シュガーソングとビターステップの歌詞構成は世界中を驚かせてしまう
シュガーソングとビターステップ。
今年で16年目のロックバンドUNISON SQUARE GARDENがプロデビュー10年目に発表したメガヒットシングルです。
一般の方にも広くユニゾンの名が知れ渡ったこの曲はユニゾンの代表曲になりました。
ユニゾンの曲は「難解な歌詞」「何を言ってるのかよく分からない歌詞」などと言われがちですが、その実ちゃんとメッセージや、あるいは作詞作曲の田淵智也さんの哲学が込められているのです。
もちろんそれはシュガビタも例外ではありません。
というか個人的には「逆に珍しいくらい哲学とメッセージを前面に出してきたな！」とすら感じるこの1曲。
なぜ作詞作曲の田淵智也さんは分かりやすい歌詞を書かないのでしょう？
それは「一聴では分からないなら それこそが贅沢な暇つぶし(mix juiceのいうとおり)」という歌詞にもある通り、歌詞の意味を考えることもまた、ファンに与えられたとお楽しみの時間だから。
ということで「贅沢な暇つぶし」として、本日は私なりのシュガビタの歌詞考察・メッセージ解読をしてみました。
するとこの曲、驚きに驚きを重ねてくる深みのある激アツエモ構成になっていました。
ちなみに、日本語の歌詞を日本語で直訳した上に意訳が必要とかもよくありました。
やはりユニゾンの歌詞は一見日本語で書かれているようで、田淵語で書かれているのです。
本文では「なぜこのような歌詞解釈になったのか」ということをねちっこく……これでもかというくらいねちっこく説明しています。
その分、恐ろしく長くなりました。(1万4000字)
短気な方は、最後に私なりに意味を訳したシュガビタの歌詞を置いておきますのでそちらを読んで下さい。
ではいきましょう！
1番Aメロ・パート1
超天変地異みたいな狂騒にも慣れて
こんな日常を平和と見間違う
rambling coaster
揺さぶられながら見失えないものは何だ？
①超天変地異みたいな狂騒
これは「非日常」と言い換えることができるでしょう。
ユニゾンはよく、ライブの事を「遊園地に行くのと同じようなたまに訪れる"非日常"だ」と形容するからです。
「いつもの日々の中で、たまにの非日常としてライブを楽しんで。とりあえず僕らはいつでもライブハウスにいるから、気が向いた時にふらっと寄ってくれれば良い」という旨の話を作詞作曲の田淵さんは何度もしています。
その事から、ここで言う「狂騒にも慣れて」とは、彼らにとってはライブのような非日常が日常になり、当たり前の日々になった事を表していると考えられます。
②rambling coasterは
直訳すると散漫な(不均整な)コースターです。
散漫ということは、このコースターにはレールが敷かれていない、または目的地が無いのでしょうか。またコースターという単語にはスピードが速いイメージが持てますよね。
これは移り変わりの激しい音楽業界を揶揄しているのではないか？と私は考えましたが、その理由は後々。
①②から
・超天変地異→非日常な体験
・狂騒→ライブ
・rambling coaster→移り変わりの激しい音楽業界
と置き換えると、1番Aメロの意味はこう意訳できます。
超天変地異みたいな狂騒にも慣れて
こんな日常を平和と見間違う
rambling coaster
揺さぶられながら見失えないものは何だ？
↓
非日常な体験であるライブにも慣れて
日常だと錯覚するようになった
移り変わり激しい音楽業界に
揺さぶれる中で
見失えないものは何だ？
1番Aメロ・パート2
平等性原理主義の概念に飲まれて
心までがまるでエトセトラ
大嫌い 大好き ちゃんと喋らなきゃ
人形とさして変わらないし
①平等性原理主義
こちらは「平等性」と「原理主義」に分けられます。
田淵さんはよく、「喧々粛々轟々」「静謐甘美」などの造語を作ります。
「rambling caster」や2番の「蓋然性合理主義」も同様ですね。
平等性は平等さ、等しさを意味し、そこに過激さを想起させる原理主義という言葉をくっつける事で、過激な等しさ、と訳せます。
(厳密には原理主義は過激派という意味ではありませんが、あくまで想起させる単語としての使用だと思います)
これは日本の、出る杭を打つ風潮、右ならえ風潮を揶揄したものでしょう。
ユニゾンの歌詞の中ではこのような「右ならえな風潮」を揶揄した歌詞を幾度も登場します。
②エトセトラ
いくつかのものを羅列する時に使われる「その他」「以下略」という意味の言葉です。
つまり、主要ものではない、重要なものではない、優先順位が低い事を表します。
①②から
