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「演劇制作」という仕事について

私は大学時代に、
演劇サークルで「制作」の役目をしていました。

仕事としては、
公立ホールでの「制作」
演劇製作会社での「制作」
というポジションに就いていました。

そして多少なりとも、様々な「制作」さんの仕事を見たり聞いたりしてきました。

劇場でなにかしら公演を上演するにあたって、この「制作」という部門は必ず存在していて、公演パンフレットにも名前が記載してある場合がほとんどです。しかしあまりその実態は想像しにくいという方が多いのではないでしょうか。

私も実際自分でやってみるまで分からないことだらけでした。

親や友人に「どんな仕事してるの?」と聞かれたときに、あまりにも色々やる仕事で答え辛く、いつも「うーん」とにごしていました。

なので一度、自分が経験してきた舞台の「制作」という仕事について、私なりにまとめておこうと思います。

まず「舞台」と言っても、
演劇、ミュージカル、古典芸能、歌手やアイドルのコンサート、クラシック音楽や、バレエやダンスなどの舞踊公演 etc…。たくさん種類がありますが、ひとまずここでは、私自身がよく知っている

「演劇制作」

を主軸に書いていきます。
クラシックコンサートや伝統芸能も少しだけ見聞があるので、それはまた別の機会に触れようと思います。▶︎【別記事リンク】

ひとくちに「演劇制作」と言っても、それぞれの劇団やカンパニー、劇場によって、大なり小なりやることの幅が異なりますが、

ここではお金の動きに注目した上で、

  • 小劇場における制作

  • 商業演劇における制作

  • 劇場付きの制作

この3つに分けてお話ししていきます。

私は経験も短く、実際にやっていたのは下働きで、聞き齧りの知識がほとんどです。また会社や団体によってやり方は多岐に渡るので、以下に書いてあることが、全て正確ではありません。その点はご了承ください。

小劇場の制作

小劇場系の場合は、成り立ちとして学生演劇の系流である場合が多いので、その劇団における俳優業やスタッフ業のみで生活している割合も少なく、各々の「やりたい」気持ちから発生している場合が多いです。

この場合における制作は、仲間内で始めた劇団なら劇団員として参加していたり、小劇場の制作を専門として様々な劇団を渡り歩いているフリーランスの方も多いです。

こういった制作は具体的には、

  • 稽古場の確保から運営

  • 出演者や他スタッフのサポート

  • 様々な資料作成などバックヤードとしての仕事

  • 公演の宣伝。SNSやWEBの運営、チラシやプログラムの作成など。

  • チケットや売上の管理

  • その他会計業務。

  • 劇場入り後は、楽屋周りのケア。

  • 公演当日は、お客様対応劇場との調整

などなど。

小劇場の場合、役者もスタッフも主体的に参加している場合は、各々ができる範囲で業務を行うこともありますが、

要は、公演の上演中に舞台上にいる役者と、舞台袖や舞台裏で稼動しなければならないスタッフが、物理的に対応できないところを全て対応する
また稽古にがっつり参加しなければならない役者やスタッフが、時間的にできないことも全て対応する。というイメージでしょうか。

とはいえ、劇団ごとにルールも異なり、そもそも明確なルールや枠組みがなかったりもするので、役者や各スタッフが取りこぼしてしまう仕事や、突発的に起こった「誰がやろうか」という仕事も制作が拾っていくことになります。

まさに演劇におけるなんでも屋さん

周りがよく見えていて、様々なこと細かなことによく気がつき、てきぱきと仕事をこなしていくタイプの方が多いイメージです。

商業演劇の制作

これが商業演劇*になってくると、制作の仕事はどちらかというと、
企画・進行に寄ってきます。

*ここでは「商業演劇」=「客席数が数百人〜数千人規模の劇場での公演で、出演者やスタッフからの持ち出しがなく関係者全員にギャラや給料が支払われる」という意味とします

