会話

 夏休みだ。私は、人生で初めて異性の友人と出かけた。正に、夏休みだ。
 彼女は、私との会話中、ずっと笑っていた。ずっと頬を押さえていた。笑いすぎて頬骨が痛いらしい。私は、自分のことについて話し、彼女についての話を聞いた。そして、共通の友人の話をした。これが、会話だと思った。私が今までしてきた会話は、会話ではなかった。私は今まで何をしてきたのだろう。
 つまり、とても楽しかった。

 夏休みも、もうすぐ終わる。私は男友達2人とファミレスにいた。大学ではいつも一緒にいる、気の合う友達。理由はないけど、ファミレスに来た。
 私はハンバーグセットを注文して、後の2人はポテトやらソフトクリームやら頼む。お腹が空いていないらしい。私はちょっと面白くなかった。
 商品を待っている間、私は、さっきの電車に鳩が飛び込んできた話をした。2人は、スマホのゲームをしている。私は、身振り手振りを交えて、鳩の愚かさを語る。2人はスマホを横画面に持ち、スマホのゲームをしている。私は恥ずかしくなって話をやめた。2人は、私が話をやめたことにも気づかず相槌を打っていた。
 料理が運ばれてきても、2人はスマホを触っていた。私はとっくに会話を諦めて、黙々とハンバーグセットを片付ける。私が先に食べ終わった。2人はまとめサイトのニュースを見ながら、チビチビポテトやらを食べている。私は、私が私の話ばかりしていることに気がついた。「最近どう?」
私の声は2人には届かなかった。確かに発した、私の「最近どう?」が、私の脳内で何度も何度も繰り返される。
 私はいよいよ会話をやめて、それでもスマホをいじるでもなく、ただ、彼女のことを考えていた。本当の友人。本当の会話。今度、電車鳩の話をしよう。きっと、たくさん笑ってくれる。

 大学が始まって、私は2人の友人と一緒に授業を受ける。昼食を食べる。2人はイヤホンをしている。
 食堂の隣のテーブルで、彼女が彼女の友達と食事をしていた。
 彼女は、頬を押さえて笑っていて、私はなんか死にたくなった。

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