・平等性原理主義の概念→みんなと同じ、右ならえを過剰に押し付ける風潮
・まるでエトセトラ→優先順位の低下
置き換えます。
平等性原理主義の概念に飲まれて
心までがまるでエトセトラ
大嫌い 大好き ちゃんと喋らなきゃ
人形とさして変わらないし
↓
「みんなと同じ」を過剰に押し付ける空気に飲まれて
本心の優先順位がまるで
エトセトラに入っているくらい下がってないかい？
大嫌い、大好きをちゃんと表明しなきゃ
人形と変わらないよ
1番Bメロ
宵街を行く人だかりは
嬉しそうだったり 寂しそうだったり
コントラストが五線譜を飛び回り
歌とリズムになる
①宵街
夜の街を示します。
ライブが終わりハウスを出るのは大体20時〜22時頃、すなわち夜です。前の歌詞でライブが日常になった旨を語っているので、ライブ帰りの道を示しているとも考えられます。または、仕事や学校などが終わった後の道ですね。
②コントラスト
直前に「嬉しそう/寂しそう」という対に近い言葉を使っていることから推測するに、感情の起伏を表していると考えられます。
また五線譜を飛び回るものといえば音符ですが、音の「高い/低い」もまたコントラストですので、これは2つの意味が掛けられているのだと思います。
①②から、
・宵街→ライブ帰りの道、あるいは普段の帰り道(演者の、あるいはリスナーの)
・コントラスト→感情の起伏、音程の高低のダブルミーニング
置き換えます。
宵街を行く人だかりは
嬉しそうだったり 寂しそうだったり
コントラストが五線譜を飛び回り
歌とリズムになる
↓
夜の街(ライブ、または日常の帰り道)を行く人々は嬉しそうだったり、寂しそうだったり
様々だ
人の感情には高低がある。
それは音符となって五線譜の上を飛び回る
そして世の中に新しい楽曲が生まれる
このように解釈できます。
「人に感情の起伏があるから新しい楽曲が生まれる」
という説は一見突然出てきたかのように感じるかもしれませんが、実は似たような事はシュガビタよりも遥か前の、シューゲイザースピーカーという曲で歌われています。
どんなヒットソングでも
救えない命があること
いい加減気づいてよ、ねえ
だから 音楽は今日も息をするのだろう
この歌詞とシュガビタのこの部分の歌詞を併せると
全ての人を救済する歌は存在しない。
あったら人は自殺をしないし、誰かを殺しもしない。
いつまでも安寧が訪れないから、人間は喜んだり悲しんだりすることができる。
そんな感情を人は音階(五線譜)に委ねて、音楽がこの世に生まれる。
という哲学が田淵さんの中にはあるのではないかと考えられます。
ちなみに「救えない命」に「自殺」も入れたのは、
「人生はよく出来てる。だから生きて欲しい」
「現世にサラバだ？死んじゃったらもったいない」
というように、「どうか自殺だけはしないで欲しい」という意味の歌詞がユニゾンの曲には出てくるためです。
このシューゲイザースピーカー、トリビュートアルバムのThank you, ROCK BANDS！の中でThe pillowsにカバーされているのですが、そちらも爆裂バチボコにカッコイイので原曲と併せて是非聴いてください。
1番サビ
ママレード＆シュガーソング、
ピーナッツ＆ビターステップ
甘くて苦くて目が回りそうです
南南西を目指してパーティを続けよう
世界中を驚かせてしまう夜になる
I feel 上々 連鎖になってリフレクト
サビはまだ訳しません。
訳するには現時点ではピースが足らなすぎるのです。なのでここは一旦置いておいて、軽い解釈だけになります。
・マーマレードとピーナッツは、特に深い意味はなく、それぞれ甘い物と苦い物の代表として、語感が良いものを当て嵌めたものだと考えられます(田淵さんはよく雰囲気で言葉を当て嵌めます)。
ピーナツは甘くないですが、このピーナツとはピーナツバターなので甘いです。
※ユニゾンの武道館ライブの際に販売されたシュガビタTシャツにピーナツバターとして描かれています。
・甘くて苦くて目が回りそう、というのは、Bメロの「嬉しそうだったり寂しそうだったり」という歌詞の踏襲です。
なのでプラスな(甘い)感情とマイナスな(苦い)感情であると考えられます。
サビはまだ解釈しないと先程書きましたが、正確には1番時点ではまだ「できない」と言った方が正しい。
なぜなら歌詞の進行上、この時点ではまだ分からない事が多すぎるのです。
シュガビタの「謎」について
全部謎だよ！
……と、言わないでください。
気持ちはわかりますが。
次から2番に入ります。この時点で記事が恐ろしく長いのですが、まだ半分いってません。
これからもっと長くなるので、辛抱強い方はこの先もお付き合い下さい。
