『まだまだ見せる新たな色』2023.#32 アルビレックス新潟×FC東京
スタメン
・ここ数試合で最も”特徴”が見られる11人。強力な攻撃陣を擁する相手にベテランCBコンビをぶつけたのもそうだし、前線に谷口-鈴木とFWの2人を起用した点は特にいつもとの違いを感じさせる。
・CBについては監督コメントで起用の意図について主にボール保持の視点から述べていたので、プレス志向が高い相手をひっくり返して擬似カウンターを発動したかったという狙いが先に来て、それを実現できるのは誰か?と模索する中で選択肢に挙がったのだと思う。
・それでは谷口-鈴木はどんな狙いの下で何をチームにもたらしたのか?普段トップ下を務める高木の欠場というアクシデントがあったとはいえ、後天的な起用法でない事は毎試合追いかけていれば理解できる。それではその中身を見てみよう。
前半
新潟:ボール保持@ゾーン1
・小島を絡めたゾーン1からのビルドアップでは4-1-2-3気味に位置をとる新潟。高と2CHを組む星だが攻撃時にはIHに変化。ライン際の新井にボールが渡れば横で、ライン間に顔を出す谷口に渡ればその後ろで受け手となり続ける。時折松木の隣側まで降りてボールを引き出したり。
・東京はWGが中間ポジションを守り、松木は高とデート。ディエゴが方向を限定するように小島をチェック。誘導した先で人を当て嵌めて奪い切る/蹴らせて回収する狙い。
・プレス回避力で言えば千葉の方が上手という事もあり、そこまで顕著ではないが彼のいない右サイドへの誘導が多かった印象。とはいえパスコースを読ませない小島が千葉をチラつかせて舞行龍、或いは高につける事でディエゴ/松木を翻弄。ボールホルダーに時間を与え続ける。
・谷口-鈴木コンビは前進の段階から以前と違う側面を見せる。高木-鈴木コンビでは中央を起点に、DFラインを押し下げる/空いたDF-MFの空洞に顔を出すを相互に繰り返していた。今節は役割を入れ替えながらも、DFラインを押し下げる/SB,WGをそれぞれサポートできる位置に顔を出す事を徹底。図1のように降りる位置が以前とは変化した事が印象的であった。
・東京からすると誰が見るか?が曖昧な捕まえにくいポジショニングなので比較的自由にビルドアップの出口になれる上に、自軍SBに渡った際の逃げ所にもなりうる。
・ただ、前節に引き続き下からの前進というよりはロングパスがメインリソースに。右に相手を集結させて舞行龍から左に展開したり、縦に捕まえに来るカシーフの裏側を谷口に走らせたり。そんなこんなでゾーン1を脱出しながら陣地を押し上げて東京を押し込みにかかる。
ゾーン2.3
・両サイドにWGと呼べるタイプの太田-松田をスタートで固定するようになった新潟。幅をとる選手が常時生まれるので、横-後ろ-(時に斜め前、これはCFとなる谷口/鈴木が務める)にサポート役を置いてスピードスターを孤立させずに関係性を創り出す。
・26:30~のシーンを見ると、図2でいうと鈴木が星、星が太田、太田が谷口の箇所でタスク交換をすれば、谷口は鈴木の位置に降りて組み立てに関与。ここら辺の移動がスムーズで迷いが無かったので『誰がそこにいてもいいけど関係性は崩さないように』全体観が提示されていたのだと思う。
・右ではライン際に立つ松田、内側に絞ってカウンターの防波堤+斜め後ろでサポートする藤原を基本軸に、鈴木が降りて松田へのサポートを作る。鈴木がゲームメイクに携わる事はもはや恒例行事、ただ今節は明確にインサイドハーフとしてのタスクをこなしていた。
・例えばクロスを上げた際の人数の確保などCFが最前線から居なくなる事のネックも谷口との併用で解消。鈴木が降りるなら谷口は必ず最前線でDFラインとの駆け引きに専念。ここにストライカーとしての顔を持つ太田も逆サイドから入ってくるので数,迫力共に保証されている状態に。
・左側では太田-星-新井が旋回しながら相手に的を絞らせず、内/外の両方から相手ブロックを壊しにかかる。旋回には更に谷口が彼らと菱形を作るように降りてきて相手へ一層の負荷をかける。図はその一例
・上記のような大枠を左右非対称に備えながら、レーンを意識した関係性の構築からなるアタックを幾つも見せてフィニッシュまで繋げていく。
・20:00~辺りで(図4のシーンを踏まえて)永井解説員が『新潟は中央に人を集めて数的優位を作っている』と指摘していたが、ここでは意味もなく真ん中に密集するのではなく、中央3レーンを入れ替わり立ち替わり利用する事で最適な人数が最適な箇所を占めているのだ。
・相互作用を引き起こすポジショニングで相手を動かして出来た空いた所へ刺す。ボールスキルとポジショニングの融合体から効果的な選択肢をとった今節の姿は紛れもなくポジショナルプレー。
・谷口は裏抜けだけでなく、降りてボールに関与するプレーも抜群に上手かった。居るのではなくボールホルダーと胸があった瞬間に球を受けられる位置に現れるので、それだと相手に捕まりにくいし対応するにしても後手を踏んでしまう。
