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友人が語るロマンスに、僕はこの上なく美味しいお酒を飲む

忘年会に参加していた友人から、今年一番の失態を犯したとメッセージが入っていた。僕は今まで失態を演じ続けての41年だったので、所謂いわゆるその道のプロだ。僕も友人の立場なら、まず僕にその話を聞いて欲しいだろう。

僕は折を見て友人に連絡を取った。友人は僕の電話のコールに3秒で出た。僕の経験から言うと3秒という時間は、僕からのコールを待ち望んでいたと言っていいだろう。

だいたい僕が電話する女子はなぜか留守番電話だ。繋がった記憶がない。もはやそれが本当の番号かなんて確かめようもない。

そもそも今時、電話番号のやり取りなんてほとんど存在しないはずなのに大抵番号交換を言われる。困った世の中だ。

「やぁ。元気かい。先日君の旅行をまとめたばかりでその反響で忙しくてね。今度は何をしでかしたんだい?」

僕は努めて明るく対応した。そうすることで彼に落ち着いてもらうためだった。

「やっちまったんだ。今思い出しても恥ずかしい」

ポップと呼ばれる友人は、その日地元の商工会青年部の忘年会に参加していたという。

「落ち着けよポップ。君はだいたい最初からやらかすんだ。それはいつも通りだし、それに思い出さなくてもすでに恥ずかしい人生のはずだろ」

僕はまず冷静になるように、彼を落ち着かせた。

「ああ。そうだった。だからお前に連絡したんだった。恥ずかしさのトップモデルのお前に聞いて欲しかったんだ」

「トップモデル」との響きも捨てがたいと僕は感じていた。

「で、何をしたんだい」

ポップはこの日、レモンサワーで乾杯した。彼の軀はレモンサワーで出来ていると言ってもおかしくない。この日のレモンサワーも彼を充分に陽気にさせた。そもそも、大勢で集まる忘年会は久しぶりだった。街を少しでも活気ある街に戻そうと日々地元に根付き、働いている彼らが自分たちのために集まる会は充分語り飲むに値する。

僕はこの何年間か、彼らが街のために真剣に動いていたことを知っている。小さなイベントから大きな祭まで自分のお店の営業時間を減らしながら出店したり、休日を返上して参加しているのを見てきた。全員が「今やれることをやろう」と動いていた。そしてその振り返りとして、久しぶりに美味しいお酒を交わして語るのは良い時間だったのだろうと思う。

彼のレモンサワーが、彼をほどよく酔わせた頃に決められていたかのように一人の女性を紹介されたという。

「女性を紹介されたんだ。それはそれはすごく盛り上がったさ。とてもいい香りがして離れがたかった。地元の子でね、君のことももちろん知ってたよ」

僕のことを知っている女性が地元に存在することを知り、僕は今年は地元で年を越そうかと考えた。

「だんだん話をするにつれ、彼女の妖艶さがその日一番の時に、その子がミツオの姉弟だって分かったんだ」

ミツオとは私たちの同級生であり、ミツオの姉にあたる先輩は、当時の地元でも有名な可愛い子だと一瞬で記憶が甦ったので、僕はイライラして聞いていた。

「ポップくん。もう一度確認するが、それはちゃんと失態なんだろうな。もし仮にロマンスならここから先は聞きたくないんだ」

僕は、人のロマンスを聞きたいお年頃はすでに脱していたので念を押した。ロマンスはもう味わう側の人間でありたい。

「本当のロマンスなら、お前に話すワケがないから安心しろ。面白くてキレイな子でな。俺は次に繋げようとしたさ。だって俺たちと呑めたら最高だろ」

彼は本当に「最高」の使い方をよく分かっている。

「で、最後挨拶したんだ。『お姉さん今日は楽しかったです』ってな」

その対応は悪くないね。と僕は思っていた。

「そしたらな。『私は妹です』って言われたんだ。酔いで誤魔化すことも出来ずに誰もフォローもしてくれないで、一気に気まずくなり空気が変わったんだ」

なんてこった

人の話で鳥肌が立つほど面白いと感じたのは久しぶりだった。ミツオの姉ではなく、妹だとしたらかなりの年下だ。僕は怖くなりその先を聞くのに戸惑っていたのだが、もはや好奇心に抗えなかった。

「で、いくつ下だったっけ」

僕はそよ風のようにさりげなく聞いた。

「5つ」

 正直、10歳くらい下ならば、どうにでもネタになりそうだったが、40代の僕たちの5歳差という一番微妙な年齢差は、30代と40代を反復横跳びする。この失態に自分ならばどうするか考えていたが、答えは出なかったし出したくなかった。僕は『失態オブ・ザ・イヤー』の会場はどこですかと叫びながら探したくなっていた。

なんのはなしですか

「とりあえず書き残しておくさ。いつか対応策が見つかるかもしれないし、意外とここの皆はnoteの世界親切だ。きっと何かの解決に導いてくれるさ」

僕は、彼にそっと告げた。

「ああ。いつか振り返ろう」

いつもの通り同じセリフを繰り返す彼だが、彼は私の記事を読んだことはないし、この先も読むこともない。






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