さて、1番でシュガーソングとビターステップの謎は全て出揃いました。
2番からは本格的にユニゾンの方向性を歌っていくと同時に、謎解きに入ります。
1番で提示された主な謎は以下の7つです。
・見失えないものは何か
・シュガーソングとは何か
・ビターステップとは何か
・南南西とは何を指すのか
・世界はなぜ驚くのか
・何が連鎖するのか
・何がリフレクトするのか
これらを念頭に後半に入りましょう。
2番Aメロ
蓋然性合理主義の正論に揉まれて
僕らの音楽は道具に成り下がる？
こっちを向いてよ 背を向けないでよ
それは正論にならないけど
ここからは1番のAメロBメロを理解していないと一気に意味が不透明になります。
①蓋然性合理主義
蓋然性とは、平たくいえば「確からしさ」という意味です。
合理主義はそのまま、理性的に無駄をなくそうとする様です。
合わせると、「確からしい合理さ」という感じの意味だと推測できます。
②正論
直訳すれば正しい論理という事ですが(日本語なのに直訳とは)、これはこの歌詞の中で最も意訳が必要な言語です(日本語なのに意訳とは)。
1番のAメロで、私はrambling coasterを音楽業界だと解釈しました。
では移り変わりの激しい音楽業界における「確からしい合理的な正論」とは何でしょう。
それは即ち「一般受けする音楽を作ること、売れる音楽を作ること」です。
③僕らの音楽は道具に成り下がる？
この歌詞では、上記の「正論」に対して、明らかに不服の意を示していますよね。
つまり、「僕ら」は「蓋然性合理主義の正論に反した音楽」をしているのです。
正論でない音楽。
それはつまり、邪道な音楽といえます。
一般受けする音楽は、歌詞もわかりやすいことが多いです。
ユニゾンの歌詞は意味わからないとしばしば言われます。
一般受けする音楽は曲の流れや盛り上がり方もわかりやすいです。
ユニゾンの音楽は転調や変拍子や謎の奇声など様々なギミックが盛り込まれているぶん予測がつきません。
一般受けするライブは観客を煽って一体感を出して、MCの時間をしっかり取り、アンコールもします。
ユニゾンのライブは基本放置です。
煽らず、踊るも動くも座るも観客の好きにさせます。
MCは最低限で、無いこともあります。
アンコールで一旦退場する時間が勿体ないと、特にフェスでは基本アンコール無しで持ち時間を目一杯使って、曲だけを聴かせて終わるのが基本です。
どちらが良い・悪いという話ではなく、ユニゾンは彼らの美学の下、そういうスタイルで活動しています。
けれどそのスタイルは、音楽業界において決して王道ではありません。
「僕ら」とは、UNISON SQUARE GARDENであり、邪道な音楽を愛するリスナー(またの名を、いつかの田淵少年)であり、つまるところマイノリティなのです。
※ややこしいけどオタク特有の面倒臭いこだわりですが、ユニゾンは自分たちとリスナーを「僕ら」で一括りにはしません。ユニゾンの3人と、邪道な音楽を愛する人たちは括り方としては分けられてると思います。
そんな「邪道な音楽」が自分たちの美学なのに、売れるために意図的に曲げてしまったら、その音楽はアーティストの道具ではないか？
「邪道な音楽」を愛する心を、周囲に合わせるために曲げるのは、音楽は本来自由なものなのに、そのリスナーにとっては道具になってないか？
そう歌ってるのではないかなと私は解釈しました。
ではどういう時に、音楽を道具にしてしまうのか？
ここに繋がるのが1番のAメロパート2
平等性原理主義の概念に飲まれて心までがまるでエトセトラ。人形とさして変わらないし
＝同調圧力に飲まれて本心の優先順位が低下し、人形と変わらない状態
これなんです。
1番の時点でアレ？となった方もいるかもしれませんが、1番Aメロパート2、それ以外の部分では音楽の話してる中で、いきなり「本心の優先順位下がってない？」という啓発的な話になっていて、流れとしてちょっと浮いてるんです。
その違和感を2番Aメロという同じ箇所で補足します。
「本心を殺して人形になってしまった時、人は音楽を道具にしてしまうんじゃないか」
このように意味が繋がってくるのです。
わあ〜〜〜〜〜〜〜〜！
なんて鮮やかな伏線回収………。
田淵さんすごすぎる…
と思いませんか？
ですがこの後は、こういう伏線回収のオンパレードです。楽しみにしててください。
③こっちを向いてよ 背を向けないでよ
これは誰が誰に言っているのでしょうか。
邪道好きのマイノリティが、マジョリティ、大衆、王道に対して言っている構図ではないかと私は思います。
(ユニゾンからファンに向けた言葉とも捉えることは可能ですが、彼らの方向性上「僕らを見ててね」と言うのは違和感があるので、そうではないと思います)
