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『Dear Albert,再会を前に』 2023.#10 FC東京×アルビレックス新潟 マッチプレビュー

 次節でいよいよ開幕から10試合経過。久々のJ1ですが、この期間で既に良い時も悪い時も両方経験してきたアルビレックス新潟。そんな新潟と次節相まみえるのがFC東京。かつての指揮官との再開は90分をどう描くのか。そんなGW決戦を前に、新潟の現状と4.29の展望を書いていきます。


新潟:新たな局面へ

開幕直後に広島,札幌とマンツーマンでのハイプレスに苦しんだ新潟。局地戦で個々の自由を奪うやり方に苦しめられて、思うように相手を動かせずボールも主導権も奪われる試合が続きました。

圧を受ける新潟ですが、奪いに来る相手を引き込んでDF-MF間を空洞化させて中央にスペースを見出したり、相手を見ながらポジショニングを操り前進ルートを確保出来るSB(特に新井直人)の存在が台頭。そんなこんなでプレスを掻い潜ってその先の至宝を輝かせる事に成功しました。


プレス回避の流麗さがあって、前方には分かりやすいタレントを抱えるなどリーグ全体の注目と警戒を集めるようになった新潟。警戒とはどういう事か、マンツーマンやハイプレスで新潟のビルドアップから生命線を絶つのではなく、プレスラインを下げてミドルゾーン〜ラスト30mを優先して消しに来るような相手が増えてきました。前進は許すけどその先の自由は絶対にやらせないよっていう。これはまぁ分かってた事なのですが⬇

これらの事を踏まえると、リーグ全体としてマンツーマンで消しに来る事はなく、ゾーンディフェンスとマンツーマンを混ぜながら人とスペースを消しに来る。そんなジワジワと首元を絞めるようなチームが多発すると思っています。

後半の殆どを支配された3節札幌戦の振り返りにて


例えば前節当たった元・常勝軍団なんかは新潟の強みを消すやり方を選択。ボールサイドに人を集めて打開しようとする新潟に対して、鹿を身に纏う人間の密度を濃くしてコンパクトにスペースを消して対抗するアウェイチーム。ビルドアップの阻害よりラスト30mの自由を奪う事に優先順位を置いた結果、新潟は所謂『持たされる状態』を作らされました。

J2時代も似たような対策を打たれるなどこうなる事は分かっていたはずですが、後出しジャンケンのような有効打を出せず得点はおろか具体的なシュートチャンスにすら至らなかった新潟。

鹿島戦の要約

ならば、例えばオフェンスでは片方で作った密集→崩しの到着点を逆サイドに設ける、など横幅を使う振る舞いを見せていきたいところ。中央を経由地にすれば被カウンターのルートを1個塞げる上に、打開策を増やす事で攻撃に厚みが生まれます。そして相手を広げて中央を使う事も可能になるはずです。開幕戦なんかはピッチを横切るパスを多用してセレッソを広げながら、涼太郎,小見,谷口らアタッカーに中央でのプレーエリアを寄与していました。

ただ、そうなると逆サイドで張ってボールを待てるウインガーが必要に。太田も三戸も最近はそういった側面を見せていないなど、大外をスタート地点に相手を抜くドリブル(=レガテ)を武器にする選手は現状のスカッドにはいません。松田やダニーロがその類かもしれませんが好不調の波が激しく中々計算出来ない。連れてくるにしてもそんな選手は市場価値が高く、彼を連れてくるだけの人件費を確保する必要があります。

ならば開幕期の様に相手を引き込んで擬似カウンターを繰り出せば良い。ただ、福岡-鹿島と前半30分近くで2-0というスコアを引っ張る相手が果たしてボールを奪いに来るのかどうか。そう、ここまで簡単に失点を許す守備力に目を向ける必要も出てきました。

 4-4-2ブロックの練度を高めて組織力で個々の弱さを隠すなど、失点を減らすための試みはいくらでもやりようはあります。が、そこにはある程度の属人性も必須要素として挙がることに。チーム随一のDMFである高宇洋ですら苦戦してるように、J1基準の可動範囲+対人戦の強さを備える選手も不足している印象です。

