『これが私の生きる道』2023.#3 アルビレックス新潟×コンサドーレ札幌 レビュー
ホーム開幕に迎えたのはコンサドーレ札幌。J1で負けた事が無い相性の良いチームとの一戦は2-2のドロー。手に汗握る試合展開でした。
これで開幕3戦負け無し。ただ、これまでの2戦とは少し違う感覚を抱いた方も多かったのではないでしょうか。チャンスは作るも常に縦志向。劣勢だった後半の45分間、『新潟のサッカーってこんな感じだったっけ?』と自問自答を強いられるような苦しい試合でした。
今回は札幌戦の振り返りは勿論、この戦いを踏まえてJ1でどう振る舞うべきなのか?という長期的な話も含みながら進めていきます。
圧力を跳ね返す
J2とJ1の違いとして人の強さが挙がります。対人戦での強さ、アップテンポな試合展開にも耐えられる体力と速さ。これらを一言で表すと『強度』の二文字に集約されます。
試合展開が速い傾向にあるJ1、その中で揉まれ続けた札幌とローテンポなJ2で5年間を過ごした新潟だとその強さに差が出てしまいます。
高い能力を示す事の出来る11人を揃えて戦ってきたJ2時代。当然新潟よりも個の力量が劣る他クラブは、彼らに自由を与えないようビルドアップは殆ど放置+中央を消しながら外へ外へ追い込むように構えてきました。
前回も書きましたが、アタッキングサードを守る際に中央を消すのはセオリー。わざわざ一番危険なエリアを開通させるなんて自殺行為に等しい。能力の高い選手達に得意な事をやらせない、個で劣るならチームでカバーする。そんなリーグ全体による新潟攻略法が生み出されたのはアルベルト2年目の2021シーズンでした。
一方J1では個々の力量がグンと上がり、現状では新潟よりも強さも速さも上回る相手ばかり。そのために『得意な事をやらせない』より『チャンスがリスクを上回る』事に焦点を置いた新潟シフトを採ってきます。
相手に対して守る際にハイプレス・ミドルプレス(=一旦セットしてから圧をかけに行く)・ブロックと3つある中で、札幌は基本ハイプレス、時折ミドルプレス。新潟のビルドアップを潰しに向かってきました。
相手からボールを取り上げて得意な事をやらせないのは勿論、奪ったらゴールに直結できるビッグチャンス。2つのメリットをこの方法論によって生み出す事が出来ます。
何故こんな選択ができるかというと、やはり個の強さで優位性を見出せるから。例えプレスをひっくり返されて中央にスペースを空けてしまっても人で対処できる。そんなリスクテイクを担保できる質的優位を誇るJ1チームだと新潟相手にこれが出来る訳です。
ただ、相手が人に来るなら当然その選手が本来いた位置(=スペース)が空いてきます。新潟としてもここを上手く活かしながら前進してチャンスを伺ってきました。
ボランチ荒野がジャンプアップして新潟のアンカーを消してくるシーンでは、このように前進してチャンスを作りました。札幌としてはこうなっても最終的に人で守ればオッケーなスタンス。前半なんかは自身の持ち場から動いて積極的にインターセプトを狙うシーンが多く、まずは奪う事を優先順位に置いてきました。
『そう来るんだ、じゃあこれでもどう?』と相手に突き付けたのは伊藤と鈴木。前半の中頃辺りには、降りてCBを引き出した事で背後にスペースを作った伊藤がそこにパスが出なかったのを見て頭を抱えていたり。恐らく意図的にこの移動を繰り返していたと思います。
同点弾もそうですし、その後の決定機も『降りる』オフザボールから生まれました。
https://youtu.be/_xncdtXy_pY?t=171
積極的なマンツーマンを示す相手なら敢えて人を動かす。そして空いたエリアを活用してスピードアップ。特に鈴木考司と伊藤涼太郎はこの動きとボールスキルで幾度となく新潟にチャンスをもたらしました。
札幌の保持に対しては一度セットしてからプレスをかける、ミドルプレスを敢行。特に4-1-5のような形でボール出しを進めてくる際にそれは見られました。
札幌は4-1-5のような形でボール保持。前方の5枚とDHの宮澤が降りて4枚形成。前方の5枚があまり降りてこないで前で待機しがちなので、前後が分断されるような形となります。
そしてハブとなるMFは1枚。中央部は新潟の方が数的優位を形成できるのでここで奪いたい。或いは後方を孤立させてボールを詰まらせたい。