④正論にはならないけど
この「正論」は比較的原義に近いです。正当性がないという事です。
移り変わりの激しい音楽業界で、見失えないものは何か？と前もって提示し、それについて自己問答する思考が2番Aメロになります。
では訳します
①②③④から
・蓋然性合理主義の正論→ 一般受けする音楽を作り、王道なライブをすること
・道具に成り下がる？→自分の方向性を意に反して曲げること
・それは正論にならない→「見捨てられないために」というのは音楽を道具にする事を正当化してくれない。
となります。意訳します。
蓋然性合理主義の正論に揉まれて
僕らの音楽は道具に成り下がる？
こっちを向いてよ 背を向けないでよ
それは正論にならないけど
↓
「一般受けする音楽とライブをする」という音楽業界の正論
でも意に反して音楽性を変えた音楽は道具じゃないか？
「見捨てられないために」というのは
自分たちの音楽を捨てる事を正当化してくれないけど
これが2番Aメロだと考えます。
2番Bメロ
祭囃子のその後で 昂ったままの人
泣き出してしまう人
多分同じだろう
でも言葉にしようものなら稚拙が極まれり
祭＝非日常、囃子＝音楽ということで、祭囃子はライブの事だと考えられます。
ここで歌われるのはライブをやりきったアーティストの心理であり、またライブ帰りのリスナーの心理です。
(余談ですが、田淵さんの昂りはライブ中の暴れ方に出ていますが、ライブ後の打ち上げではよく泣いてるそうです)
祭囃子のその後で 昂ったままの人
泣き出してしまう人
多分同じだろう
でも言葉にしようものなら稚拙が極まれり
↓
ライブの後、感情の表し方が違っても、きっと受けた感動の大きさは変わらない
けれどその感動を言葉にしようとするとどうにも言葉が足りなくなってしまう
2番サビ
最高だってシュガーソング
幸せってビターステップ
死ねない理由をそこに映し出せ
惜しがったって等速で明日は来ちゃうけど
脳内天気予報のアップデートを果たしたなら
①最高だって / 幸せって
これ、どちらも後に続く言葉の区切り方をしていますよね。
けれどこのままだと意味が通りません。
ということは、シュガーソングもビターステップも、どちらも文になってる可能性が高いわけです。
田淵さんはよく、日本語の単語と音が似てる英語を並べ立てる言葉遊びをします。
kid, I likeで喜怒哀楽とかね。
その法則がここにも適応されているのではないか、とファンの間では言われています。
つまり
シュガーソング→シュガ/ア/ソング→Sing a song
ビターステップ→ビタ/ア/ステップ→Beat a step
という事です。
「最高だ」って歌って
「幸せ」ってステップを刻む
そう考えると、このようにきちんと意味が通る歌詞なのですね。
②等速で明日は来ちゃう
この等速とは秒針の速さ、つまり時間の経つ速さは何時いかなる時も等しい事を表しています。
③脳内天気予報のアップデート
おそらく感情の切り替えを表しています。
1番Bメロの「嬉しそうだったり寂しそうだったり」を晴れ模様、雨模様と置き換えた上で対応させてるのだと考えられます。
①②③から
・シュガーソング→シング・ア・ソング
・ビターステップ→ビート・ア・ステップ
・等速→時間
・脳内天気予報のアップデート→感情の切り替え
最高だってシュガーソング
幸せってビターステップ
死ねない理由をそこに映し出せ
惜しがったって等速で明日は来ちゃうけど
脳内天気予報のアップデートを果たしたなら
↓
「最高だ」って歌って、「幸せ」って踊って
死ねない理由をそこに映しだせ
楽しい時間(ライブ)が名残惜しくても、時計はいつもと同じ速さで時を刻んで明日がやってくる
けれど気持ちの切り替えができたなら
ユニゾンらしさ、という葛藤
Cメロからラスサビの解説に入る前に、UNISON SQUARE GARDENというバンドの過去について説明を挟みます。
なぜシュガーソングとビターステップという曲に、「音楽業界での正論」だの「音楽性」だのといった一見飛躍したような解釈が生まれるのか。
これは今までのインタビューなど、あらゆるメディアで話されたことから、勝手に私が読み取り解釈した部分です。
(このnote自体、全部勝手な解釈なのですが、特に勝手に解釈した部分ということです笑)
シュガーソングとビターステップは、ユニゾンがプロデビューを果たしたバンド活動１０周年目、初の武道館公演決定、初のベストアルバム(シングル曲を一つも入れない尖った名盤) の発売決定、という彼らの活動史上最も節目となるタイミングで発表されたシングル曲です。