こうした規模の大きい商業演劇の制作は、莫大な予算が必要になるので演劇製作を「事業」として行なっている、以下のような企業の社員が行う場合がほとんどだと思います。

  • 演劇製作を主たる事業として行なっている企業

  • 劇場を所有し劇場運営の一環として製作事業も行なっている企業

  • 劇団からはじまり人気が出て法人化した企業

  • 芸能プロダクションから演劇製作部門が派生した会社

また規模が大きく業務量も多くなるため、特に忙しくなる稽古期間以降〜千秋楽までの現場スタッフとして「制作助手」という形で、制作業務をサポートする立場がいることもあります。(稽古場の運営が一番の仕事なので、稽古場の鍵の開け閉めはじめ様々な雑務を行います)
これも製作会社の若手社員だったり、あるいはフリーランスとして活躍する方もいます。

そして小劇場だと制作が担う業務も、制作とは別セクション・別の役職として切り分けて駆動することが多いです。

  • 宣伝まわり(チラシポスターの作成からメディア対応など)
    広報部などの「広報」「宣伝」担当

  • チケットの販売、団体客への営業
    営業部などの「営業」「販売」担当

  • 劇場周りやお客様対応、楽屋対応
    劇場側の専門スタッフ(客席案内やチケット窓口、楽屋番、清掃etc)

  • 稽古場〜劇場入り後の役者やスタッフの細かなケア
    →「演出部」「○○助手」と呼ばれる専門スタッフ

などなど。商業の場合、公演を作っていくある程度の型が決まっているので、それにはめ込んでいくイメージです。

すると制作は何をするのかというと、
進行(公演に関わる全てを束ね現場調整をしながら、経費の管理をする)がメインの仕事となってきます。

何より、きちんと利益を出す必要があるので「売れる商品(公演)を考える」という企画フェーズから携わります。利益から関係者へギャラを支払い、製作会社の社員には給料を支払わなければならないためです。

そのため商業演劇における制作は、プロデューサーと呼ばれる場合も多く、業務内容は下記のようになってきます。

  • 公演の企画立案。小説や漫画・海外作品などの原作となる作品を見つけてきたり、座頭となる看板俳優や、著名な先生をスタッフを起用してオリジナルで作品を作ったり。

  • 企画に沿った、各スタッフ(脚本家・演出家・舞台監督・美術家・音楽家・衣装デザイン・床山メイク・小道具・音響・照明 etc)の選定、オファー、契約。そして配役決め、オファー、契約

  • 全体のスケジュール管理。どの劇場でどの期間上演するのかから始まり、打ち合わせや稽古期間の設定、台本や音楽の制作スケジュール、各種演出プランの確認etc…

  • 広報部や営業部や劇場などの、他セクションとの確認調整

  • 稽古が始まると稽古場に常駐し進行・内容・プラン等に無理がないかを確認。

  • 利益がでるように経費の管理。経費オーバーになりそうな演出プランにならないようスタッフとは打ち合わせを重ね、出演者のギャラ交渉も行う。

商業でも、劇団の場合は企画の柱となるのは劇団代表となりますが、それでも経費と売上の管理をして「売れる」方向へ導いていくのが制作(プロデューサー)の役割です。
プロデューサーと言うと聞こえはいいですが、実際は、様々なポジションとの板挟みになりながら、その場ごとの最適解を導き出すのが仕事です。

また劇団公演でない場合、その公演限りのメンバーを集めて公演を作るので、演劇ではこれを「カンパニー」と呼ぶことが多いです。
この場合、より良いカンパニーを作るためにも、キャストやスタッフ同士の橋渡しを行うことも制作の重要な役所となります

