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味覚とは〇〇。先輩の格言

コーヒーについて詳しくなり、少し天狗になっていた3年目に新たな上長のもと、様々な営業活動を行うこととなったのですが、この時私が先輩からご教授頂き、これまでの考えを改めることとなった格言についてのお話をさせていただきます。

新商品の提案開発

新部隊に配属になった私はとあるスーパー(小売店)にオリジナルコーヒー商品を提案するにあたり、従来までのgあたり1円の安価なコーヒーとは差別化を図ったgあたり2.5円ほどの高付加価値商品を提案することとなりました。高付加価とは言っても、商品設計で最も重要なことは「欠品しないこと」、「風味に安定性があるもの」、「なんらかの差別化が図れるもの」だと考えているので、当時このような経験や知識がなかった私は非常に時間を要しました。私はこれまでのマイルドブレンド、スペシャルブレンド、カフェオレブレンドといったブレンド品と差別化を図るべく、主要生産国のコーヒーを100%使用したシングルオリジンコーヒーを提案することとしました。

ひとつ目のダメだし

スーパーの売り場で主要生産国のコーヒーが飲める!というコンセプト自体は面白いと上長からの評価を得ましたが、gあたり¥2.5の販売価格設定が高すぎるとの指摘を受けました。

「スーパーのバイヤーに提案する材料としてはいいけど、最終的にそれを購入する消費者の気持ちになってないだろ?消費者は陳列棚を見て『ストレートコーヒーなのね』と興味をもつかもしれないが、普段の倍の料金設定ではまず手にとることさえ難しい。仮にバイヤーを上手いこと騙せたとしても、消費者は騙せないからあとあとバイヤーの信頼を失うぞ」

正論すぎて、ぐぅの音も出ませんでした。スーパー向けの商品提案はまず、消費者の購入動機を考え、その上でバイヤーを納得させなければ意味がなかったのです。あと、付け加えてこんなことも言われました。

お前の話は結論に至るまでがナゲーんだよ!いいか、俺たちがバイヤーを説得するように、バイヤーも商品を販売するにあたり上長や部下に商品の特徴を説明しなけりゃならない。スーパーのバイヤーとなったら扱うカテゴリーも多すぎてお前のような説明はしてらんない。もっと簡潔にしろ!

これまた衝撃を受けました。対企業間取引では購入権を持つバイヤーが社内で「購入するメリット」、「商品の魅力」を説明することも考えなくてはならない。つまりは「対消費者向けのメリット」と「対社内のメリット」の2つをバイヤーが説明できるようにしたうえで、商品提案を行うのが採用に繋げる近道だということを暗に教えていただきました。「この人そんなとこまで考えてるのか・・・!!」とアゴが外れそうになるくらい感激しました。

いいか!味覚は〇〇なんだよ!

提案するコーヒーのグレードを1ランク下げて、g当たり2.0円で200g商品で¥400円の販売価格にて提案を行うこととしました。この価格はあくまで最終販売価格なので、納品価格はおおよそこのようになります。

りゅうつう_アートボード 1

※上記はあくまで例です。もっと要求する問屋やスーパーはありますし、物量によってはもっと安いときもあります。

企画の第一次プレゼンは終了し、第二次として1週間後に試飲会を行うこととなりました。試飲会のテストとして、社内でコーヒー業務以外に携わる社員に一般消費者として試飲頂き、「美味しい!」「これならイケるね!」と上々の評価を頂きました。そこにふらっと上長が現れました。「な~にやってんだ?」という反応だったので、目的と内容を説明。「バーカ 意味ねぇよこんなの。良いコーヒー使ってんだから美味しいのは当たり前なんだよ。お前この試飲をわざわざバイヤーに出向いてもらって当日やるつもりじゃねぇだろうな。」

だ・・ダメなの?と困った顔をしていると、「これが美味しいのは当然。だって良いコーヒーなんだから。このスペックに対して普通のスペックのコーヒーを準備するとか、他社で売っている同レベルの商品と比較試飲しなきゃ自己満足で終わりだろ?ただ美味しいコーヒー出すだけならそのへんの喫茶店と一緒。試飲会でもなんでもねぇよ」と説明をうける。

「いいかもとしげ。味覚ってのは「比較」なんだよ!

「単体のコーヒーだけ飲んで『美味しい!』なんて誰でも言える。俺たちはそこに対して基準となるものを見つけてその差を説明して感じてもらえなきゃプロじゃないの。」と上長の流儀を説明をうけ、自分のいるレベルの低さに衝撃を受けました。コーヒーを普段から飲んでいて仕事としているからこそ、自分の味覚は信用してはいけない。嗜好品という人によって感じ方の違うものだから、先入観を取っ払って基準と比較をすることではじめて本来の価値を理解できるのだということをご教授頂きました。

試飲会では、提案する商品に対しての通常スペック、他社で販売している同スペックの商品を準備し、すべてご試飲頂いたうえで「さすがプロだよね。こんなにたくさんのコーヒー一度に飲んだこともないし、差が良く分かりました。準備するのも大変だったでしょ。この商品に対する本気度はとても感じたし販売してみよう」との評価を頂き、採用になりました。

終わりに

上長は私よりコーヒーに関係する業務に長く携わっており、その業務内容も非常に多岐に渡ることから、私の出会ったなかでもトップ3に入るほどのプロです。この後数年にわたり仕事を一緒に続けていくのですが、そのなかで非常に多くのことを学ばせていただきました。しかし、そのなかでもこの「味覚は比較」という自分への戒めを含めた格言が最も印象に残っているのでこのお話をさせていただきました。そしてこの経験を通じて、自分が開発した商品が採用となり、売り場に陳列され、お客様が手に取って頂いた時の感動が忘れられません。今でもこれをやりがいの一つとして商品開発に日々はげんでおります。


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