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「授乳」は最初の「ご飯」

ひとことで「子どもにご飯を食べさせる」といっても、
ご飯の食べさせ方は実は何段階かにわけて考えた方が、
子どもへのかかわりが楽になります。
そして授乳はその一番はじめの段階。
ですが、授乳をちゃんと「ご飯」のひとつとして捉える意識が
どうにも薄いように感じています。
手づかみや食器をつかって形あるものを食べるという行為は、
シンプルに食事として捉えてもらいやすいですが、
おっぱいや哺乳瓶からミルクを飲むとなると、
どうもその認識が薄れるようです。

「ご飯」という行為は、
生き物にとって生命を維持する重要な活動のひとつです。
人間の赤ちゃんというのは、
自分でものをとって食べることはまだできなくて、
自分以外の誰かに与えてもらわなければいけない状態です。
まったくの無防備で、完全に誰かに頼り切った状態なのです。
だからこそ食事というのは、
食べ物を与えてくれる人に対して赤ちゃんが
「この人は自分を守ってくれる」
「この人は信頼できる」
「この人は自分の命をつないでくれる」
という信頼関係、愛着関係をしっかり結べる機会になるのです。

生命を維持する栄養摂取ももちろんですが、ただの栄養摂取ではない。
それが赤ちゃんにとっての「ご飯」なのです。
そして赤ちゃんにとってのこの最初の「ご飯」の機会が、授乳です。

まずは授乳も「ご飯」のうちのひとつと忘れないでいただくこと、
それが大切だと思っています。

では、この授乳のときに意識したいポイントってあるのでしょうか。
ConoCoでは、次の3つのことを意識するようにしています。
1. 授乳する場所を決める
2. 授乳するときには授乳に集中し、赤ちゃんの顔や様子を見る
3. 好みや成長の具合によってミルクや乳首をかえる

1つ目の授乳をする場所ですが、
ミルクは手軽にあげられるからといって、
ついつい色んな場所であげてしまいがちになります。
赤ちゃんを抱っこしてミルクを飲ませながら、
ついでに簡単な用事をササっとしに行ってしまったり…。

忙しい毎日の中、その気持ちもよくわかります。
ですが授乳は「ご飯」。
落ちついて、ゆったりと行いたいものです。

また、赤ちゃんに見通しをつけてあげるという意味でも、
授乳の場所を決めておくことはおすすめです。
決められた場所で授乳していると、
赤ちゃんも「この場所に行ったらミルクを飲むんだな」という見通しを持てるようになります。
見通しを持てると、
情緒が安定しますし、消化も良くなります。
なによりこうしてものの見通しを持つようになることは、
子どもが自分で考えて行動していくことの大きな助けになります。

2つ目は、授乳中は赤ちゃんの顔や様子を見てあげるということ。
「ミルクを飲ませながら携帯を見てもいいかどうか」という論争を
SNSなどでもよく目にします。
「そのくらいいいじゃない」という人もいれば、
「病院や助産師さんには赤ちゃんの顔を見てって指導される」という人もいます。

ちょっと想像してみてほしいのですが、
例えば自分が風邪などで寝込んで動けなくて、
誰かにご飯を食べさせてもらうとします。
そのときにTVを見ながらこちらの顔も見ずに口にものを入れられたら、
どういう気持ちになるでしょうか。
ちょっとイヤじゃないでしょうか。
なんだか大切に扱われていないような気がすると思うのです。

言葉にできないだけで、
大人が感じることは赤ちゃんだってちゃんと感じます。
やはり赤ちゃんも自分にとっての食事である授乳のときには、
ちゃんと自分に意識をむけておいてほしいはずです。
顔をあわせて、
「しっかり飲んでいるね」
「お腹が満たされて嬉しいね」と、
お互いに心を通わせあう。
自分は大切に扱われていると感じさせてあげる。
それこそが大人と赤ちゃんの間に強い信頼関係を結んでいくのです。
ご飯は栄養摂取のためだけではないというのは、
まさにこういうことなのです。

毎日何度もある授乳の機会、
すべてを全力で赤ちゃんだけと向き合って…と思うと、
息苦しくなってしまう気持ちもわかります。
たまには携帯やTVを見ることがあってもいいと思います。
でも、食事には心を通わせるという役割もあることを忘れず、
良いバランスで息抜きしていただきたいなと思います。

3つ目は「好みや成長の具合によってミルクや乳首をかえる」ことですが、これは2つ目にも深く関係します。
母乳だとまたちがってくるので
哺乳瓶でミルクをあげるときの話になるのですが、
授乳のときに赤ちゃんの顔や様子をしっかり見ていると、
赤ちゃんのミルクの好みや乳首を吸う力の成長などが
だんだんとわかってくるのです。

ミルクにはメーカーによる味のちがいもありますし、
赤ちゃんが飲みやすいと思う温度のちがいもあります。
熱めが好きな子もいれば、ぬるめが好きな子も。
哺乳瓶の乳首の感触もメーカーによってさまざまなので、
そこにも好みがあらわれます。

授乳のときにしっかりと様子を観察していると、
その子の好みがわかってきて、それに応えてあげることができます。
ミルクも乳首も自分の好みにあったものだと、
赤ちゃん自身が意欲的に飲むことができるのです。

また、口の力の成長も同様です。
赤ちゃんは生まれたときから
ずっと同じ力加減でミルクを飲むわけではありません。
最初は弱くてぎこちなかった乳首を吸う力も、
どんどん成長して強くなっていきます。
そのときに弱い力でもミルクが吸える新生児用の乳首を使っていると、
ひと吸いでガバッとミルクを吸いすぎてしまったり、
逆に頑張らなくても簡単にミルクが吸えてしまうので、
口腔内の発達が促されなかったりしてしまうのです。
それが吸い食べなどの嚥下や咀嚼の問題につながっていくので、
赤ちゃんの吸う力にあわせて乳首の種類をかえていくことは
とても重要です。
(ちなみに母乳だと、母体の方が赤ちゃんの成長にあわせておっぱいの出を変化させていくらしいです。人体の不思議!)

自分の発達にあった乳首で、自分の好みのミルクを、
自分で飲みたいと思って、自分の力で飲む。
一見シンプルにも思えるこうしたミルクを飲むという行為のつみかさねが、自分で行動しようという意欲や自信につながっていくのです。

最初にも言ったように、
授乳はどうにもその発達という面での意義や重要性を軽視されがちです。
ですがこうして書いてきたように、
人間としての根幹をつくっていく上での
大切な成長のはじめの部分を担っているのです。
授乳をちゃんと「ご飯」のひとつとして認識し、
その発達の面での重要性を理解しながら行えたらと思っています。


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