上記のような狙いがあったのか、札幌が4-1-5に変換してきた際には比較的積極的に圧をかけました。14分辺りにGKのミスキックを誘った際にはアンカー荒野の所まで島田がジャンプアップするなど、相手を慌てさせてボールを切らせる事でマイボールに。この時間帯から徐々に新潟が持てる時間が増えてきた印象です。
圧力を跳ね返しつつ札幌にも自由にやらせない。前半終了間際の太田修介の逆転ゴールもあり、このままいける…!と思っていた自分。
しかし、後半の劣勢を想像できるような、そんなリアリストな一面を自分は備えてはいませんでした。
またしても劣勢。押し込まれた45分間
『早くボールが前に進めば進むほど、早く自陣に帰ってくる』『同じ電車ではなく同じ車両で旅をするんだ』
ファンマ・リージョの言い得て妙な言葉の本質がこの後半に現れたと思います。時間の経過と共に体力を消耗して、伊藤や交代で入った谷口・小見につけても陣形全体を押し上げられず、彼らだけで完結する攻撃が目立ちました。
相手を動かせていればスペースが出来るのでハイライトシーンが、時にはゴールも生まれます。
しかし、相手が構えている所に早くボールを蹴っても跳ね返されて、回収からまた攻撃をされる。そんなひたすらタコ殴りされる展開が続きます。攻撃陣が踏ん張って納められればチャンスに繋がりますが、確率論で言ったらどうしても奪われる方が高くなってしまいます。後方の押上げも無いなら尚更。
相手に動かされて疲労がたまり、相手を動かせずに縦志向を強める、結果的に保持に影響が出る。そんな劣勢を過ごす背景には何があったのでしょうか。
動かされて、動けない
ビルドアップのフェーズで相手をおびき寄せて、前方に使いたいスペースを創出してボールを送り込むのが新潟。後半は出した先で札幌が待ち構えるようになったので、小島から長いパスを送り込んでもマイボールにする状況を十分に作れませんでした。
一方の札幌は自分達が動く事・質的優位で相手を動かしてチャンスを作りました。
このように、J屈指のドリブラーでありクロッサーである金子に対して、渡邊泰基がスライド。確かに質的優位を示す稀有な選手なので、自由にさせる訳にはいきません。
しかし、危険なSB-CB間が大きく開く上にカバーするのは島田。可動範囲もボール奪取能力も今現在ではJ1基準とは言い難く、若干の不安を残します。実際に23:00〜など小柏に好きなように割られてしまうシーンが特に前半は目立ちました。
5トップのような札幌に対し、5バックで人を合わせるのではなく4-4ブロックを維持しながらボールサイドに人を当てて自由を奪う新潟。しかし、失点時のように相手がポジションを入れ替えながらボールを繋がれると、どうしてもフリーの選手ができて良質なボールをSB裏に走らされてしまいます。そこで島田が晒されるのは正直不本意。
中央にいた選手がカバーリングに走る事でバイタルエリアが空いてしまう。新潟の2失点はWB-STのスムーズな関係性を構築した札幌に思い通りに動かされた事に原因がありました。
試合を通じて中盤で奪われたり奪えなかったりしたのも、個々の力量以上にこうしたカバーリングを続ける事によっているべき所にいなかったり、疲労が積み重なった結果なのかなと思います。特に後半は顕著に疲れが見えました。
じゃあどうすればよかったか。上記のようにSBがハーフスペース、SHが大外を消すやり方。このケースでは金子に対して小見・泰基でダブルチームを組む事で被害を最小限に留めました。チーム全体でスライドするよりはSHに少し頑張ってもらう方が良かったのかもしれません。CB-SB間を埋められるし、SHは疲れたら替えられるし。
そして札幌で際立ったのが、ピッチ全体を斜めに描くような対角線のパスを多用する事。
札幌には長距離でも正確に蹴れる選手がいて、大外に必ず駐在するWBがいるのでこのようにボールを斜めに動かして新潟にスライドを強要。そこで生まれるギャップを上手く利用されるシーンが増えていきました。
空いた大外からファーサイドを突いてくるクロスでは何度も心拍数を高められましたが、左右に揺さぶられてからクロスが来るとボールとマークマンを同一視野に収めるのが難しい。というか殆ど無理。
