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ゲーム分析:「リズム天国」はなぜ四人一組で踊るのか

なぞの四人組

「リズム天国」シリーズを遊んだことはあるだろうか。
大まかに言えばリズムに沿ってボタンを押してノリノリになるゲームである。
そんなリズム天国にはある不思議なお約束がある。
なぜか四人組でリズムにノるゲームが多いのである
四人の内の一人を操作し、残りの三人はプレイヤーとは特に関係なくリズムにノリ続ける。
そして、大抵のゲームではこいつらが合図をしてくれるとか、次のパートのお手本になるとか、そういうのは一切無い。
本当にただ一緒に踊ってるだけ。
なんなんだこいつら、なんのためにこのゲームにいるんだ?

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▲カエルが腰を振るゲーム。合図は赤いカエルが行う。

たくさんあるぞ四人組

こうした四人組のゲームはGBAの初代「リズム天国」から登場しており、特にWii版「みんなのリズム天国」ではかなりのバリエーションが存在している。

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▲四人組の一部を紹介。休符が難しい「エビおんど」

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▲「コロコロたんけん隊」

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▲GBA版の頃から登場している四人組。

ここまで四人にこだわる以上は、かならず理由が存在しているはずだ。
NPCと一緒にリズムを取る事は、ゲームの何をどう面白くしているのだろうか。

つんく♂の狙い

リズム天国シリーズは作曲家のつんく♂が企画・プロデュースしたことでも有名な作品だ。
そうした製作者に対してのインタビュー企画である社長が訊く『リズム天国 ゴールド』にはこんな記述がある。

つんく♂ 昔、ぼくが「太陽とシスコムーン」という
4人組のグループをつくったとき、……(中略)
みんなヘタッピだからこそ、いっしょになって
リズム感なり、グルーヴ感なりを出していくのが
おもしろかったりするんですけど。

聞き慣れない単語である「グルーヴ感」というものが出てきた。
これは一般的には高揚感や一体感、リズムの表現力を表すと解釈されることが多い。
「リズム天国」はタイトル通りリズム感を育てて遊ぶゲームだろう。
「社長が訊く」では「日本人のリズム感って、やりようによっては
もっともっとよくできる」という目的のもと制作されていたことが明かされており、シリーズを通してノリ感測定という機能も搭載されている。
全体として正確にリズムを刻むということを目的としたゲームなのだ。

しかしつんく♂がプレイヤーに対して、リズム感の他に「グルーヴ感」を味わわせたかったとしたら、それはどのようにゲームに反映すれば良いのだろうか。
その答えが「四人組」だったのだろう。
自分以外の三人はただいるだけの存在にもかかわらず、全員で一緒にリズムをとることによって高揚感を演出する事ができるのだ。
そのための最適な人数が四人なのだと、つんく♂は自身のプロデュース経験から感じていたのかもしれない。
実際に遊んでみると自分の操作するキャラだけがぴょこぴょこ先走ったりちょっと遅れたりする。
だからこそピッタリ一致できた時が気持ちがいいし、ズレているのも改めて見るとどこかユニークさを感じさせてまた面白い。

つんく♂ はい。あまりにも正確すぎると、
今度は味気ないんですよね。
やっぱり、タメたり、突っ込んだりするからこそ、味というか、陰翳(いんえい)というか抑揚というか、その人の持ち味みたいなものが出てくるので、そういうものは非常に大事なんです。

また、四人組のリズムゲームにはほぼ必ず共通の仕様がある。
それは、「リズムをハズすと隣の人にぶつかったりしてビミョーな顔をされる」というモノだ。
連続で失敗するともうボッコンボッコンぶつかるので隣の人に申し訳なくなってくる。
そうしたリアクションが返ってくるのがまた面白くて、他人の遊んでいるところを見ていると一人だけグチャグチャなリズム感の踊りに笑えたりする。

つんく♂ そうなんです。
誰しも、ある程度のルーティンリズムというか、
同じ周期でずっとループしているリズムというのを自分で持って生きているんです。
それをうまく活かしている人が「ノリ」のいい人で、そこから外れる人がドンくさい人なんです。
ただ、ドンくささというのは、すごく味になるので、一概に、こっちがよくてこっちがダメ、
という話ではない。

つんく♂はただリズム通りにボタンを押すだけの、リズム感を鍛えるだけのゲームにはしなかった。
彼は、演奏者やダンサーたちがリズムに乗る事の何が楽しかったのか、どうして楽しいのかまで考え、「リズム感」だけではなく「ノリ感」「グルーヴ感」も得られるようにデザインが行われた。
その結果としてリズム天国は音楽を表現する事、そのものの楽しさを味わえるように昇華されていたのである。

終わりに

「リズム天国」で音楽表現の楽しさを教える、ということを初めからつんく♂が意識していたかどうかは定かではない。
ただ、ゲームを作る過程で彼は任天堂のスタッフたちに「リズムに乗るとはどういう事なのか」を教える必要があった。
そのためにはなんとダンスレッスンまでも行なっていたのである。
まだゲームの形すら掴めていなかった頃のつんく♂やスタッフ達にとって、この体験こそが最初の「リズム天国」だったのではないだろうか。
リズムの取り方を教えて、そしてみんなで踊ってグルーヴを感じる。
この時に共有されたつんく♂の音楽の哲学そのものが、リズム天国には今もしっかりと根づいているのである。

大澤 ただ、とっても大きなヒントになったんです。
あの、いまはカエルのゲームとして
形になっているんですけど、あれの元になる考え方を、つんく♂さんが話してくださったんです。

岩田 あの、カエルが腰振るやつ?

大澤 そうです。

岩田 今朝、移動中にずっとそれをやってましたよ。

大澤 ・・・・・・難易度的には低くないんですけど
あれ、できたら・・・・・・すごく楽しいんです。

岩田 うん、うん、そうですね。

大澤 あれができたとき、「あ、つんく♂さんは、こういうことをおっしゃってたんだ」
ということですごく腑に落ちたんです。
そこで・・・・・・・・・・・・行けるかも? と。

竹内 よかった。

米 よかった、よかった。



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