守備力の強化がオフェンシブへの傾倒を強めたり、選手の質によって表現出来るフットボールの質も比例する、つまり最終的に経営規模の観点に帰着していく。それらのように、1つの事象が全体的に繋がっていくのがフットボール。通用していない局面から生まれる脆さが次々と連鎖していくなど、J1の力によって徐々にメッキが剥がれてきた新潟。

ただ、好意的な見方をすれば自分達の力をもって相手にリスペクトを払わせた事で立ち向かうべき壁を変化させたとも捉えられます。この段階でビルドアップの阻害を払拭したのは見事の一言。そして次は構えた相手をどう崩すのかという課題に直面しました。前体制のように資金力に抗えずに終わるのか、それとも解決策を持ち合わせてクラブの規模と共に前進していくのか。新潟にとって、本当の勝負はこれからでしょう。



アルベルト・プッチ・オルトネダ


「この人は新天地でも多大なる影響を与えて去っていくんだろうな」新潟を退任する際、彼に対してはそう思っていました。

現代の潮流に乗るどころか、芯となる物が無いので得意な事も不得意な事も不明瞭だった新潟。(暗黒期でもある2016~19年の過程をまとめたのがこちら)  そんな飛び立つ準備さえできていなかったSWANSに羽を与えルートマップを提示したのがアルベルト・プッチ・オルトネダ

ポジショナルプレーを掲げてボールと共に前進していくフットボールを志向。ポジショニングを整理する事で確実性を高めながらボールプレーの細部に拘り個人戦術を落とし込むなど、試合もボールも支配する構造を策定。経営規模からなる戦力の範疇を踏まえると、新潟が出来る最大限のフットボールに到達させました

(若手をめっちゃ使う訳ではなかったけど)本間至恩,三戸舜介ら新進気鋭のアタッカーに世界への道筋を与えたり、個人的には何よりも中堅〜ベテランを一斉に一回りも二回りも成長させた事が最大の功績に。千葉和彦,舞行龍ジェームズ,島田譲,堀米悠斗,高木善朗etc…彼らのボールプレーを高めた事でチームも個々も更なる進化を遂げたのは勿論、このフットボールを文化にすべく上記の何人かは引退した後も新潟で在り続けるでしょう。

その影響力は現場に留まらず、強化部,クラブ,メディア更にはサポーターまでにも及び、今思うと新潟のフットボールに自信を持つ、そんな空気がクラブ内外で出来上がっていたと思います。負ける事に慣れていたクラブがどんな相手にも勝ちを求めるようになり、彼の後を受け継いだ松橋監督の下でかつては存在しなかったプロフェッショナリズムが完全に新潟に植え付けられました。

そんな、華麗と激動を持ち合わせた2年間がに繋がってると言っても過言ではありません。感謝してもしきれない、アルベルトに対して今でもそう思う新潟サポーターはきっと多い事かと思います。


個人的な注目ポイント

さて、最後に4.29の話も少しだけ。この試合では東京のビルドアップを巡る攻防に着眼点を置いています。

前節の広島戦では長いボールを多用してディエゴオリヴェイラを基準点に、陣地回復&それ以降への足掛かりを作っていた東京。ハイプレスに強みを持つ広島に対し、試合を通じて上回るためには…という問いに下からのボール運びに固執しないと回答したチームアルベルト。新潟時代とは違う顔を見せていました。それなら監督は彼である必要があるのかというツッコミは置いておいて、キャストと自分達の力量を見極めながら採れる最良の策を提示して最大勝ち点に繋げていく。リアリストな側面も併せ持つスペイン人監督はそのようなチームビルディングを創り上げたと個人的には思っています。

とはいっても決してポジショナルプレー×ボール保持のチームビルディングを捨てたわけではなく、直近のリーグ戦では「やろうとしてるけど中々上手くいくもんじゃないよ!でも少しづつ進歩しているんだ! (意訳)」とめちゃくちゃ長文で試合後に語っていました。編成面の問題もあり、浸透が中々に苦戦している様子。

(アルベル)
私はパスを含め、テクニックをしっかりと表現した形で試合をしたいという思いがあります。けれども、いまはそこの部分で苦しんでおります。正直、トレーニングでは日に日に良くなってきています。良い形でボールをつなぐこともできているけど、それを試合で表現することに苦しんでいるところです。

