、子どもの眼差しも忘れていない。
そして、未来が過去を優しく迎え入れる。

観ている途中にはちょっとしんどいシーンもあるけど、その細くて険しい道を抜ければ、最終的には広くて見晴らしのいい場所が待っている。
ここまで全方位的に開かれている作品は、なかなかないんじゃないかと思います。

総合評価 ☆☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!

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