・上記以外にも左側で作って右で敢えて孤立させた松田に仕掛けさせるなど、ピッチ全体で一切たりとも無駄な箇所を作らず攻め続けた新潟。前半から形にしていただけにどこかで決めきりたかった。ここは明確に選手の質に懸かっており、現場からチラッと聞こえてくる『上位進出,タイトル獲得』を本気で狙うのであれば最低限今よりも決定力を伸ばしてくれるタレントの確保が必須要件。これはまたオフのお話、という事でどうなるか見てみよう。
東京:ボール保持
・前節京都戦のレビューを読んでいただいた方なら覚えているだろうが、京都のCBに感じた事はそのままそっくり東京にもトレースされていた。
・新潟としては2topが東京2CHを背中で消した所から東京の2CBに向かっていくので、森重や木本にはある程度の時間が与えられる。しかし、上記のような問題点があるので時間が『時間』になりえなかった。
・なので2CBに2枚をぶつけられると東京としてはビルドアップの初期段階から詰む事になる。その状況を見て松木が2CBの左側(新潟にとって右側、つまり守備対応や判断が苦手な松田がいるサイド)に降りる事で数的優位を形成。2topの脇から運ぶ事で張ったオープンな状態のアダイウトンへ供給する。
・因みに太田は『ビルドアップで後ろ3枚を作る相手に対して同数のプレスを行うために自軍2topに加勢する/しない』の判断が上手。する際は例えば横の高の状態を確認しながら確実に外側のコースを切ってプレス隊に加わる。そうすると太田が空けたタッチライン際のスペースは使われず、誘導した先では高がいるので最低でも自由は与えないという事になる。
・松田はこうした判断が太田に比べると苦手。どうしようかと一旦迷うので、このケースだと松木には運んでその先の選択肢を探る時間が与えられてしまう。
・左サイドでは図のようにアダイウトンとカシーフがレーンを分担しながら外側と内側を使い分ける。右サイドでは凌磨-長友が内と外を共有した所に小泉,松木が絡んでポジションを交換しながらハーフスペース、新潟SBの背後に侵入してボールを引き出す狙い。
・ただ、例えば図5だと前向きで受けたらそのまま加速するのか、それともある程度運んだ所でスピードを緩めて完全に押し込む時間を作るのか。クラモフスキー監督の言う通り、意思の共有が中々できていなかったようにも思える。
・図5のシーンではアダイウトンが加速したまま突っ込んで新潟の守備網の観測範囲に届いてしまうなど、シュート或いはキーパスに至る前で新潟のブロックに引っかかるシーンが続出。試合を通じて決定機を全くと言っていいほど作れなかった。
後半
東京:ボール保持
(正直に申すと本当に書く事が無いくらい虚無だったので割愛)
新潟:ボール保持
・大枠はさほど変わらず。変化が目立ったのはゾーン1を突破してからの光景だ。
・前半は鈴木-谷口がそれぞれIH/CF役を分担していたが、後半は主に鈴木が左右に降りて谷口はDFラインを押し下げる事をメインタスクに。
・太田が対面のSB(長友)を引きつけて出来たその背後、狙いをつけてスペースへアタックする谷口。57:10~で新井から引き出したシーンはその最たる例だ。
・彼の真骨頂は何といってもスピードを活かしたオープンなプレー。その確固たる武器を効果的にチーム設計に取り入れる柔軟性が見えてきた。それに、『誰がそこにいてもいいけど関係性は崩さないように』今節みたいに大枠となる関係性が提示されているのなら鈴木孝司ロールも全然こなせそう。ゲームメイクと背後への抜け出し。二面性を持つ希少なFWは正直放出候補かと思っていたけど来季はよりキープレイヤーになっていきそうな予感。それでも得点力はシーズンで二桁前後をマークするくらいに伸ばして欲しいが。
・終盤になるにつれて整った全体観が徐々に崩れていき(原因は主にコミト)、以前みた光景を思い出しつつそれなりにチャンスを作るも結果はスコアレスドロー。
・リーグ戦のみならずU-22でも存在感を示しステータスが2段くらい上がった感じを受ける三戸だが、この戦い方だとイマイチ使いどころに困る。タイプ的にWGではないし、8番としてWG-SBと関係性を構築できるのかといえばあまり想像できないし。新潟で戦う時間はそう多く残されていないが彼をどう組み込むのか注目している。何より三戸や小見のノリに合わせてバランスが崩れていく光景はもう見たくないのだが。
総括
・ポジティブな点は幾つもある。押し込む際の配置を整えた事で相手に効果的な打撃を与え続けた事。その中で谷口の裏抜けなどこれまでよりも背後へのダイレクトなアタックが増加した事。配置が整ってるので攻→守の切り替えなどトランジションが安定してきた事。
・よって相手が整う前に攻め切る状況も以前より増えてきた、これはトランジションと向き合う必要があり、その出来次第ではオープンな展開をも辞さない構え。当然以前は避けていた土俵である。
・しかし、星がJ1に耐えうるどころか優位性を示す強度を身につけて谷口や松田は相手に脅威を与えるスピードの使い方を手に入れた。彼等に留まらず選手達のレベルが格段と上がっているのでチームとして勝負できる局面が増えてきたのだろう。
・一桁順位という2023年最後の目標はまだまだ終わっていない。言うまでもなく大注目な11.24横浜F・マリノス戦。松橋監督の常套句である自分達が何者であるか、を証明するこれ以上ない舞台。果たして新潟は何をどんな形で残せるのだろうか。