前半では詰まり気味に見えたビルドアップも少し変化。小柏-浅野が中間ポジションに立ってボランチの間が少し空く。そこにCFが降りる動き。前線も流石に疲れが見えてプレスに行けなくなり、CBの運ぶ動きでプレスラインが無力化されてしまいました。
CB(デン)が結構釣られるのでフリックで裏に差し込まれたり、上手くいかなくても即時奪回で二次攻撃を展開されたり。当然のようにセカンド争いも尽く負けていました。
これらのように、各々が動かされて対応を強いられ続けると次第に身体的・心理的な負担が重くのしかかってしまいます。次第にただ前方に預けるだけになってしまいサンドバッグ状態に陥った新潟。その裏側には相手に動かされ続けた側面もあるのかなと思いました。
新潟はどう振る舞うべきなのか
ここまで3試合を終えて、意外とどのチームも新潟をリスペクトして策を練ってきています。SHが無闇に出てこないで前進の糸口を消してきたセレッソ、新潟シフトで後半からキャラ変してきた広島、そして札幌。
その中で対応策として示されたのがハーフコートマンツーマン、ビルドアップのフェーズで人を当ててきて新潟の生命線を絶とうと襲い掛かってきます。特に強度が落ちた時間帯にボールを捨ててしまい苦しんでいる新潟。
今節のパスネットワークではCB間、CMF間などいつもの横同士のパスラインが全く見られませんでした。思えばチャンスシーンは殆どがブライトン式。ボールを持った舞行龍の視線が殆ど縦だったように、マンツー対策によってJ2期と比べてかなーり直線的な志向が強くなったのは決して好ましい事ではありません。
理由なんていくらでも並べられますが、実際千葉が負傷したようにとにかく選手への負担が大きい。スペースに走り走らされるサッカーに耐えられるスカッドのタイプ(FC東京とか)や質を揃えている訳ではないのが新潟。加えて60分以降のゲーム体力がガクンと落ちるフィジカルなので上記のようにあらゆる方向に影響が生じてしまう。そして総合的に試合を支配される。正直しんどいかなと思います。カウンターで見どころを作ってくれた攻撃陣にも本当は落ち着いた中でプレーさせてあげたい。
そんなこんなで『新潟式が全然発揮できねぇ…』と思う方もいるかもしれませんが、自分はこのまま進むべきだと仮説を立てています。矛盾してますよね、ただ逆張りでもなく、しっかりとした理由があります。
一つとして相手側の収支が合わなくなる事。個の質で上回るので最終ラインの数的同数・疑似カウンターを受け入れるJ1陣ですが、来た所の背後を使って創造性豊かなアタッカー陣を活かす新潟の攻撃は確実に良化していくと思います。
引いてスペースを消す相手よりも、奪いに来てスペースを渡してくれる相手の方が当然崩しやすいのでチャンスは勿論、そこからスコアに繋がる機会はもっともっと増えることでしょう。
何故なら選手達がJ1の強度に適応していくから。日々のトレーニングや試合を通じて既存戦力の質は上積みされますし、夏もしかしたら春にだって新戦力が加わるかもしれません。
今現在でも点を獲れてしまうので、人的リソースを上げていけば更に点数も増えていく、そうなると相手からしたら主導権とボールを奪うチャンスより失点するリスクが高まるので、マンツーで嵌める事による収支が合わなくなります。
そしてマンツー×プレッシングは負荷が大きい。単純な移動距離が増える上に、スペースではなく人を守る=対人の機会が増えるので、身体的な負荷がかかるので消耗の度合いが上がります。特に夏場とか絶対しんどい。
これらの事を踏まえると、リーグ全体としてマンツーマンで消しに来る事はなく、ゾーンディフェンスとマンツーマンを混ぜながら人とスペースを消しに来る。そんなジワジワと首元を絞めるようなチームが多発すると思っています。桜さんみたいな。もしそうなったら今日しれっと見せていた藤原のCMF化がより活きてきそう。
近いうちに、人ではなくスペースを消してくる新たな対策が生まれて『それに対して新潟はどう出る?』がまた問われてくることでしょう。トレンドが生まれてそれが過去の物になるまでの時間軸が素早く流れるフットボールの世界において、永遠に変わらない方法論なんて存在しません。
新潟はとにかくこの方向性を継続しながら、マンツーを打ち破って相手の勢いの弛緩を強要できるチームになって欲しいです。自分達が変わるのではなく相手を変化させて新潟式の土俵に立たせる。そうなれば本当の意味でリーグを引っ張る存在になることでしょう