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新しい世界へ飛び込むための「 心のよりどころ 」

前回に引き続き、 ConoCoの保育手法、aibase保育の詳細を説明します。
aibase保育は保育をする上で大切にしたい6つのコンセプト「 accept 」「 individualize 」「 believe & wait 」
「 attachment 」「 socialize 」「 environment 」の頭文字を繋げた造語です。
今回は4番目の「 attachment 」をご紹介します。


チャレンジは安心できる存在があってこそできる


皆さんは仕事でまったくやったことのない未知のことに取りくまないといけないとき、どういう状態であればそれにチャレンジしやすいでしょうか。

だれにも相談できなかったり、苦労やしんどさを理解してもらえなかったり、なにかあっても助けてもらえない状況だったりしたら、どうでしょう。
チャレンジ自体しないか、したとしても本当にイヤイヤ…といった具合になるかもしれません。

人は、「 失敗しても大丈夫だよ 」「 ちゃんと見守っているよ 」「 いざとなったら助けるよ 」と言ってもらえるときこそ、前向きにチャレンジしていけるものです。

大人のわたしたちですらそうなのですから、これは子どもたちにとっても同様。同様というよりも、まだ大人のようにこの世界の見通しができていない子どもにとっては、もっともっと切実なことなのです。

「 attachment 」は「 新しい世界に飛びこむための 心のよりどころになる 」

振り返る赤ちゃん

赤ちゃんがなにか不安になったときや泣きそうなとき、とっさに親のすがたを探してふりかえるようなしぐさをするのを見たことがあるでしょうか。
これは未知のことに遭遇して動揺する心を、いつもお世話をしてくれる人の存在を確認することで落ちつかせようという赤ちゃんのすがたです。

さきほどの例のように、どこかに安心があるからこそ未知のことに立ち向かえる力が湧いてくるのです。

乳幼児期の子どもにとって、このようにだれか特定の人間のことを「 いざとなったら絶対的に頼れて安心できる存在 」と思えることを「 愛着 」といいます。
心理学の専門用語で「 attachment 」と呼ばれるものです。

aibase保育では、この「 attachment 」を「 accept 」「 individualize 」「 believe & wait 」に続く4番目、
「 新しい世界に飛びこむための 心のよりどころになる 」こととして重視しています。

そもそも「 attachment 」とは

母と子甘える

この「 愛着 」に関しては、ジョン・ボウルビィやメアリー・エインスワースによる研究が非常に有名ですし、日本でも研究されていて何冊か本も出ていますので、詳細な説明はそちらにゆずるとして、ここではごく簡単な説明だけしていきます。

まず、この「 愛着関係 」とはどのように築かれていくものなのでしょうか。

たとえば赤ちゃんはおなかがすいたときや、排泄をしてオムツが汚れきもちがわるいとき、それをどうにかしようと泣いて養育者に伝えます。怖さや不安を感じたときも、泣いて助けを求めます。
大人はそのたびに、赤ちゃんの要求に応えて、ミルクやご飯をあげたり、オムツをかえたり、あやしたりとお世話をします。お世話をするなかで、抱きしめたり、ふれあったり、スキンシップもたくさん生まれることでしょう。

これを毎日毎日、何度も何度もくりかえすうちに、だんだんと赤ちゃんのなかで「 この人は自分のことをいつもお世話してくれる 」「 この人は自分のことを無条件に大切にし、なにかあっても守ってくれる 」人だという認識ができはじめるのです。

これが「 愛着 」形成のはじまりです。


「 愛着関係 」はどうして大切なのか


ではこの「 愛着 」がどうして大切なのでしょうか。

それはこの「 愛着 」を育むための一連の流れを通して、「 人というものは信頼できるものなのだ 」という人への基本的な信頼感を、子どもに芽生えさせてあげることになるからです。

さらに、自分の働きかけにしっかりと、そして温かく応えてもらう経験をくりかえすことによって、自分の思いや考えを表現する意欲やコミュニケーションをとる意欲がうまれます。

そして、「 なにがあってもこの人がいるから大丈夫 」と思えることがその子の心のよりどころとなり、新たなことにチャレンジしようとする好奇心や積極性、ストレス耐性が育まれることになるのです。

つまり、「愛着関係」を築くことは、その子の人生を通してこの世界に前向きにかかわっていける前提を準備してあげることなのです。


aibase保育の a , i , b は「 attachment 」につながっている

向かい合う親子


ここまで aibase保育の紹介「 accept 」「 individualize 」「 believe & wait 」も読んできてくださった方は、もうおわかりになるでしょう。
aibase保育の最初の3つは、それぞれ一つひとつとしてもとても大切なことですが、すべてこの「 愛着 」、「 attachment 」の形成につながっているのです。

最近の「 attachment 」研究では、この「 愛着 」は特定の養育者とのあいだに築かれるもので、必ずしもその養育者が親だけというわけではないことがわかっています。
つまり、保育者も子どもと「 愛着関係 」をきずくことができるというわけです。

わたしが「 一斉保育 」、それもとくに乳児期の「 一斉保育 」が問題だなと思う理由はここにもあります。

特定の養育者とのあいだにうまく「 愛着 」が形成されなかったことによって起こる愛着障害の原因のひとつは、親代わりのような人間が何人もいて、入れ替わり立ち替わりお世話をすることによって、子どもがいったいだれを頼ったらいいのかわからなくなるという状況だともわかっているのです。

これはまさに乳児期の「 一斉保育 」の状態ともいえるのです。

愛着障害はその人の一生にわたって影響をおよぼす問題で、大人になってから満たされなかった「 愛着 」を補うことは、たいへんな労力を要することです。

ともすれば子どもが家庭よりも長い時間を過ごす可能性もある保育園。
だからこそ、毎日特定の保育者がひとりの子をにていねいにケアすることによって、両者にしっかりと「 愛着関係 」を築かせてあげることがとても重要だと思うのです。


最後に


心の発達というのは、体の発達と比べて目に見えてわかりやすいものではありません。

乳幼児期の「 愛着 」形成の結果がはっきりとでるのは、もしかしたら遠い将来のことかもしれません。
健全に充実感をもって生きていくなかで、そんなことは意識されないということだって往々にしてあると思います。

ですが、一人ひとりの子どもがこの世界を信頼しながら、失敗を恐れず意欲的にいろんなことにチャレンジして生きていける、そのゆるぎない土台をプレゼントするために、今日もわたしたちは aibaseを大切にしながら保育をしたいと思うのです。

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