一風変わった彼らのスタイルは今でこそUNISON SQUARE GARDENらしさとして確立しましたが、駆け出しの頃はライブや音楽の方向性について随分と揉め、迷走した(本人談)そうです。
それこそ「売れやすい路線に変えるかどうか」という点で。
そのこと知っているコアなファンは、シュガビタの歌詞を見た時点でこの曲はユニゾンの決意を表面する歌だと、私のnoteを読むまでもなくピンと来ていると思います。
ユニゾンが非常に独特な歌詞や曲を扱うバンドだというのは先述した通りですが、例えユニゾンのことをよく知らなくても「作詞作曲 : 田淵智也」の字を見ただけで分かる人は分かると思います。
そして彼らの、MCなし、煽らないというライブスタイルも世の中の主流と比べると些か外れています。
けれど迷走期は今と違って、ライブで煽りもしましたし、ロックにいくか、ポップにいくか、わかりやすい曲を作るか悩み、メンバー内でもピリついた時期だったそうです。
今の、ポップもロックもやる。
一聴ではわからない歌詞と、異常なまでに難易度の高い曲でやる。
ライブは煽らない。
MCは最低限。
そんな方向性が固まってきたのがオリオンをなぞるをリリースした辺りです。
ウケやすい音楽か、やりたい音楽か。
観客の一体感を煽るライブか、自由に過ごさせるライブか
これらがかつてユニゾンが激しくぶつかった壁であったという事を知っていると、シュガビタをより一層味わって聴けるのではないでしょうか。
それを乗り越え、スタイルを確立し、ついに迎えた10周年目
発表されたシングル、シュガーソングとビターステップ
2番のサビも終わり、曲はいよいよ佳境に入っていきます。
さて。
ようやくです。ここまでの歌詞でばらまいた伏線が、この後一気に回収されていきます。
ここに書いた事全部、この先のシュガビタ謎解きタイムに必要な事でした。
ここまで読んでくださった方、本当にお疲れ様です。
もう少しだけ、私の贅沢な暇つぶしお付き合いください。
まず、解明された謎を確認します。
・シュガーソングとは何か→シング・ア・ソング＝歌を歌うこと
・ビターステップとは何か→ビート・ア・ステップ＝ステップを刻むこと(踊ること)
残りの謎は5つ
・見失えないものは何か
・南南西とは何か
・世界はなぜ驚くのか
・何が連鎖するのか
・何がリフレクトするのか
ほぼ答えの出ているものもありますが、順を追って見ていきましょう。
Cメロ
someday 狂騒が息を潜めても
someday 正論に意味がなくなっても
feeling song & step 鳴らし続けることだけが
僕たちを僕たちたらしめる証明になる、QED！
①狂騒
これは1番Aメロに出てきたように、ライブの事です。
技術の進化により今や音楽は画面越しに聴く(観る)ものになっていきました。そんな中でいつの日かライブ体験が下火になるかもしれないことを歌っているのではないでしょうか。
②正論
こちらも。2番Aメロに出てきた蓋然性合理主義の正論……つまり「ウケやすい音楽と王道なライブをすること」です。
けれど音楽の多様化が進み、リスナーもそれぞれがそれぞれの好きな音楽"だけ"を聴く時代では、一般受けというもの自体が無くなる日が来るかもしれないと歌っているのだと思います。
③Q.E.D.
証明終了を表す言葉です。ここで証明されるのは「僕たち」、2番Aメロの「僕ら」です。
それはUNISON SQUARE GARDEN、
そして邪道な音楽を愛するリスナーのこと。
一般受けしない曲でも、鳴らし続ける事で「僕ら」はここまで来た。
貴推さんのドラムと、
斎藤さんのギターボーカルと、
田淵さんのベースと曲による確立したスタイルは、今や彼らがUNION SQUARE GARDENだと証明するものになった。
10年目にして彼らはそう宣言したのです。
奇しくもシュガビタは大ヒットを飛ばしましたが、その後のユニゾンは方向性を変えることなく、むしろ、ことさら「いつも通り」をモットーに活動するようになりました。
いつも通りの田淵節の強い音楽を、いつも通りの会場で、いつも通りのメンバーで、いつも通りのクオリティで演奏する。
それ以上もそれ以下もない。
実際、2014年の武道館ライブでもユニゾンはいつも通りの演奏をし、銀テすら飛ばしませんでした。
一般受けも狙わなければ、バカ売れも狙わない。
テレビよりもライブハウスにいる。
なぜなら自分たちは、自分たちの音楽でライブがやりたくて、バンドをやってるから。
同様にリスナーも、邪道でもマイナーでもその音楽を愛する本心がその人をその人らしくする。
①②③から
・見失えないものは何だ？
→僕たちを僕たちたらしめるもの
というメッセージが見えてきます。
