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映画「妖怪の孫」鑑賞

映画「妖怪の孫」がリバイバル上映されるというのをSNSで知り、見に行ってきた。昨年上映された際に気にはなっていたのだが、「妖怪の孫」というタイトルとインパクトのある岸信介の顔の予告編から、単に安倍元首相と祖父岸信介の関係を描いた映画なのかと思い、よく知られている話をわざわざ見に行くこともないと結局見なかったのだ。
実はもう一つ見なかった理由がある。本作の監督である内山監督の初映画監督作品「パンケーキを毒見する」でのアニメとその効果音があまり好みではなかったので気が乗らず、迷っているうちに上映が終わってしまったのだ。

本作は歴代最長の在任となった安倍晋三元首相がなぜ政権を長期間維持できたのか、彼が目指したものはなんだったのかについて問いかけている。
太平洋戦争時に重要閣僚であったことから戦後A級戦犯として巣鴨プリズンに3年半収容された後に不起訴となり、出所数年を経て首相となった昭和の妖怪岸信介。その孫である安倍晋三は実父安倍晋太郎よりも祖父岸信介から強い影響を受けたといわれていた。昭和の妖怪と呼ばれながら戦後日本の基礎をつくりあげた岸信介の孫、安倍晋三の政治、不祥事、スキャンダルについて章立てし、インタビューを交えて検証したドキュメンタリー映画である。

今回のリバイバル上映版では、冒頭に「今問われるべき負のレガシー」という新たな映像が追加されている。
さて、映画の内容はどうだったか。個人的にはかなり興味深い映画で何度も見返したいと思った。安倍元首相の政治の検証だけでなく、日本のジャーナリズム、メディアのあり方や弱い部分が海外ジャーナリストの視点から語られており、それが本質をついている。

最近のメディアは毎日オータニさんの様子を延々と流すか、天気、グルメ、旅行情報、あるいは生活に役立つ節約情報のようなどうでもいいようなことしか放送しない。2024年1月に能登で起きた震災で、被災地は復興支援があまりなされていないのか、5か月経つ今も被災時からほとんど変わらずまるで戦争で焼け出されたような様子がSNSで流れてくる。被災地の様子はマスメディアではほとんど放送していない。また、国会では国民生活に影響が大きい重要法案が閣議決定の後、次々と可決されていくが国会審議についてもほとんど報道しない。多くの国民はテレビや新聞で今日本で起こっている自分たちに影響があることを知ることができないのである。そんなニュース番組を果たして報道と呼べるのか。日本にジャーナリストはいるのかという疑問を多くの人が持っているのではないか。

海外ジャーナリストの日本メディアの分析は核心をついており、メディアに関わる人たちや今の日本のメディアにあきれている人たちは、この映画をみて考えてほしいと思う。

映画の中ではデモの様子も流れていた。安保闘争の際に大規模デモが行われていたのは記事になったりTVで映像が流れたりで知っているが、安倍政権の時にもデモをやっていたり国葬の際に実は大規模なデモが行われていたというのは本作で知った。国葬の時のTVでデモの様子は取り上げられていただろうか。私は人々が献花台に花を供えている映像はみたが、デモの映像は覚えていない。ほとんど報道されなかったのではないだろうか。

本作ではかなり古い時代の映像も交え、現在のデモや国会の映像も使い安倍政権について疑問を呈し検証しているが、実は安倍政権だけでなく現在日本が抱えている多くの問題に共通している根深い要因も見えてくる気がした。
今回だけではなく毎年リバイバル上映し、日本のジャーナリズムは生き返ったか、政治は国民のほうをしっかり向いているのかを検証するきっかけにするといいのではないだろうか。
アニメの部分は冗長に感じてもう少しテンポよく短めのほうがいいように思ったが、全体としてこれはとても良い映画であった。

リバイバル上映の機会にぜひとも多くの人に見てほしい。


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