ただし、上記のようなプロデューサー業務は、ベテラン制作が主として行い、その下で働く部下はそれを手伝いサポートする細かい現場仕事がほとんどです。

先に「制作助手」というポジションもあると説明しましたが、仕事内容に明確な切り分けはないので、「制作」と一口に言ってもかなり様々です。

劇場付きの制作

制作のもうひとつのパターンが、劇場付きの制作です。

劇場付きというのは、劇場やホールに常駐している意味で、その劇場の運営会社や団体に雇われている社員・職員の場合が多いです。

ツアー公演などで、それぞれの劇場ごとのチラシの、
主催】欄に「○○劇場」「○○ホール」と上演される劇場の名前が記載されることがあります。

これはほとんどの場合、その劇場がひとつのパッケージとして公演を購入しているので、その受け入れ体制を整えることが劇場付きの制作の仕事になります。

具体的には、

  • どの公演を自分の劇場で上演してもらうかを企画選定する。地域や劇場によって客層や好みが変わるので、自分の劇場に“合う”公演を選ぶ。

  • 人気公演に来てもらえるように劇団やカンパニーへ営業をする。この際、公演にかかる費用をどこまで劇場側が負担するかなども調整し契約する。

  • 実際に公演の受け入れが決まったら、劇場としてチケット販売を行う。必要があれば団体客への営業もかける。それに伴い宣伝広報を行う。

  • カンパニーの交通・宿泊・食事(お弁当やケータリング等)の手配

  • 表方(ロビーから客席まで)と裏方(舞台上)と、受け入れ側としてスタッフ体制を整え、劇場仕込み〜千秋楽までを運営する。

という流れです。
劇場によっては、これらが「企画営業」部門・「販売」部門・「広報宣伝」部門、などに担当が振り分けられる場合も多くあります。

ただ、やはり他の制作と違い特徴的なのは、劇場入りより以前の企画や稽古段階には大きく関わることがない、という点が挙げられます。

劇場として人気のある劇場で「ここでこの公演を上演させてください」とカンパニー側から売り込みにくるような場合は「うちではこういうのが売れやすいですよ」と多少内容に携わる場合もあるかと思いますが、それでも主として動いているのはカンパニー側(演劇製作会社)なので、あくまで劇場側として万全の体制を整えることが一番メインの業務となります。

この場合の制作は、カンパニー側の人間ではなく、劇場側の人間なので、公演のパンフレットなどに名前が載ることは少ないかもしれません。しかし劇場の求人では「制作」と書いて募集してあるところをよく見かけます。

ただし、自前の劇場で完全に一から公演を企画製作する場合もあります。あるいは、演劇製作会社と合同企画として製作する場合もあります。
これらの場合は、劇場側の制作も企画や稽古段階から参加します

補足として、劇場やホール側としては上記の【主催】公演以外に【貸館】という形で公演を上演する場合があります。公共ホールはこの場合の方が多いかもしれません。

これは公演をしたい人や団体が、上演場所としての劇場にお金を支払って「借りる」形態をとっています。イメージしやすいのが習い事の発表会などですが、商業であっても完全に貸館体制で行うこともあります。

この二つの特徴を劇場側の視点で整理すると、

  • 【主催】として公演に関われば、その公演の宣伝チケット販売も自分たちで責任をもってやる必要があるが、その分その劇場でのチケット売上が劇場側に入る
    →なのでチケットが売れれば儲けは大きいが、売れなければ儲けが減る

  • 【貸館】として貸すのみであれば、公演当日の現場対応を請け負うのみで、貸館料金をもらい、売上は原則として全てカンパニー(主催団体)に入る。その代わり、宣伝チケット販売に関して責任を持つ必要がない
    →もしもチケットが売れなくても貸館料金で儲けが出る

というような形です。
なので、貸館公演はあくまで貸館業務で別担当がおり、公演制作業務とは切り離される場合が一般的かと思います。

ただしこれもあくまで一例で、この主催と貸館の中間のような形で開催している公演もあったり、先にあげたように劇場が企画段階からがっつり関わる場合もあったりして様々です。

と。演劇制作とは一体何なのか、私なりにまとめてみました。
また別の機会に、他の切り口からこの舞台制作に関する話は続けていこうと思っています。

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