以上を踏まえて意訳します。
someday 狂騒が息を潜めても
someday 正論に意味がなくなっても
feeling song & step 鳴らし続けることだけが
僕たちを僕たちたらしめる証明になる、QED！
↓
いつの日か ライブが下火になっても
いつの日か 「普遍的な一般受け」が無くなっても
歌とステップを感じて、本当に好きな音楽を見失わず鳴らすことが
僕たち(あるいは君)を、他の誰でもない、僕たちだと証明してくれる、Q.E.D！
そんなパートになります。
少年漫画でいうラスボス戦前の覚醒シーンか？と思うぐらい熱くないですか…？
1番の冒頭で投げかけた問いをCメロで回収する構成も化け物なのですが、こうしてめちゃくちゃに盛り上げた先に待ち受ける最高に盛り上がるラスサビが続きます。最高！！
ラスサビ・1
ママレード＆シュガーソング、
ピーナッツ＆ビターステップ
生きてく理由をそこに映し出せ
北北東は後方へ その距離が誇らしい
世界中を、驚かせ続けよう
①マーマレード/ピーナツ
これも対、コントラストになっていますね。
1番Bメロから、コントラストになっているものは感情と音です。
つまりマーマレードとピーナツには、それぞれ感情と音を代入できると考えられます。
マーマレード→「嬉しい時」「高い音」
ピーナツ→「寂しい時」「低い音」
※嬉しい時と高い音、寂しい時と低い音はイコールではなく、マーマレードやピーナツという言葉が持つ2つの意味なので併記します。
②北北東
この方角は南南西の真反対に位置します。
この歌の中で「僕たち」は「南南西」へ向かっていて、「北北東」は遠くに。
となると、もうこの方角が何を表すかは明白です。
南南西とは邪道、マイノリティ
北北東とは王道、一般受け
自分たちが「良いな、かっこいいな」と思う音楽＆ライブ。
それは、北北東(＝正論＝大衆受けする音楽、MCを沢山したり、ファンサしたり、煽るライブ)とは真反対に位置する。
でも、自分たちの信念を貫けた証である北北東との距離が、今では誇らしい。
そのような歌詞になっているのだと思います。
1番2番でサビの解説がちゃんと出来なかったのは、Cメロまでの流れをまず説明しなければ、サビに散りばめられた単語の意味を説明できないからでした。
ですがピースは揃った今、続々訳し行きたいと思います。
③世界中を驚かせ続けよう
ユニゾンの中で歌われる「世界」が指すのは基本的に各国という意味ではありません。
「私たちが生きている範囲の空間」が私たちにとっての"世界"であり、「世界中」とはつまり世間のことを指しているのだと思います。
そして人や世間は、一般的ではないもの、予想だにしないもの、邪道なものに対して驚きます。
つまり「邪道な音楽・変な音楽を僕らを取り巻く世界に対して流して世界中を驚かせよう」という意味だと考えられます。
①②③から
ママレード＆シュガーソング、
ピーナッツ＆ビターステップ
生きてく理由をそこに映し出せ
北北東は後方へ その距離が誇らしい
世界中を、驚かせ続けよう
↓
嬉しい時に歌って(高い音を歌って)
悲しい時と踊って(低い音と踊って)
生きてく理由をそこに映しだせ
一般受けや王道な路線からは遠く離れたけれど
その距離が誇らしい
邪道な音楽で、世間を驚かせ続けよう
ラスサビ・2
ママレード＆シュガーソング、
ピーナッツ＆ビターステップ
甘くて苦くて目が回りそうです
南南西を目指してパーティを続けよう
世界中を驚かせてしまう夜になる
I feel 上々 連鎖になってリフレクション
goes on 一興去って一難去ってまた一興
①目が回りそう
嬉しい/寂しいの感情の起伏と、高い/低い音程の差、それをベースに感情、日常、音楽業界、楽曲の展開、ライブ、ありとあらゆるものの甘い側面と苦い側面に対しての言葉だと思います。
②パーティー
祭囃子と同じくライブです。
南南西(=邪道)を目指してライブを続けよう。
この続けようは、ライブそのものだけでなくバンドとしての活動も指すと思います。このスタイルでこれから先の活動を続けよう、と。
③I feel 上々 連鎖になって
上々とはこの上なく良い、非常に良いという事です。
同じ意味の言葉は2番サビに「最高」「幸せ」と出てきます。
つまり連鎖するのは、この「最高だ、幸せ」という感情です。
そして「上々だ」と感じている( feel )しているのは、当然ながらこの曲の一人称(I)である「僕ら」です。
ユニゾンであり、そしてマイナー音楽好きのリスナーです。
④リフレクション
ついに最後の謎解きです。
リフレクションとは、反射、反映という意味の単語です。