われわれのスタイルに適応し切れていない選手がいるのはあるかと思います。ただ、私は監督として自分がいるクラブに将来何かを遺して去りたい。なぜならば、愛してやまないボールを大切にするスタイルは、クラブやアカデミーに多くのものをもたらしてくれると信じて疑わないからです

要は仕事を果たしたいから人を入れ替えろと。フロントに間接的なリクエストをしています。


そんなアルベル東京は新潟に対してどのようなプレースタイルで挑んでくるのか。予想としてはGK-CB-DHを絡めながら比較的丁寧なビルドアップを選択すると思っています。新潟がさほどハイプレスハイプレス!という感じでもないので、一応はしっかり取り組んでいるというボールを愛するスタイルを体現してくるのではないでしょうか。何より相手が相手だし、ある程度の現実を見ながらも真っ向勝負を挑んでくるはず。本人なりのプライドもある事でしょうし。

新潟視点でこれを東京にされたら嫌だな~と思うのは
一つずつ剥がされてMFに前向きでボールを持たれてしまう
→広大なスペースにアダイウトンを走らされてしまう
プレスを剥がして浮いた後方のボールホルダーがディエゴに当ててくる
一気に盤面を変えられてしまう

という上記の2点。現時点でスタメンは全く読めませんが、バックスの脆さを完全に攻略してくるアタッカー(アダイウトン,ディエゴ)はとにかく脅威。カバーシャドーやボールへの関わり方など、総合力では仲川,渡邊凌の方が上手かもしれませんが、新潟からすると一番脅威を感じるのは紛れもなくブラジリアン。ディエゴはスタメン当確でしょうが、在任中にルキアン(当時:磐田)に蹂躙された記憶を思い出しつつ、ここ最近ベンチスタートが続くアダイウトンをここでぶつけてくるのかな~なんて思っています。

ならば⇩のように、新潟としてはじわじわと選択肢を削りながらプレイヤーが見通しを持って奪いに行ける仕組みづくりをして欲しいなと思います。クリーンなビルドアップを阻害して前方のアタッカーに良い形で勝負させない事が肝。

パスコースを消しながら片方に誘導できる涼太郎-孝司、行く/行かないの判断を間違えずに背中で後ろを消して追えるWG(太田,三戸)、J1でも刈れるようになった秋山、そして対人に長けているトーマス-舞行龍。目に見えるインパクトは無くても賢く守備が出来る新潟の選手達なので、明確な共有意識を持って東京からボールも主導権も奪いたいところです。

木本が選ぶ選択肢には殆ど包囲網が。それに運んで打開しようとする素振りを見せられない

プレスを剥がされたらアダイウトンをスペースに走らせてしまう、そんなリスクを抱えながらも奪いに行きたい新潟。リスクに対するリターン、という意味では東京のバックスのボールスキルがさほど巧みでない事からボールを回収しやすいorそのまま奪って…というリターンが期待できます。

アルベル東京を1年弱チラ見し続けた感じだと、GKスウォビクには少しプレッシャーをかければ簡単に蹴らせる事ができますし、2CBは誰が入ろうと運んだり体の向きでパスコース作ったり…と相手に影響を与えるようなボールプレーを完全には習得してない印象です。その上、片方で詰まったらGKを経由して保持をやり直す訳でもないなど、ボール保持×ポジショナルを前提としたチーム全体の志向性が固まってはいない様子。

この事からアルベル東京が選んだ道筋に対しては、ボールを獲りに行く明確な構造を用意出来れば、ボールも試合も支配しながら有利に時間を進められると贔屓目抜きに思っています。まぁ広島戦同様に最前線のディエゴオリベイラに当ててきたり、WGをスペースに走らせるなど下からの前進に固執しなければ違う話になるのですが。

いずれにせよ、東京が選ぶ前進の方法論とそれに対して新潟がどう出るかは注目に値すると思います。リスクとリターンに向き合った上で、お互いがどんな選択をするのか。実際の両者の思惑はマッチレビューでしっかり解き明かそうと思うのでそちらもぜひぜひ。

他にも注目すべき事項はありますが、何よりも2年間共に創り続けたフットボールをアルベルトに思い出させるような、1サッカーファンとしてそんな美しく激しい展開となる試合を期待しています。そしてサポーター目線では新潟に勝ち点3を掴んで欲しい。そんな2つの願いが叶う4月29日になればいいなと思います。

Vitoria? Albirex!


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