これが動詞になると反射する、映し出すという意味になります。
曲中で「映し出せ」という歌詞がありましたよね。
そう、「死ねない理由」「生きてく理由」です。
「最高だ」という感情は連鎖して、自分の、あるいは誰かの死ねない理由、そして生きてく理由を映し出す。
という意味だと考えられます。
⑤goes on(続く)。
バンド活動が、日常が続きます。
それは、楽しい事(一興)が過ぎて、
苦しい事(一難)も過ぎて、
また楽しい事(一興)が来るということです。
①②③④⑤から意訳します。
ママレード＆シュガーソング、
ピーナッツ＆ビターステップ
甘くて苦くて目が回りそうです
南南西を目指してパーティを続けよう
世界中を驚かせてしまう夜になる
I feel 上々 連鎖になってリフレクション
goes on 一興去って一難去ってまた一興
↓
嬉しい時に歌って(高い音を歌って)
悲しい時と踊って(低い音と踊って)
音楽も、業界も、ライブも、人生も、何もかも
最高で最悪で展開が目まぐるしい
邪道でも好きな方向を目指してライブを続けよう
この音楽で、僕らが生きてる世界を驚かせてしまう夜になるよ
最高なこの気持ちは誰かに連鎖して
死ねない理由を映し出す
甘くて苦い日常が、また続いていく
締め
You got happiness, pharse and melodies ！
これはもう直訳で良いと思います。
どこで区切るかによって若干意味が変わりますが、斉藤さんの歌い方通りに区切ると上記のようになります。
訳:君は幸せを手に入れた。フレーズと音楽だよ。
総括
本当に好きなものを見失わずに楽しめば、
その中に死ねない理由が映し出されて、目が回りそうな日常が続いていく
総括するとシュガーソングとビターステップはこのような曲なのだと私は解釈しました。
ということで、私なりのシュガビタ解釈でした。
お読みいただきありがとうございます。
3分そこらの楽曲に何文字使ってるんですか？？って感じですよね。
でもそういうアーティストなんです彼らは。沼はとても深いですよ。
この曲は、曲の中での謎解き構成が最高なんです。
最初に謎を提示して、ラスサビ前で解答編、その後一気に伏線回収してエピローグに繋げるあたりが気持ちいい………って、推理小説の話してませんよ、曲の話です笑
考察がこんなに長くなったのは、この曲の単語や文がいくつもの重複した意味を持ってるからです。
けれど、こちらは血界戦線のタイアップ曲なのでこの考察の上に更に血界戦線のオマージュも散りばめられてるんですよね。
「超天変地異」「平和と見間違う」とか。
その辺全部削って、この長さ(1万4000字)。
「一般受けは気にせず邪道な方向にいくぞー！！」って曲が一番ファン層以外に浸透してのもまた面白い現象だなと思います。
ところで、曲中何度もライブに強い意識を向けているように彼らはライブでの生演奏&生歌技術がとにかく高いです、
ユニゾンってなかなか音楽番組には出ないのですが、メンバー曰く「3日に1日はライブしてる」というくらい彼らは現場にいます。
「演奏技術が高すぎる」というのは、ユニゾンのライブを観た人が口を揃えて言うことです。
あの最高難易度の歌詞を、音程を外さず完璧に歌いながら複雑なギターを弾きこなす斎藤宏介。
手数の多さと正確さで曲の基盤を絶対にブレさせないドラム鈴木貴雄。
暴れてるのに何故かちゃんと弾けてるし何故かコーラスも出来てる田淵智也。
性格も趣味もバラバラな３人は、各自の武器を研ぎ澄まして最高のライブパフォーマンスを見せます。
ユニゾンのライブ本当に最高なのでオススメです。
きっとあなたの世界が驚く夜になります。
おまけのエモポイント
ユニゾンの１ｓｔシングル、センチメンタルピリオドに、「高性能のヘッドホンなんで、世界の音も聞こえません」という歌詞があります。
この時、ヘッドホンをして、自分だけに好きな曲を聴かせて世界の音を聞かないフリをしていたいつかのステレオ少年(田淵智也氏)は、10年後にシュガーソングとビターステップというキラーチューンを引っさげて、世間と折り合い付けつつも、依然邪道な音楽で、カッコいいと思うやり方で、武道館公演1万5000人に向かって自分の音楽を鳴らしました。
熱い……………
少年漫画か…………？
ここまで読んでくださってありがとうございます。きっとシュガビタ聴きたくなったことでしょう。
シュガーソングとビターステップのライブ映像はこちら！
おまけのエモポイント〜20周年記念ライブを終えて〜
2024年7月24日、UNISON SQUARE GARDENは20周年を迎えました。
ライブ会場はもちろん、ロックバンドの聖地、日本武道館。
20年間ロックバンドと正面から向き合い続けてきた彼らが、全員健康で無事に、この場所でこの日を迎えられたことに、感謝と祝福で胸をいっぱいにしながら参加した記念ライブ724。(チケットは外れたので配信で)
敬具、結んでくれ
僕たちが正しくなくても
『Catch up, latency』
という歌詞で、20周年記念ライブは幕を開けました。
そして、ライブ後半の田淵智也氏のMC。
(問題があれば消します)
20年音楽をやってきた。
世界は変わらなかった。
世界が変わらないのはつまらなかった。
ロックバンド続けるのはすごく大変で、
それは「ロックバンドを諦めてもいい理由」になった。
誰にも見られないように、後ろを見た。
そうしたら君がいた。
「ついてきてくれ」と思った事はなかったけど、
後ろに君がいることが。こんなに嬉しいことだとは思わなかった
ロックバンドを諦めなくて良かった。
ありがとう。
ありがとう！
そしてこの直後の曲は、
ちゃんとこの足が選んだ答だから、見守ってて
『春が来てぼくら』
という歌詞で締められます。
私が勝手に行ったシュガビタの解釈ですが、このnoteの内容と20周年ライブの MCやセットリストがリンクしたな、と感じる瞬間が多く、
「シュガビタに込められた田淵智也さんの哲学を、思っていたよりも汲み取れていたのかもなぁ」と、答え合わせができたようで勝手に嬉しくなりました。
10周年で『シュガーソングとビターステップ』という手紙を田淵智也氏からいただいて
20周年の記念ライブのセットリストとMCから、また新しいお手紙をいただけたような気持ちになりました。
シュガビタについて自分なりに考えて、解釈noteを書いておいて本当に良かった。
私は今までもこれからも、きっとずっと、ユニゾンの、そして田淵さんの哲学に恋をし続けるんだろうな。
ライブの最後は、ギターボーカルの斎藤宏介さんからの
「ユニゾンが好きで好きで仕 たまらない」というあなたに、
僕から言葉を贈らせてください。
UNISON SQUARE GARDEN20周年、おめでとうございます！！
という言葉で、20周年記念ライブは終わりました。
本当に本当に、UNISON SQUARE GARDENが20年続いてくれてありがとう。
シュガビタの意訳まとめ
非日常な体験であるライブにも慣れて
日常だと錯覚するようになった
移り変わり激しい音楽業界に
揺さぶれる中で
見失えないものは何だ？
「みんなと同じ」を至上とする空気の中で
本心の優先順位が下がってないかい？
大嫌い、大好きをちゃんと表現しなきゃ
人形と変わらないよ
ライブ(または普段の)帰りの夜の道中をいく
嬉しそうだったり寂しそうだったり、
様々な感情の人達
そんな感情の起伏は音符となって五線譜を飛び回り
世の中に新しい歌とリズムが生まれる
嬉しい時に歌って/高い音に歌って
寂しい時に踊って/低い音と踊って
なにもかも展開が目まぐるしい
邪道でも好きな方向を目指してライブを続けよう
この音楽で世界中を驚かせてしまう夜になるよ
「一般受けする音楽とライブ」という音楽業界の正論
でも意に反して音楽性を変えた音楽は道具じゃないか？
「見捨てられないために」というのは
"自分の音楽"を捨てる事を正当化してくれないけど
ライブの後、感情の表し方が違っても
きっと受けた感動の大きさは変わらない
けれど感動を言葉にしようとすると
言葉が足りなくなってしまう
「最高だ」って歌って、
「幸せ」って踊って
死ねない理由をそこに映しだせ
楽しい時間が名残惜しくても、時計はいつもと同じ速さで時を刻んで明日がやってくる
けれど気持ちの切り替えができたなら
いつの日か ライブが下火になっても
いつの日か 「普遍的な一般受け」が無くなっても
歌とステップを感じて、本当に好きな音楽を見失わず鳴らすことが
僕たち(あるいは君)を、他の誰でもないと証明してくれる、Q.E.D！
嬉しい時に歌って/高い音に歌って
寂しい時に踊って/低い音と踊って
生きてく理由をそこに映しだせ
一般受けとは遠く離れたけれど
今ではその距離が誇らしい
世界中を驚かせるような僕らの音楽を鳴らし続けよう！
嬉しい時に歌って/高い音に歌って
寂しい時に踊って/低い音と踊って
なにもかも展開が目まぐるしい
邪道でも好きな方向を目指してライブを続けよう
大好きな音楽が、僕の生きている世界を驚かせてしまう夜になる
最高な僕のこの気持ちは人に連鎖して
死ねない理由を映し出す
一興も一難もある、甘くて苦い日常がまた続く
(君は幸せを手に入れた。フレーズと音楽をね)
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